鈍化する中国経済成長を牽引する旗振り役は「産業用ロボット」市場の規模拡大にあり

「世界の工場」として急成長を続けてきた中国は、近年、労働者賃金の上昇に伴って経済成長に陰りが見え始めています。将来的にも高い成長率を維持するために、現在、中国ではロボット開発が盛んで、その主戦場は労働者を代替する産業用ロボットであると見られています。

China Aims to Retool Its Manufacturing Industry with Robots | MIT Technology Review
http://www.technologyreview.com/news/544201/china-wants-to-replace-millions-of-workers-with-robots/

2015年11月24日に中国・北京市で開催された中国初のロボットに関する国際的な経済フォーラム「2015世界ロボット会議」で、李源潮副主席が登壇し、習近平国家主席からのメッセージとして「ロボット技術が将来の経済の鍵を握っており最優先事項である」という趣旨の祝辞を述べました。国家のNo.1とNo.2のお墨付きを得たことで、中国の経済政策におけるロボット技術の重要性が内外に強く印象づけられることになりました。

2015世界ロボット会議では海外からのメーカーも多数出展し最新のロボット技術を展示。海外メーカーに負けじと中国国内のメーカーも数多く参戦しお掃除ロボやドローンや会話できるアシスタントロボットなどコンシューマー向けのロボットが披露したとのこと。しかし、国家が経済政策で重視しているロボットはこれらのコンシューマー向けロボットではなく、労働者の代わりに作業を行う「産業用のロボット」であると見られています。

中国経済の鍵を握る産業用ロボットの開発には2つのメリットがあると考えられています。1つ目は、単純作業を行う労働者をロボットに置き換えることで、生産性を高めたり、人件費の支出を抑制したりという直接的なメリットです。近年、中国全土で高騰する人件費を嫌って海外企業の資本流出が止まらない中国では労働コストの低減が必要で、その有力な解決策がロボットというわけです。2つ目のメリットは、ロボットによって置き換えられた人手を、サービス業などに振り分けることで産業振興を狙うというもの。ロボット産業の規模が拡大すれば、少なくともロボットの開発やメンテナンスなどで新たな雇用が生まれるのは確実で、ロボットの部品製造業を中心としてロボット関連産業も拡大することで、経済効果が波及する利点があると考えられています。

意外なことに、2013年に中国は産業用ロボットの輸入台数で世界一になり、さらに2018年には世界の産業用ロボットの3分の1以上のロボットを中国一国で稼働させるようになるという試算もある通り、すでにロボットの導入に関してはロボット大国に位置づけられそうです。特に注目すべき点は、産業用ロボットの導入を進める日本を含む先進国に比べると、労働者人口とロボット稼働台数の割合では中国は労働者過多の状態で、このことからも中国の潜在的なロボット市場は非常に有望と見られており、いずれ、輸入に頼らず自国で高度なロボットを製造することになると見られています。

2015世界ロボット会議には、現時点では先進諸国のメーカーにロボット開発技術で後れを取っている事実を認めつつも、いずれ来るロボットのオーバーホール(分解修理)の時期に技術力を高めるという狙いをもつ企業や、単に労働者を置き換えるのではなく労働者と共に生産性を高めるロボット技術の開発という「ハイブリッド式のロボット」の必要性を説く企業など、ロボット開発に乗り出す企業があふれていたとのこと。

中国政府はロボット産業十三五計画(第13次五カ年計画)を制定してロボットの研究開発を強力にサポートする計画で、中国電子学会は「2030年のロボットの世界シェア30％を中国製ロボットが占める」というロボット技術戦略を発表しています。