サイエンス

宇宙を形成する謎の超物質「暗黒物質(ダークマター)」とは?

By Maxwell Hamilton

人間が宇宙について知っていることは、実際に宇宙を構成するさまざまな要素のごく一部に過ぎません。未知のエネルギーや物質が宇宙にはあふれているわけですが、宇宙の約25%は「暗黒物質(ダークマター)」と呼ばれる謎の物質であるといわれています。

BBC - Earth - What is our Universe made of?
http://www.bbc.com/earth/story/20150824-what-is-the-universe-made-of


もしも宇宙人が存在しており人間の住む銀河系にやってきたとしても、人類に気付かないまま通り過ぎてしまう可能性はあります。宇宙は広大で、その中に浮かぶ惑星は非常に小さく、例えるならば地球は小さな青い点のようなもの。なので、宇宙人が小さな点のひとつに過ぎない地球やその周りをくるくる回っている月に気付かなかったとしてもムリはありません。また、宇宙空間には大量のスペースデブリが浮かんでいるので、その中から人間の暮らす地球をピンポイントで見つけ出す、というのも非常に困難なことです。しかし、ここに列挙した事実でさえ、宇宙を構成する要素のほんの一部にしか過ぎず、残りの要素はこれまで誰も見たことのないエネルギーであったり物質だったりが占めています。

人間が目で見ることのできる物質、例えば体や家、車、地球に至るまで全ては「原子」から成ります。この原子は「陽子」と「中性子」という2つの粒子により構成されており、原子の多くはさらに細かな粒子に分解することも可能です。

By Mrs Pugliano

物質を構成する単位である原子の存在に人間が気付いたのは20世紀初頭のことで、初めは「宇宙に存在する全ての物質の主成分を発見した」と考えられていました。しかし、1933年にスイスの天文学者であるフリッツ・ツビッキーが「宇宙のほとんどは何か他のもので形作られている」と初めてダークマターの存在を主張し、宇宙に存在する全ての物質が原子で構成されている、という考えを否定します。

ツビッキーは銀河団の中にある各銀河の明るさを測定することで星1つの明るさや質量を計算しました。そして計算の結果、観測可能な物質だけでは銀河を形成するのに十分な重力を得られないことを発見します。さらに、銀河がクルクル高速回転していることも観測しています。

これらのことから、ツビッキーは観測することはできないものの「銀河をひとまとめにしておくほど強力な引力を持つ何か」が存在することを確信します。ツビッキーはこの未知の物質は「dark(ダーク)」だと証言したそうですが、当時の科学者や天文学者はその主張を認めず、彼を奇人変人扱いしたそうです。


1970年代までツビッキーの主張はほとんど忘れ去られたままになっていたのですが、天文学者のヴェラ・ルービンが、地球から近い場所にある銀河が正しく回転していないことを発見、これは「銀河の回転曲線問題」と呼ばれるようになります。

太陽系ではとても単純なルールが適用されており、それは「太陽から遠い場所に浮かぶ惑星は重力が弱まり、惑星がとてもゆっくり動くことで、その軌道がとても長くなる」というもの。同じ理論が他の銀河にある惑星軌道にも当てはまり、中心から最も遠く離れた場所にある星は、重力が弱まりゆっくり動くと考えられていました。

しかし、ルービンが見つけた銀河では中心から最も離れた場所にある星がその他の星と同じくらい素早く動いていました。このようなスピードで回転するには、星が銀河から飛び出さないように何らかの力が働いていると考えるしかなく、この「何らかの力」の正体こそダークマターなのでは、と推察。そしてダークマターの存在が認められるようになります。そして現在、ほとんどの天文学者が宇宙を形作るものの基礎はダークマターであると考えています。

By garlandcannon

ダークマターは、我々がそれを直接目で見ることはできませんが、そこに存在することは知っているという点から、「風」に似ていると例えられることがあります。そんなダークマターは宇宙の25%を構成する物質であると考えられており、時には80%がダークマターで構成されているのではと言われます。なお、宇宙を構成する要素の30%は物質(5%が人間が認識している原子から成る物質で、残り25%がダークマター)で、残りは暗黒エネルギー(ダークエネルギー)だと考えられています。

1980年代までに、ダークマターが存在することを示す証拠となるデータは複数集まりました。例えば1981年、ハーバード大学のマーク・デイビス博士が率いる研究チームが最初の銀河調査を行い、その調査の中で銀河は一定の形にとどまらないことが判明します。さらに、銀河は何十万もの銀河同士が巨大な塊のように集まり、クモの巣のように巨大な構造をしていることも明らかとなり、この銀河同士を結び付けているのがダークマターであると考えられるようになりました。

また、1980年にVA・リュビモフ博士率いるロシアの研究チームが、他の何とも相互作用しない幽霊のような粒子であるニュートリノが「ダークマターの構成粒子である」と提唱します。リュビモフ博士の説明は「宇宙に存在する全てのニュートリノが結合しているとすれば、ダークマターの存在を説明できるかもしれない」というものでした。しかし、これには問題がありました。それは、ダークマターがニュートリノで構成されているとすれば、ニュートリノは光を放ち、素早く動くのでダークマターが「熱くなる」という点です。

フレンク博士が熱いダークマターが宇宙に存在する場合をシミュレートした結果、現在の宇宙のようにはならないことが判明。フレンク博士はこのことについて「我々をひどく失望させたのは、現実の宇宙には熱いダークマターなど存在しないということが分かったことだ」とコメントしています。ここから、コールドダークマター(冷たい暗黒物質)という言葉が誕生しています。

By NASA Goddard Space Flight Center

人間はダークマターを直接見ることができませんが、ダークマターが持つ「光を曲げる」という性質からその存在を認識することはできます。この現象はプールに差し込んだ光が回折する現象と少し似ており、「重力レンズ効果」と呼ばれています。この技術を応用し、科学者は宇宙のどこにダークマターが存在するのかを示す地図を作成しています。また、このチームは宇宙の8分の1をマッピングする、という野望を秘めているそうです。

なお、地球のある天の川銀河だけでも何十億という星が存在しており、宇宙の8分の1をマッピングするということは何百万という銀河を網羅することになる、とのこと。

By gianni

これだけさまざまな情報が存在するにもかかわらず、人間はダークマターに関して「だいたいの概要くらいしか理解できていない」と考えられており、実際にどのような物質なのかは全く分からないままです。いくつもの考えが提唱されてきましたが、現在最もポピュラーな考えは、「ダークマターは新種の粒子で構成されており、理論では予測できるもののまだ検知できていない」というもの。この新種の粒子は「Weakly Interacting Massive Particles(相互作用の弱い有限質量の粒子)」、略してWIMPsと呼ばれています。

WIMPsはかろうじて相互に作用する粒子で、通常の物質との作用も弱いものと考えられています。例えば壁にぶつかる際に手がこのWIMPsにぶつかったとすると、WIMPs粒子は手、もしくは壁をすり抜けてしまうという特性を持っているとのこと。さらに、WIMPsは大量に存在するにもかかわらず、必ずしも大きいとは限りません。それゆえ、陽子の何百倍も何千倍も重くなることができる、とのこと。さらに、特に重要な特性としては人間には認識できない、という点が挙げられます。

このWIMPsに造詣の深いノッティンガム大学のアン・グリーン教授は、「WIMPsはまず初めに『目に見えない物質である』と定義され、現在は『これらは検知不可能な新種の物質で構成されている』と定義されています。これはばかげています」と語っています。

By ▓▒░ TORLEY ░▒▓

1983年までさかのぼると、何人かの物理学者は「ダークマターなど存在しない」と主張し、これは万有引力の法則が間違っているからに違いないと指摘していました。さらに、万有引力の法則が間違っているので銀河が奇妙なものになってしまっている、とまで主張していたそうです。この考えは「Modified Newtonian Dynamics(修正ニュートン力学)」略してMONDと呼ばれるもので、「重力の法則が間違っているから得体の知れない物質を定義しなければいけない」とするものです。

この考えの問題点は「ダークマターの代わりとして考えられるようなものにはなっていない」という点。重力に関する新たな法則を唱えたいなら、アインシュタインよりもうまく全ての事象を説明する必要があり、さらにはダークマターに関しても同様に説明する必要があるので、これが非常に困難であることは明白です。

By David Stone

2006年、NASAはある写真を公開しました。この写真には2つの巨大な銀河団が衝突している様子が収められており、重力が存在すると考えられる中心部ではほとんどの物質がはっきり目視できるようになっていました。しかし、この写真の外縁部では光が重力によりねじ曲げられており、「これは何か未知の物質が存在し、これが光をねじ曲げている」ということを示しています。つまり、この写真はダークマターの存在を直接証明するものだとして、ダークマターを信じる科学者や天文学者たちから大いに歓迎されたというわけです。

実際、ダークマターを認識するための方法は3つあると考えられています。ひとつは「宇宙上でダークマターの作用を観察すること」です。ダークマターがどこに存在するのかを示した地図を使い、天文学者はダークマターが衝突するタイミングを今か今かとモニタリングするわけです。説明した通り、ダークマターは通常の物質を通り抜けてしまうわけですが、何千もの物質を通り抜けるうちにごくまれに原子核と衝突することがあります。このとき、原子核はプール上に浮かんだボールが蹴られた際のように跳ね返り、高エネルギーのガンマ線が生成されるので、これを観測するというわけ。

2014年にはNASAのフェルミガンマ線宇宙望遠鏡のデータを用いて、ダークマターと原子核の衝突により発生したガンマ線を検知したと研究者が主張したこともあります。この研究では銀河系で燃えるように光り輝くガンマ線は、「おそらくダークマターと原子核が衝突したことで生まれたものだ」と主張していました。これは論理モデルとして理にかなったものではあったのですが、ガンマ線がダークマターから発生したものなのかどうかを説明するには至っていないとのこと。

Fermi Galactic Center Zoom - YouTube


また、ダークマターを認識するための似た方法として「ダークマター同士の衝突を検知する」というものがあります。イギリスのダーラム大学に勤めるリチャード・マッシー教授の研究チームは、2つの銀河が激しくぶつかる瞬間を観測しました。研究チームは銀河に存在する全てのダークマターがあらゆるものを通り抜けていくと考えていたのですが、実際にはいくつかの物体が減速したことが観測できたそうです。これは暗黒物質同士が衝突したことを示す、とのこと。

しかし、「宇宙上でダークマターの作用を観察すること」と「ダークマター同士の衝突を検知すること」には難点があります。それは、銀河サイズのダークマター検出に関するデータはあまりにも巨大ですぎる、という点です。

By Pink Sherbet Photography

ダークマターを認識するためのより現実的な方法として、物理学者たちはスイス・ジュネーブにCERNが建造した大型ハドロン衝突型加速器(LHC)に期待しています。LHCは光に近い速度まで加速させた陽子同士をぶつけることで、高エネルギーでの素粒子反応を起こすことが可能な装置です。つまり、LHCを使用すれば亜原子の残骸を調査可能になるというわけです。

このLHCを使用した実験の過程で、「WIMPsのような未知の粒子を発見できるかもしれない」と語るのはキングス・カレッジ・ロンドンのマルコム・フェアーベン教授。フェアーベン教授によると、「もしもWIMPsがダークマターを構成しており、LHCを使ってこれを検知できたとすれば、宇宙を構成するダークマターが何でできているのかを知る絶好の機会になる」とのこと。しかし、当然のことながらWIMPsがダークマターの構成物質ではないならば、LHCを使ってダークマターを検知することはできません。また、LHCがダークマターを生成できたとしても、検知器にそれがひっかかることはありません。「代わりに、システムはひとつの方向に動く粒子の集まりを検知するかもしれませんが、他には何も検知しないでしょう」とフェアーベン教授。

By µµ

そしてダークマターを認識するための3つ目の方法というのが「地中への冒険」です。何十億というダークマター粒子が常に我々の世界をすり抜けており、「それはあなたの部屋や職場にも存在します。これらは秒間何十億というペースであなたの体を通過していますが、あなたは何も感じることができません」とフレンク博士。理論上、もしもダークマターと原子核が衝突していれば、放出されるガンマ線の光は検出できるはずです。問題なのは、放射線や宇宙線などのその他のエネルギーもダークマターのように物質をすり抜けていく、という点。

そこで重要になってくるのが地下実験というわけ。岩はほとんどの放射線をブロックしますが、おそらくダークマターはこれをすり抜けることができます。なので、地下実験がダークマターと原子核の衝突を検知するのには適しているかもしれないわけです。

しかし、これまでのところほとんどの物理学者が何の反応も検出できておらず、2015年8月にイタリアのダークマター検出プロジェクト「XENON」が公開した論文でも、ダークマターの検知に成功していないことが明かされています。

By Jon Vidar Sigurdsson

LHCあるいは地下実験で初めてダークマターを検出することに成功する可能生は十分にあります。しかし、1カ所でダークマターを見つけるだけでは十分ではないそうで、フェアーベン教授は「結局、我々は研究所で観察しているのと同じように、宇宙でもダークマターを検出できる方法を発見しなければいけないんです」とコメント。

ツビッキーがダークマターの存在を示唆してから80年が経過しましたが、現在のところ人間はダークマターを検出することもサンプルとして採取することもできていません。これは、人間が宇宙のことを完璧に理解するにはまだまだかかる、ということを端的に知らせてくれている指標なのかもしれません。

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