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イラストレーター・漫画家・ミュージシャンなどクリエイターがファンから直接「寄付」してもらえるパトロンモデルのプラットフォーム「Patreon」の物語

by Kelly Sikkema

「生計を立てたいと考えているアーティストやクリエイターは、すべからく利用するべき」と語られるほど、個人で活動しているクリエイターを支える手助けになっているプラットフォームが「Patreon」です。物作りをしている人が月ベースでファンから寄付を受けることが可能で、分配額も広告ベースのYouTubeとは異なり大きいので、収入を安定させやすいという点が特徴のPatreonですが、いったいどのような経緯で作られたのか、実際に利用している人はどれほどの収益を得ることができているのかなど、その内側に海外ニュースメディアのThe Vergeが迫っています。

Inside Patreon, the economic engine of internet culture - The Verge
https://www.theverge.com/2017/8/3/16084248/patreon-profile-jack-conte-crowdfunding-art-politics-culture

◆Patreonとは一体何なのか?
Patreonは2013年にスタートしたプラットフォーム。Patreonという名前からわかるように、中世ヨーロッパで芸術家たちを金銭的に援助したパトロンモデルを根本に据えたサービスを提供しています。

Patreonへは以下からアクセスできます。

Best way for artists and creators to get sustainable income and connect with fans | Patreon
https://www.patreon.com/


Explore Top Creators」というページを開くと、人気のクリエイター一覧を見ることができ……


「Video&Film」「Comics」「Podcasts」「Comedy」「Game」といったジャンルごとにクリエイターを見ることもできます。「Photography」をクリックしてみます。


クリエイターのリストが表示され……


見てみると、クリエイターたちにどれくらいパトロンがいるのか、月々にどれくらいの金額がパトロンから支払われているのかがわかるようになっていました。最もパトロンが多い「medievalpoc」というアカウントをクリック。


すると歴史の教師&ファンタジー作家であり、アート・歴史に関する作品を公開しているクリエイターのページが表示されました。「BECOME A PATRON」をクリックすると……


月額1ドルから自分の好きな金額をクリエイターに支払えるようになっていました。Patreaonの手数料である5%を抜いた額がクリエイターに支払われるのでYouTubeなどよりもずっと分配が多く、支払いを月ベースにできるのでクリエイターの収入が安定しやすいのが特徴です。なお、月固定のほかに作品を製作するごとに支払いが行われる形の設定もできます。


PatreonはクラウドファンディングプラットフォームのKickstarterのように、企業などを通さず、開発者・製造者がエンドユーザーから直接お金を集められるシステムになっていますが、Kickstarterのように「最終版のプロダクト」に出資するのではなく、より柔軟な寄付システムになっているのが特徴です。また、PatreonのCEOであるJack Conte氏によると、Patreonの目標は単なる「支払いサービス」に留まるのではなく、「クリエイティブな人々を育てる」ことにあるとのこと。「今から10年後、子どもたちが成長して高校や大学を卒業するようになったときに、『プロのクリエイターになることが可能』だと思えるようにしたいのです。文化を変えることを目指しています」とConte氏は語っています。

Conte氏はもともとミュージシャンでした。あるとき、3カ月かけて作った「Pedals」というミュージックビデオをYouTubeで公開したところ、1年で100万回も視聴されたにも関わらず、YouTubeの広告モデルでは収入が100ドル(約1万1000円)ほどしか得られなかったとのこと。


Conte氏が公開したミュージックビデオ「Pedals」が以下。SF映画のような作り込んだ作品になっています。

Pedals Music Video (featuring REAL robots) - Conte - YouTube


3カ月かけて1万円の収入を得ることしかできなかったConteさんは、「もしファンがミュージックビデオに対してお金を払い、直接アーティストを支援することに同意したら?そしてそれが他のミュージシャンたちも利用できる仕組みになったら?」と考えだし、元ルームメイトでありモバイル広告会社AdWhirlの創業者であるSam Yam氏に相談しました。その後、2カ月にわたってプラットフォームの開発が行われ、2013年5月にPatreonのアーリーバージョンが公開されます。

当初Conteさんは「誰かが1~2ドルは支払ってくれるのではないか」と予想していたのですが、予想に反し、数週間後にはConteさんは1つのミュージックビデオで4000ドル(約44万円)もの収入を得ることになります。パトロンの支払額は平均9ドル(約990円)でした。もちろん、対象となっているミュージックビデオはYouTubeで公開されたままなので、いくらでも無料で見ることができるのですが、特典としてパトロン限定のコンテンツや、ライブの際に優先的にチケットを購入できる権利をつけることで、多くの支援者を集めることができた様子。2017年現在、Patreonを活用するクリエイターは5万人にのぼっており、Patreonの仕組みが多くのクリエイターたちを支えることに成功しているのが見て取れます。Patreonがスタートするまでにも同じような仕組みのサービスは存在したのですが、Patreonは誰でも簡単に設定ができ、管理も容易であることが、サービスの成長につながったとのこと。

実際に、2013年にPatreonに登録したミュージシャンのPeter Hollens氏は、Patreonを始めるまでは収入が安定しなかったとのことですが、登録から4年たった現在、3600人ものファンのサポートを得て、月に2回、1万3000ドル(約140万円)の収入を得ることができるようになったとのこと。Hollens氏は「生計を立てたいと考えているアーティストやクリエイターは、すべからくPatreonを利用するべきです」と語っています。

◆Patreonで人気を集めてたくさんの支援を得るには?

by Eva Rinaldi

Patreonではサポートの特典として、高解像度の画像やムービーにアクセスできる権利がつけられることがよくあります。しかし、Patreonではただ単に「作品」に対するサポートが行われるのではなく、作品を作る「人」や「スタイル」「アイデア」に対してサポートが行われます。

そしてこの点が、Patreonで成功するクリエイターと、そうでないクリエイターを分けるカギになります。

ミュージシャンでありプロデューサーのMichael Aranda氏はPatreon上に287人のパトロンを持ち、月1460ドル(約16万円)をPatreonから得ています。Aranda氏は「Synema Studios」という制作会社やプライベートなビデオブログチャンネルを作っている人物ですが、Patreon上のプロジェクトの境界線を非常に明確に設定しているとのこと。つまり、YouTubeチャンネルの「CrashCourse」に対するサポーターはチャンネルが無料で公開し続けることができるように、という意味でお金を支払っていますが、よりプライベートなビデオブログに対してお金を払っている人は、Aranda氏とのインタラクティブなやりとりを求めているわけなので、Aranda氏は定期的にプライベートなマインクラフトサーバーに参加して、サポーターたちとゲームをするとのこと。コンテンツのために寄付をする人がどのようなモチベーションなのかを理解して、サポーターに合わせた特典をつけることが大切なわけです。

また、PatreonはKickstarterのように特定の「完成版のプロダクト」を約束するものではなく、より柔軟な形なので、プロジェクトが失敗しても大量に怒れる出資者を生み出すことが少ないとのこと。Kickstarterと異なり、1人あたりが支払う額が少額なのも、サポーターの怒りを収めるのに役立っているようです。

Patreon上で寄付の対象となるコンテンツは多岐にわたり、アダルト向けコンテンツに対しても寛大なので、インディーズでエロティックな作品を生み出すアーティストたちの助けになっているのもプラットフォームとしての特徴。もちろんジャンルによって人気・不人気があり、2017年現在、最も人気なのはポッドキャストやYouTubeムービーなどとのこと。ただし、Conte氏によると、成功しているアカウントはジャンルに関わらず、「ファンを愛し、ファンに愛されているクリエイター」が存在するアカウントだそうです。ポッドキャストやYouTubeチャンネルがコンテンツとして人気なのは、性質上ファンとのやりとりを得意とするからだというのがConte氏の見方。

◆クリエイターとファンとの新しい関係のあり方

by Crew

これまでの時代では、ハリウッドのセレブリティとファンの間に距離があったように、クリエイターとファンの間にも距離がありました。しかし、SNSやPatreonのようなプラットフォームの出現により、両者の距離は近づいています。オンラインで活動するクリエイターにとってこれは非常に大きな問題で、例えばコミックウェブサイト「The Oatmeal」を運営するMatthew Inman氏は2012年にクラウドファンディングで大きな成功を収めていますが、自身の運営するコミックサイトではコメント欄を設けていません。これは閲覧者とのやりとりに対してInman氏がストレスを感じているためとのこと。

もちろん、クリエイターとパトロンとの距離が近いことについて「生産的」と考える人も存在します。初期のころからPatreonを使用している映像作家のRebecca Watson氏は、「Patreonで誰かが私にリクエストをすると、それがインターネットにいる嫌なやつの発言ではなく、私をサポートしてくれている人の発言だとわかります」と語っており、Patreonが信頼できる閲覧者を見分けるために役立つと考えています。

また、既にお金を稼ぐ方法を確立しているクリエイターにとって、Patreonはソーシャルスペースではなく、単純にチップ入れのような働きをします。アーティストのArlin Ortiz氏にとってPatreonは収入をブーストさせるものであり、ファンとの関わりはあるものの、YouTubeチャンネルのホストとサポーターたちのように密な関係ではないとのこと。「みんな、ただ私の作るものが好きなんです。私がYouTubeに登場して人々と話すなんてこと、誰も望んでないと思いますよ」とOrtiz氏は語っています。

一方で、「パトロン」というアイデア自体を疑問に思う人も存在します。シンガーソングライターのMike Errico氏は、中世のアーティストはパトロンを怒らせれば首をはね飛ばされる可能性もあったということを示し、「私たちは今、バーチャルの世界に同じようなものを作っているのです」とパトロンモデルの問題点を指摘。もちろん、Patreonがミュージシャンたちに金銭的な分配をしているとErrico氏も認めていますが、パトロンがつくことで、クリエイターたちがリスクを取ったり自由な活動をしたりすることができなくなってしまうことを危惧しています。

◆「クリエイターにとって自由なプラットフォーム」の暗黒面

by Zach Baranowski

プラットフォームとしての自由度があだとなり、ヘイトスピーチが横行する側面もPatreonにはあります。サービスをスタートさせてから数年の間、Patreonにはマナーの悪い人々に対して一般的なガイドラインしかありませんでした。しかし、他のウェブサイトと同様に、これがあだとなってゲーマーゲート問題を引き起こしたようなアンチフェミニストたちに利用され、Patreonが「アーティストたちにとって友好的なスペース」ではなくなってしまったことがあったそうです。ゲーマーゲート問題とはゲームにおける女性蔑視の問題を訴えるメディア批評家Anita Sarkeesian氏が反対派とみられるネットユーザーから殺害予告を受けてイベントをキャンセルした一連の出来事のことで、のちにSarkeesian氏にフォーカスを当てた映画「The Sarkeesian Effect」が作られるまでになりました。

The Sarkeesian Effect: Inside the World of Social Justice Warriors on Vimeo


この時以降、Patreonには晒しやヘイトスピーチ、ハラスメントに関する禁止事項が追加されており、当時についてConte氏は「非常に厳しい立場に立たされました」と語っています。このようなPatreonにおけるヘイトスピーチの問題は依然として続いており、フェミニストのAnna Kreiderさんは、「Patreonがヘイトスピーチによってお金を集める人を止めようとしない限り、マイノリティや女性たちが『Patreonは女性やマイノリティといった軽視されている人を歓迎しているプラットフォームだ』と捉えることは不可能です」と語っています。

◆2億5000万ドル(約280億円)もの支払い額を生み出すPatreonのこれからのビジョン

by Ben Mortimer

わずか4年間でPatreonを利用するクリエイターが5万人になり、月間アクティブユーザー100万人以上、2017年にファンからアーティストに支払われる総額は2億5000万ドル(約280億円)にのぼると見られています。数字だけを見てもわかるように、Patreonがこれまで作り上げてきたシステムはクリエイターたちに大きな影響を与えました。しかし、Patreonは既にファンが存在するクリエイターがファンから金銭的な支援を受けられるようにするツールではありますが、「ファンを1から作り出す」ことには向いていません。Conte氏もこのことを認識しており、今後はファンがまだいないクリエイターたちでも資金を集めるような仕組みを作っていきたいと考えているようです。

一方で、Patreonは生まれたばかりのプラットフォームであり、多くのクリエイターを抱えているといっても、まだまだ認知度が足りないという問題もあります。広報活動の一環として、2016年にConte氏はPatreonにカニエ・ウェストを招待しましたが、これに対してアーティストのCreatrix Tiara氏は「カニエ・ウェストのようなスーパースターはPatreonのようなサービスを必要とせず、まだ成功していない有望な黒人アーティストたちはいるというのに、彼らを手助けするような試みをPatreonは行っていない」と指摘しました。Tiara氏によると、検索して調べてみるとPatreon上で高額の資金を集めているユーザーの多くが白人だそうです。Tiara氏は、「Patreonに広報活動は必要ありませんが、Patreonが理想を現実にするためには、サービスを支払いプラットフォーム以上のものにする必要があります」と語っています。

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