今なお愛されるレトロなゲーム機「ピンボール」を修理できる数少ない職人が語るピンボールの現在
傾斜した台にボールを打ち出して得点を競う「ピンボール」は、かつては娯楽としてのゲームの主役とでもいうべき存在でした。今ではビデオゲームなどにすっかり主役の座を奪われた感のあるピンボールですが、レトロな雰囲気ゆえに一部で人気が再燃しており、故障したピンボールを修復する技術者不足が問題になるほどです。ニューヨークにたった二人しかいない、ピンボール修理職人に焦点を当てたムービー「The Pinball Doctors: The Last Arcade Technicians in NYC」が、ピンボールの現在の姿を切り取っています。
The Pinball Doctors: The Last Arcade Technicians in NYC - YouTube
アメリカ人なら誰もが知っている「ピンボール」
実はアメリカ発祥のゲームです。
ピンボールのケースを空けてのぞき込む男性は「ピンボールはアメリカ人にとってハンバーガーのように身近なものさ」と話します。
ピンボールの修理の99%は交換よりもエコノミーだとのこと。
「それは、修理をしなければ単なるガラクタということを意味するんだよ」と語るのは、ニューヨークでたった二人しかいないピンボール修理を行うマイク・フーカーさん。
私たちはゴミの社会に生きています。
テクノロジーが進化すると、旧来の物は捨てられ取り換えられます。
しかし、依然として修理・補修をして使い続けるという技術分野も中にはあります。ピンボールはまさにその技術分野です。
大昔に友人からピンボールをもらったフーカーさんは、自身が経営していた自動車整備工場の待合室にピンボールを置いたところ大好評を得たとのこと。ピンボールが故障したときに常連客は皆、大いに悲しんだそうです。
それがピンボールの修理を始めたキッカケだというフーカーさんは、カメラを修理現場に案内します。
地下にあるピンボール修理のための秘密基地。
ピンボールを修理する傍らで音楽を興じたり、テレビを見たりするとのこと。
ピンボール修理を思う存分できるスペースのようです。
なお、フーカーさんはピンボール以外の古いアーケードゲーム機も修理しています。
「人はピンボールを打つときのパルスを感じるんだけれど、これはアメリカの文化だよ」
長い歴史を持つピンボールは……
1970年代に全盛期を迎えたとのこと。
「1990年代に入るとすっかり廃れたよ。想像力を持つ人がすっかりいなくなったよ」
「人間はゲームを好むものだよ」
けれども、複雑な装置のために高価なピンボールは、故障すると修理するにも大金が必要で、ゲームビジネスとしては非常に難しいものだったとフーカーさんは話します。
「作るのも高価だし……」
「直すのも高価で、ゲームセンターはみんな音をあげちまったのさ」
ニューヨークのもう一人のピンボール・ドクターのジョン・エリックさん。
自身が経営するバーにずらりと並んだピンボールを前にして、「ピンボールはロードショーだよ」と話します。
エリックさんによると、ピンボールを素晴らしいものだと再認識する人が増えているそうです。
とはいえ、ピンボールが故障するのは日常茶飯事だとのこと。
「ほとんどのピンボール修理は、自宅訪問という形だよ」
「とても重くて持ち込めないからね」
故障したピンボールの電源を入れてチェックを始めたフーカーさん。
ボールが当たると得点が加算されるはずのターゲットを弾きますが……
得点はまったく加算されず。
盤面を開けるフーカーさん。
キャビネットは二重構造で、中にも開閉する板があります。ある部分を直そうと触ると他の部分が壊れる……という繰り返しで、修理には細心の注意が必要な模様。
「ほら、あそこに"500億本"もの配線が見えるだろう」と話すフーカーさん。ケーブルは非常にやっかいなパーツだそうです。
ケーブルが通電しているかどうかを細かくチェックしていきます。
断線している部分を発見できました。
次にするのはサービスマニュアルで配線図を調べる作業。
ほとんどのピンボールにはサービスマニュアルがあるので、構造をしっかりしらべて修理するそうです。
工具箱には修理用のツールがぎっしり。
断線した箇所をはんだ付けします。将来、修理する場合の参考になるようにと修理した箇所にはタグをつけておくとのこと。
「さて、どうかな」
動作しなかったターゲットは、見事に機能するようになりました。
「昨日はこのうち2台を修理したよ」と話すエリックさん。
比較的簡単に治せた理由を見せるために、店の奥へと進みます。
常に大量の修理用部品をストックしているとのこと。
ラバー部品
ライト
スイッチ
このヒューズは特定のターミナルにしか使えない専用品だとのこと。
故障に対応できるように常に大量の交換部品をストックしておくことが大切です。
「ピンボール業界に明るい未来はありますか?」という、少々いじわるな質問に対して……
フーカーさんは、「ピンボールマシンの価格は高騰し続けているよ。天井知らずだ。動かなくなったピンボールをそのまま無価値にしたくない人は、私のような修理屋に修理を依頼するだろうし、未来はあると思うよ」と答えています。
・関連記事
消えつつあるピンボールを救うべく開発された新たなピンボールマシン - GIGAZINE
ピンボールマシンはどうやって作られているのか?製造工場を直撃したムービーが公開中 - GIGAZINE
実際の建物をプレイ可能なピンボール台にする「URBAN FLIPPER」 - GIGAZINE
チャンピオンベルトを作らせたら右に出る者はいない「ベルト界のエース」、デイブ・ミリカンとは? - GIGAZINE
古いスニーカーを新品同様のオリジナル作品によみがえらせる弱冠20歳の「スニーカー専門Cobbler(靴修繕屋)」 - GIGAZINE
・関連コンテンツ