サイエンス

生命誕生の瞬間を再現するオーブントースターとは?


生命体がどのようにして誕生したのかは、いまだに解明されていない謎であり、地下のマグマで熱せられた熱水噴射孔という高温・高圧環境下で誕生したという説や、乾燥・湿潤を繰り返す過程で分子が結合・分解を繰り返して細胞が誕生したという説などがあります。後者の説を採るアメリカの科学者が、オーブントースターを使って生命誕生の謎解明に挑んでいます。

This Georgia Tech chemist is simulating the genesis of life in a $5 toaster oven
http://nautil.us/issue/27/dark-matter/the-dawn-of-life-in-a-5-toaster-oven

地球上で初めて生命が誕生したとき、どのようなことが起こったのかはいまだに明らかにはされていません。数億年前に非生命体の分子が結合したことで最初の生命体の細胞が誕生したと考えられていますが、最初に誕生した細胞が何かについて、説が分かれています。

By Umberto Salvagnin

生命体を、活動することで体を維持する機能である「代謝」と自分と同じものを作る機能である「自己複製」という2つの要素を備えたもの、と定義した場合、代謝をつかさどるのが「タンパク質」であり、自己複製をつかさどるのがDNARNAなどの「核酸」なので、このどちらが早く誕生したのかは「卵が先かニワトリが先か」という関係にあり、古くから論争が続いています。

1953年にスタンレー・ミラー博士がメタン、水(水蒸気)、アンモニアをフラスコに入れて電気放電を繰り返すことで、数日後にアミノ酸や塩基などの有機物が合成されることを発見しました。それまでアミノ酸などの有機物は生命体だけが作ることのできるものだと考えられていたことからミラー博士の発見は世界に大きな衝撃を与えました。その後、同様の方法を用いて遺伝子コードを構成する核酸の合成にも成功しています。

1980年代にトーマス・チェック氏とシドニー・アルトマン氏が、遺伝子情報を持つと同時にタンパク質のように化学反応を促進する触媒としての機能を持つ特殊なRNAを発見しました。このRNAはリボザイムと命名され、RNAが代謝と自己複製の両方を行えることが明らかになり、生命の起源がRNAから始まったとする仮説が生まれることになりました。

By CLS Research Office

RNAはヌクレオチドが結合してできていることからヌクレオチドが何らかの形で合成されたことが生命の起源であるという可能性が高まりましたが、ヌクレオチドは分子が単純に組み合わさって自然に発生したとは考えられないほど複雑な構造を持っています。しかし、2009年にジョン・サザーランド氏が、リボースという糖、塩基から2-アミノオキサゾールを経てヌクレオチドを生成することに成功しました。

ヌクレオチドの合成に成功したことから、さらにRNAを実験で生成することで、生命体誕生の秘密が解明されることが期待される中、この研究分野のトップランナーであるジョージア工科大学のニコラス・ハッド教授は、湿潤と乾燥、加熱と冷却というサイクルを繰り返すことで、生命体が誕生した環境を再現する研究を行っています。


ハッド教授が生命体誕生の環境を再現するために使っているのは、なんと5ドルで購入した中古のオーブントースターとのこと。オーブントースターの背面に穴を開け、中古のスキャナーから取り外したスライドテーブルを取り付けてトレーを出し入れできるように改造し、さらにはインクジェットプリンターのジェットノズルを組み込むことで、乾燥と湿潤、加熱と冷却というプロセスを繰り返せるようにしているそうです。


この自作オーブントースター装置は「day-night machine(昼夜マシン)」と名付けられ、ハッド教授と学生によって実際に実験に用いられています。ハッド教授によると、DNAを増幅するのに用いるPCR装置に比べて大きな物体をトレイに置くことができ、使える液体の量も大きいため利点があるとのこと。さらにPCR装置に比べてはるかに安く製造できるので、気兼ねなく学生の実験に取り入れることができ、大量の昼夜マシンを用意することで数多くの実験をこなすことができるそうです。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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