「アニメ化はビジネス、きっちり当てる」というスクウェア・エニックスのアニメビジネス


2月3日、デジタルハリウッド大学にて「アニメ・ビジネス・フォーラム+2011」が開催されました。副題として「アニメ・ビジネスの再構築、各社の戦略を斬る」とつけられている通り、参加した5社のアニメ・ビジネスについての戦略を語ってもらうフォーラムとなりました。

その中で、スクウェア・エニックスからはクロスメディア事業部の倉重プロデューサーが登場し、同社のアニメ戦略について語りました。雑誌を発行しアニメ原作も数多く持つ同社ですが、その方針は「アニメ化はビジネス」であり「スケール感をきっちり測って当てている」ことが説明されました。

詳細は以下から。
会場となった秋葉原ダイビル。


フォーラムは7階にあるデジタルハリウッド大学で行われました。


登壇したのは株式会社スクウェア・エニックス クロスメディア事業部クロスメディア部ジェネラルマネージャー兼プロデューサーの倉重宣之さん。プログラム名は「コミック出版社にとってのアニメ化効果」でした。

◆都条例問題について
まず、改正都条例の問題に触れた倉重さん。気になっているのは、都条例可決に関するプロセスと、東京国際アニメフェア(TAF)ボイコットの件が一緒くたに語られている事で、これは分けて考えるべきではないかと思っているそうです。都条例自体については、野放しが正しいという事はないが、だからといって規制という今回のプロセスについては感じるところがあるとのこと。一方、TAFへはスクウェア・エニックスは単独ブースを出展していたわけではなく、またコミック10社会にも参加していないので、今年出す出さないというものではないそうです。作品はそれぞれ製作委員会の共有物として提供するという形で考えているため、TAFへ出す・出さないについては、スクウェア・エニックス1社の独断でどうこうするものではないとのこと。


◆スクウェア・エニックス出版部門について
スクウェア・エニックスは出版部門人員が150名弱。そのコミックス売り上げは有名出版社ビッグスリーに続く第4位で、トップの出版社5社はそれぞれイニシャルだと「S、K、S、S(スクウェア・エニックス)、K」になり、この2つのアルファベットが何かいい効果があるのかも知れませんとのこと。

そんなスクウェア・エニックスが発行しているコミック雑誌は「月刊少年ガンガン」「月刊Gファンタジー」「ヤングガンガン」「月刊ガンガンJOKER」。ガンガンにはアニメタイトルとして累計5000万部を達成した「鋼の錬金術師」が9年間連載され、この作品はスクエニの金字塔になっているそうです。また、電撃文庫原作のアニメで共同出資している「とある魔術の禁書目録」はマンガ版を掲載。出版社の垣根を越えた作品となっています。

Gファンタジーには、この系統のジャンルでトップセールスを誇る「黒執事」が掲載されています。また、「PandoraHearts」など、ゴシック系で美麗な乙女向け作品が人気を集めているようです。


ヤングガンガンに掲載されている「セキレイ」は美少女お色気バトル作品で、「テレビ放送版とDVDではちょっと違うぞ」とのこと。「荒川アンダーザブリッジ」はアニメ化で大躍進した作品で、ヤングガンガンでは幅広いジャンルのアニメ化を実現しているとのこと。

月刊ガンガンJORKERからは、「夏のあらし!」というタイムリープものがアニメ化されています。

コミック雑誌ではありませんが、購読無料のWeb雑誌として「ガンガンONLINE」もあります。これは連載時は無料で、コミックスは通常の雑誌同様に発売し、「連載時に気に入った作品はコミックスを買ってください」というビジネスモデルになっています。


スクウェア・エニックスが出版社としてスタートした経緯は、もともとゲーム会社だったため発売しているゲームのガイド本や副読本を刊行するため、というのがあったそうです。これがあるとき、「ドラゴンクエスト4コマ劇場」という複数の漫画家さんで単行本化する企画をスタートしたところ飛ぶように売れ、このドラクエ4コマの漫画家さんを雑誌で漫画家デビューさせようということで少年ガンガンがスタートした、という流れなのだそうです。ちなみに、倉重さんも4コマ漫画の編集をしていた時期があったそうです。

◆スクエニとアニメの関わり
アニメとの関わりが始まったのは1992年。「南国少年パプワくん」がスクエニの初アニメ化作品だそうです。ゴールデンタイムでアニメをばんばん放送していた時期で、テレビ朝日土曜日19時半からの枠で丸2年放送され、平均視聴率は11%を超えていたとのこと。2001年に出版部門の編集長が変わり、同年に倉重さんがクロスメディア事業部を立ち上げたそうです。

2002年以降のスクウェア・エニックス原作アニメでは、まず2002年の「東京アンダーグラウンド」「スパイラル ~推理の絆~」がスマッシュヒット。翌年にパプワくんを再びアニメ化した「PAPUWA」と「鋼の錬金術師」がスタートして大ヒットとなりました。ハガレンは劇場版も作られ、「女性ファンのハガレンへの熱狂っぷりはすごいものがあった」と倉重さんは振り返りました。


2005年に作られた「まほらば」が、スクエニ初の深夜帯アニメだったそうです。このころから倉重さんは「作品を送り出す側も受け取る側も(パプワくんの時代と比べて)だいぶ変わったな」と感じるようになったそうです。


スクエニからの作品としては黒執事天体戦士サンレッドなどが好評のため2期まで制作される事になりましたが、スクエニではアニメ化の際に2期目を強要するようなことはないそうで、2期目が作られた作品はつまり視聴者に非常に愛された結果だと考えていいそうです。


2009年にはハガレンが再アニメ化。2010年にはアニメと原作が見事にマッチして、ほぼ同時期に終了を迎えました。このとき、原作の荒川弘さんがネームを描き上げるとすぐにそれをスタジオ(アニメーション制作のボンズ)に持ち込んで2日後にすぐにシナリオが作られるという流れがあったそうで、美しいエンディングを迎えられたことで、とても思い出深い作品になったとのこと。この頃の作品としては、「咲-Saki-」もなかなか好評だったようで、もしも同時期に強力なライバルの「けいおん!」がいなければもっともっと……と倉重さんはちょっと悔しげに語りました。


最近のスクエニは「とあるー」シリーズなど非原作のアニメ化作品への関わりも多く、現在放送中の作品だとノイタミナの「フラクタル」にも出資しているそうです。また、ハガレンの新劇場版である「鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星」が2011年7月2日に全国ロードショーとなります。


◆スクウェア・エニックスのアニメ化戦略
アニメ戦略の前に、出版業界の現状を語った倉重さん。そのデータによると市場規模はだんだんと減少しており、2009年の場合は前年比6.6%減、コミックスに限ってみても4年連続でダウンしているとのこと。


倉重さんは、原因については言及を避けましたが、事実として「雑誌は売れない」「気に入ったコミックだけを買う」というトレンドが定着した事を指摘。雑誌がカタログ状態になっていて、多くの出版社は原価割れで雑誌を発行し、単行本で勝負を賭けているのではないかと語りました。この勝負で上位の人気作品にしっかり稼いでもらう……そこで「アニメ」、となるわけです。

スクウェア・エニックスのように、原作を持つ出版社から見るとアニメというのはタイトルの宣伝ツール、最大の広告塔であるという見方は否めず、ハガレンの場合、アニメの放送前は15万部のヒット作でしたが、アニメ化によって150万部という大ヒット作になったそうです。スクエニの戦略は「アニメ化はビジネスである」ということを肝に銘じて進めており、アニメ化後にそのタイトルがどれだけの金額を生み出すのかを推定し、その上でアニメに投資する上限金額を算定しているとのこと。これまでにいくつもの作品をアニメ化した歴史があるため、その作品のスケール感をきっちり測定する事ができ、大きく外す事はないそうです。具体的には「8割9割ではきかないぐらいの打率」だとのこと。

アニメ化にあたっては「いい作品づくりに貢献する出版社でありたい」という倉重さん。原則的に、アニメの制作会社などと上下関係なくしっかり話し合い、時には原作者に裏設定資料を作ってもらったりしてしっかり信頼関係を形成して作品を作っていくそうで、その時にクロスメディア部は一方的に原作者の肩を持つのではなく、公平で中立的に仕事をこなしているようです。

また、アニメ化はチャンスなので「しっかり宣伝しよう」という意識も持っているそうです。スクエニと一緒にアニメを展開した人は「宣伝協力が素晴らしい」と口を揃えるそうですが、事実、スクエニは販促部隊が大活躍し、宣伝費を投じて立て看板やポスターなどを制作して書店においてもらうなどしているそうです。また、アニメPVも自社経費で制作し、1クールごとに内容を変えて誘導をかけているとのこと。


「利益誘導」「真摯な協力」「がっつりと宣伝する」というのがスクウェア・エニックスのアニメ3原則だそうで、さらに原作者がファンとともに培ってきたものを守りつつ「攻める」ということもやっているそうです。その上で、バランスよくオールハッピーなプロジェクトを目指している、とのことでした。


◆質疑応答
Q:
ニコニコ動画での反応が大きかった作品も多いですが、そこはどうでしょうか?

倉重:
「配信」というものに疑問があった時期もありますが、製作委員会で考えるようにして、どこまで見せるか、どこからはお金をもらうのかということを考えた上で、タイトルごとに関係者の総意を踏まえて行っています。

Q:
アニメとゲームに展開しやすい原作が多いように思いますが、原作の段階から考えてやっているのですか?

倉重:
よくこの質問を受けますが、一切しておりません。編集方針として、またクロスメディア部門が(アニメ化のために)介入することはありません。

Q:
すごく売れてるけど、ゲームやアニメにしづらい作品もあると思いますが。

倉重:
「漫画だからアニメになる」「アニメになればゲームにもなる」という感覚はなくて、「ゲームをやりたいです、売れると思います」という挙手があって初めてやっています。唯一の例外はハガレンで、あの作品はゲーム事業部と組んでしっかりとやりました。

Q:
当初の予想から外れて残念ながら効果の上がらなかったものなどもあると思いますが、成功の確率は?

倉重:
先ほど「8割9割」と言ったのはあくまで我が社の場合ですが、その単純な図式で言えば9割を超えていますね。

Q:
成功の要因はなんでしょうか?

倉重:
ひとつだけ正直に言うと、リスクヘッジをきっちりやるということですね。あとはもう、いろいろ恵まれているからですね、優秀なプロダクションだとか……。先ほど紹介したように、勝つために頑張っています、「いろいろなムーブメントを作る」ということで。

Q:
アニメがオリジナルのコミカライズについてはどうですか?

倉重:
さっきの「とあるー」とか、「STAR DRIVER 輝きのタクト」もそうですが、漫画で勝てるか、漫画でこのプロジェクトに勝てるか、ということを考えます。これを漫画に展開したときに面白い漫画ができるかがジャッジの基本になります。将来性については、我々としては一次原作、アニメを応援するという意味でのコミカライズというところはやっていきたいと思います。

Q:
スクエニではいろんなクロスメディアをされてきたと思いますが、アニメ化以外では何かありますか?

倉重:
私はアニメに特化してしまっているので専門外になるんですが、ドラクエやFFなどのマーチャンダイジングを担当する部隊もできています。以前展開していた「スターオーシャン」はコミックもやったしアニメもやったし、そういうトライアングルを築いたものもあります。ただ、「まず枠組みありき」という考え方は薄いです。

Q:
ガンガンONLINEの話がありましたが、電子書籍への対応は?

倉重:
ガンガンONLINEはそもそも発表の場がオンラインであるというころで(雑誌とは)枠組みが違いますが、携帯で読んでもらえるような展開はそれなりに力を入れております。日本国内ではまだまだで、国の世情やユーザーの動向を考えて、まず北米とフランスで配信を開始しました。今後、デジタル化は不可欠なものだと考えております。

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