サイエンス

地球の生命の起源となる物質が発見される


「地球の最初の生命がどのように現れたのか」という疑問はいまだ解き明かされていない永遠のテーマの1つで、生命の起源に関する理論は123個もあるとされていたり、分子の動きをシミュレートするアルゴリズムで解明が試みられていたりと、さまざまなアプローチが行われています。アメリカにあるラトガーズ大学の研究チームが2023年3月に発表した内容では、地球上の最初の生命にとって動力となる「代謝」の起源がとある物質であると特定し、それが地球上で生命を引き起こした可能性があると示されています。

Design of a minimal di-nickel hydrogenase peptide
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abq1990

Scientists identify substance that may have sparked life on Earth
https://phys.org/news/2023-03-scientists-substance-life-earth.html

生命の起源に関する理論は多数あり、「生命の起源は稲妻で生まれた」とする実験や、「泥の中で生まれた」「湧き出る熱水から生まれた」などの生まれた場所や現象についての説もあります。一方で、生命に不可欠なタンパク質やDNAを起源とする考え方も主要な説となっており、「DNAとタンパク質の両方の合成に関わっているRNAが生命誕生のきっかけではないか」とするRNAワールド仮説のほか、「もっと単純な分子から始まった」としてタンパク質や生命を促進する代謝システムに注目した「代謝優先モデル」という仮説もあります。ラトガース大学の研究はこの「代謝優先モデル」に近く、代謝の起源となる単純な物質を発見したと研究チームは発表しています。

「生命の起源」に関する7つの理論 - GIGAZINE


科学ジャーナルのScience Advancesに掲載された論文によると、無酸素状態である原初の地球で生命が生きるための代謝プロセスには水素が必要で、水素ガスを活性化する効果のある酵素であるヒドロゲナーゼが生命の祖先と示す研究もあります。しかし、現存するヒドロゲナーゼは何百ものアミノ酸と複数の補因子からなる複雑な構成となっているため、研究チームはより小さくて単純な構成要素の物質があると仮定し、「ニッケルバック」と名付けた13のアミノ酸からなるニッケル結合ペプチドを設計して実験を行いました。その結果として、「生命の代謝に関わる現代の酵素は非常に複雑ですが、初期の地球では単純なペプチド前駆体であり、そこから進化した可能性が高い」と示されています。以下の画像はニッケルバックのモデルを他の天然酵素と比較したもので、左がヒドロゲナーゼ、中央がニッケルバック、右が大型で複雑なタンパク質のカルボン酸合成酵素(ACS)です。


研究者たちは、ニッケルを「初期の海洋に豊富に存在する金属」と考えており、ニッケルがペプチドと結合することで、ニッケル原子が触媒となって水素ガスを生成することにより、代謝を促進するための重要なエネルギー源である水素を初期の地球でも豊富に発生させることができたと考えています。

ラトガース大学で先端バイオテクノロジーおよび医学センターの研究者を務めるヴィカス・ナンダ氏は、この研究について「科学者の中では、35億年から38億年前のどこかでターニングポイントがあったと考えられています。このポイントで、生命の前の分子に関するプレバイオティクス科学から、生物学的システムへの変化が開始したのです。この変化が、古代の代謝反応で重要な役割を持つ小さなペプチド前駆体によって引き起こされたと考えられます」と説明しています。


この研究はラドガーズ大学が率いるチームとNASAの宇宙生物学プログラムが協力して実行されており、NASAの科学者は宇宙にある新たな生命体の兆候を示す「バイオシグネチャー」を探しています。2020年11月にはNASAの科学者の科学者チームが土星の衛星「タイタン」に「生命を形成する可能性がある炭素化合物」をバイオシグネチャーとして発見したことが発表されています。ナンダ氏によると、ニッケルバックのようなペプチドも、生命が誕生する惑星を検出するためのバイオシグネチャーになる可能性があるため、「この研究は、地球外生命体の探索に重要な意味を持っています」とナンダ氏は述べています。

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またナンダ氏は、「生命の起源については多くの理論がありますが、これらのアイデアを実際の実験室でテストした例はほとんどありません。この研究は、単純なタンパク質の代謝酵素が存在し得るということだけではなく、それらが非常に安定しており、非常に活性であることを示しており、生命の出発点としてもっともらしい説明となっています」と研究の意義について主張しています。また、ニッケルバックを初めとした金属ペプチドが、酸化還元反応などの多くの反応で触媒となる可能性を調査することにより、主要な古代の代謝反応ネットワークについて、ペプチドの起源をいくつも解明できることが期待されています。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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