旅に出てから知ったイラン・トルコ・アラブ諸国とイスラムについて
チャイ(お茶)を飲みながら甘いモノをつまみつつ、おしゃべりに興じる姿。街の喫茶店はおじさんのたまり場でした。フランスの首都パリで起きた週刊誌「シャルリー・エブド」襲撃事件や、いわゆるイスラム国による日本人人質殺害事件など、過激なニュースばかり流れてきますが、イスラム世界の日常は、実に穏やかだったりします。彼らは猫に優しかったり……。
こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。アルジェリア、リビア、サウジアラビアあたりはビザの取得が難しいので、区切り区切りになりますがイラン、トルコ、アラブ諸国を旅してきました。何かと世界を騒がす場所ですが、実際に足を踏み入れないと、見えてこない事実もあります。
◆みんなアラブ人というわけではなかった
旅に出る前は、北アフリカから中東にかけてのムスリム(イスラム教徒)の国家について、明確な区別がつきませんでした。実際に旅をすれば、イランはペルシア人、トルコはトルコ人、アラブ諸国にアラブ人と民族の境界がはっきりします。かといって身体的特徴があったかと訊かれても、私では判別がつきません。私が旅先でも日本人、韓国人、中国人とだいたい見分けられるように、現地の人たちだと判別がつくかもしれませんが……。
イラン(ペルシア人)
トルコ(トルコ人)
ヨルダン(アラブ人)
トルコとイランにはヨーロッパの人と見間違う人たちもいました。一方で、私が抱くアラブ人のイメージである、褐色の肌でくっきりと太い眉毛にモジャモジャの濃いヒゲの人たちも暮らしています。ではアラブ諸国はどうかといえば、エジプトやモロッコは私のイメージに近い人たちが多かったのですが、ヨルダンでは思わず英語で話しかけてしまいそうな人もいて、アラブ人とは何なのかさっぱり分からなくなりました。西アフリカをモーリタニアまで南下した時には、更に肌の濃い人たちばかりでしたし。
女性は目鼻立ちがはっきりした顔立ちをしています。こちらもギリシアやイタリアといったラテン系のヨーロッパの人たちに近いと思いました。
◆話されている言葉と、使われている文字
日本も含めて、東アジアや東南アジアではそれぞれの国の言葉以外を話す必要がありません。私が現地を旅行中も、中国語なりタイ語なり現地の言葉覚えていました。トルコではトルコ語、イランではペルシア語を覚えて使っていました。
これが、アラブ首長国連邦やヨルダンだと英語、モロッコやチュニジアだとフランス語のように、旧宗主国の言語で会話ができたので、アラブ諸国ではアラビア語を覚えることがありませんでした。2か国語を自由に操ることができる彼らを尊敬する一方で、言葉が壁とならない現状は経済発展を阻害する要因にもみえます。オスマン帝国崩壊の際に起きた、ヨーロッパ列強による分割統治は、西洋を敵視しかねない土壌を育んでいると感じました。
南アジアから出稼ぎの人も多いオマーンは、アラビア語と英語の併記が多かったです。
チュニジアで発行されていたフランス語による雑誌。
トルコはアルファベットですが、イランはペルシア文字、アラブ諸国はアラビア文字が使われていました。波を打ったようなペルシア文字とアラビア文字は解読不可能で、これだけしか表記がないと困ります。文章も右から左へと書いていくので、日本人からすると奇妙な感覚です。
何を言っているのか見当がつかないマクドナルドのドナルドたち。
文字だけではなく、数字の表記も独特です。
日本のように、ペルシア文字、アラビア文字には書道が存在していて、芸術とも呼べる作品には、息を飲むほどでした。
◆イスラム教を信じる人たち
イスラム教は東南アジア、南アジア、中央アジア、西アジア、北アフリカ、バルカン半島にまたがる広大な地域で信仰されています。玉ねぎの形をしたドーム状の屋根をもつモスクが目に入り、一日5回の礼拝の知らせるアザーンが耳に入ると、イスラム圏にやって来たと実感。礼拝の際にひれ伏して頭を地面につける姿は、彼らの生と死への答えでもあって、未だ答えが出ない私からしては、人生への問いかけを受けるようでした。
青色のドームが目を惹くヨルダンのキング・アブドゥッラー・モスク。
アラブ首長国連邦のドバイにもあったモスク。
トルコのイスタンブールを代表するスルタンアフメト・モスクは、見惚れてしまうほどの美しさ。
ムスリムは礼拝の前に手足を清めないといけないので、モスクにはこのような洗い場が設けられています。日本の神社でお参りする際に、柄杓で手を洗い口をゆすぐ作法と似ていました。
このようなことからイスラム圏の宿では、トイレ・シャワー共同の安宿であっても、部屋に洗面台が付いていたりします。
毎日のお祈りのために設けられた空港の祈祷室。
全身真っ黒な服装での外出が義務付けられているサウジアラビアから、政教分離が徹底していてスカーフの必要もないトルコまで、女性への対応も国によって千差万別。チュニジアの制汗剤の広告看板は女性の脇がくっきり映っていて衝撃的でした。車の運転も自由な国が多く、スカーフ女子がおっかなびっくりで教習車のハンドルを握る様子は見ていて和みます。
全身を黒いチャドルで覆ったイランの女性たち。
スカーフも色鮮やかなチュニジアにおける女子会の現場。
◆パレスチナという国家
ユダヤ人によって作られたイスラエルという国家を巡っては、建国から随分と歳月が流れたのにも関わらず、昨年行われたガザ侵攻も含めて、今なお争いが絶えません。そのイスラエルの占領地域で過ごすアラブ系の人たちがパレスチナ人という認識でした。ただ、現地を訪れてみるとイスラエルの国でも、アラブ人の人たちは暮らしています。それも、イスラエル人として。イスラエルではヘブライ語だけではなく、アラビア語の表記も普通でした。
丘の上に建つエルサレムの住宅。
ユダヤ教徒の聖地「嘆きの壁」とイスラム教徒の聖地「岩のドーム」が共存するエルサレム。
そして、日本が承認してないからこそ、認識していなかったのですが、国連加盟国の135カ国はパレスチナを国家として認めています。パレスチナの暫定首都といわれるラマッラでビザを取得しにヨルダン大使館を訪れた際に、一国家としての扱いに気づきました。日本はパレスチナに大使館ではなく「在ラマッラ出張駐在官事務所(在ラマッラ日本政府代表事務所)」を設置しています。
ヨルダンを始め、アラブ諸国やアフリカ、アジア、中南米のほとんどの国はパレスチナを国家として承認する一方で、アメリカ、カナダ、オーストラリア、欧州諸国、日本、韓国といわゆる先進国と呼ばれる国ほどパレスチナを国家として認めていません。パレスチナの国家承認はウィキペディアの「International recognition of the State of Palestine」というページにまとめられています。
こちらも丘の上に広がるラマッラの街なみ。
活気ある中心街。
イスラム教徒が多数を占める場所だというのに、普通にクリスマスを祝っていて驚きました。
分離壁撤廃を訴えるポスター。平穏な日常が営まれている傍らで、イスラエルに対する敵意も見受けられます。
◆ケバブとチャイのある国
イランも、アラブ諸国も、トルコ系民族が興したオスマン帝国の支配下にあったことから、食文化に共通点が多いです。一口大に切ったお肉を串に刺して焼いた料理であるケバブは、たくさんの国の食堂で、注文することができました。主食であるパンやナンを千切って、ケバブのお肉を包んで頂きます。
モロッコで口にした串焼きのケバブ。
イランの食堂で食べた棒状にしたハンバーグみたいなケバブ。
キプロスのトルコ人居住地域のレストランで食べたケバブは肉に野菜に、実にバランスが取れていました。
ヨルダンのローカル食堂に出てきたフール(豆)とパン。
エジプトのダハブにあるレストランで振る舞ってくれるパンは絶品。焼きたてホカホカで外はパリっと中はふっくらしています。
そして、彼らはよくチャイ(お茶)を飲みます。世界のお茶消費量におけるトップ10の8カ国がイスラム地域です。この理由は、イスラム教の戒律によって飲酒が禁止されているからでしょう。街角の喫茶店では、チャイグラスを片手に談笑する男性の姿がばかりが目立ちます。宿が見つからなかったヨルダンではホームステイをさせてもらったのですが、その時の夕食にもチャイが一緒に出てきました。グラスが空になりそうになると次々と新しいお茶を注いでくれる様子は、日本で誰かと飲むビールに似ていて、とても面白かったです。トルコだと街中をチャイの売り子が、お盆にグラスを載せて歩き回っています。
モロッコの喫茶店で出てきたチャイ。
日本にもあるような小さなやかんが出てきたのはエジプトのレストラン。
くびれている箇所が手にフィットする、トルコでよく見かけるチャイグラス。
イスタンブールの街中に掲げられたお茶の広告。
このチャイ文化もあって、一帯では甘いお菓子が豊富です。市場を歩くと、日本の和菓子のような伝統的なお菓子が飛び込んできます。チャイを飲みながら、甘いお菓子に舌鼓を打つのです。
モロッコで手に入れたミニケーキ。
ヨルダンの首都アンマンで滞在した宿の近くにあったスイーツ屋には、行列を作る男たちの熱い姿がありました。
たっぷりと砂糖を使ったお菓子ですが、中でチーズがトローッと溶けています。甘さだけでなく深みもある絶妙な味で、人気の理由も分かる気がしました。
◆そして、猫が大好き
イスラム教を開いたムハンマドが猫を大事にしていたという伝承から、アラブの国々では猫の姿をよく見かけます。「世界一周の旅先で見かけた癒される猫の写真44枚」の記事でも紹介したのですが、チュニジアは猫だらけでした。トルコも潮風が吹き抜ける港町イスタンブールには、たくさんの猫がいるので癒されます。
インディー・ジョーンズのロケ地として有名なペトラの遺跡をみつめる猫。
エジプトのシナイ半島にも猫がいました。何か食べていたら駆け寄って「ニャーニャー」と餌をねだってきます。エジプト神話にはバステトと呼ばれる猫の神様もいるようですので、首都カイロも楽しみにしています。
冬のイスタンブールにいた猫はまるまると太った愉快な姿でした。猫は冬になると脂肪を蓄えて、寒さを乗り切るというお話です。
親日的な国が多いとも言われますがイラン、トルコ、アラブ諸国では、東洋人を馬鹿にしているようで、歩いてるだけで不快になる経験が何度もありました。そして外国人であれば騙してもいいと考えているのか、ボラれることも多かったです。缶ジュース一つ買うにしても、外国人と現地人では値段が違うのが当たり前。つい最近まで居たヨルダンでは、人間不信になりかけました。
一方で、旅人に親切にしてくれるのも事実。一帯では何度も食事をご馳走になったり、何度も家に泊めてもらいました。見知らぬ旅人を信頼して家に招き入れる行為は、見方を変えると危険と隣り合わせ。だからこそ、お世話になったことは忘れることはできません。旅を終えた後には、報告書を送らないといけない人たちが何人もいます。
たくさんのニュースが飛び込んできますが、私が見てきた事実も伝えたかったので、イラン、トルコ、アラブ諸国をまとめた記事を書いてみました。
(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak)
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