取材

純度100%の真っ暗闇の中で非日常の世界とコミュニケーションを体験する「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」


人間は視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という五感で物事を感じていますが、多くの場合はなぜかビジュアル的な要素「視覚」に頼り切って物事を認識してしまいます。その視覚を奪われた時、人は物事をどう感じることができるのか?というある意味特殊な体験をできるのが「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。純度100%の暗闇の中で8人1グループになってアテンド(視覚障害者)のサポートのもとさまざまな体験を行うソーシャル・エンターテイメントです。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク
http://www.dialoginthedark.com/

これがダイアログ・イン・ザ・ダークの東京 外苑前会場。


建物の前には看板が出ていました。


会場は地下1階。クリスマスシーズンということで、少しクリスマスっぽく飾り付けてあります。


ガラスの扉を開くと……


中は受付&待合室になっており、カフェっぽい雰囲気。イベントが始まる前の人がイスに座って待っていたり、イベントを終えた人がアンケートを書いたりしています。


受付を行うと、こんな感じのパンフレットをもらいました。


暗闇の中で落とし物をすると見つけるのが困難なため、荷物はあらかじめロッカーに入れておきます。


イベント中に食べ物を購入することもあるということで、小銭だけポケットに入れて開始時間まで待機。


待合室が暗くなるのではなく、イベントは受付奥の扉の向こうで行われます。


ということでイベント開始時間になり、扉をくぐると……


すぐに暗闇、というわけではなく、薄く明かりがともった部屋に通されます。部屋の両側はカーテンで仕切られており、カーテンの前にはこれから始まる暗闇の体験をサポートしてくれる視覚障害者の「アテンド」が待機していました。なお、ここからはイメージ画像でお送りします。


この部屋では白杖の持ち方やイベントにおける注意事項が説明されます。白杖は自分のみぞおちあたりの長さのものを選び、ペンのように持ちます。イベント中は純度100%の真っ暗闇のため、しゃがんだり歩いたり手を伸ばしたりと行動を起こす前には言葉でその行動をメンバーに告げ、手を伸ばす際は手のひらからではなく手の甲から伸ばすこと。手を伸ばす際に手のひらを前に出してしまうとどうしても指が先に出るので、誰かの目を突いてしまったり、あくび中の口の中に手を突っ込んでしまう恐れもあるためです。


説明を聞いたあと、カーテンの向こう側に移動します。さらに部屋は暗くなったものの、まだ互いの姿は目で確認できるレベル。普段は体験することがない暗闇を前に緊張してきていたため、ここで声を出し自己紹介して緊張をほぐします。イベントは基本的に1グループ8人で行われるのですが、今回の参加者は7人、暗闇の中に入っていくのはアテンドを入れて8人でした。


自己紹介後、互いの名前をしっかり覚えると部屋の光が落とされました。非常灯の明かりがあったのでここもまだ完全に暗闇というわけではないのですが、互いの姿は全く見えなくなります。ここからは互いの名前と見た目を一致させても意味がなく、相手の声と名前を一致させる必要があります。


アテンドが部屋の扉を開け、いざ純度100%の暗闇の世界へ。アテンドの指示で前の人の体に触り列車のようになって進むのですが、うっかり先頭に立ってしまうと白杖で前を探りながら、暗闇の中をヘッピリ腰で進むことになります。


部屋に入ると、まず感じたのは「匂い」。青臭いような甘いような匂いを嗅ぎ、「何の匂いだろう?」と想像力を働かせていると、誰かが「葉っぱの匂いがする」と発言しました。


「○○、しゃがみます!」という声と共にしゃがみ、地面を触ると室内のはずなのにカサカサした枯葉と冷たく湿った土の感触。参加者たちが地面を踏みしめる度にカサカサという音が響き、頭の中に公園のような外のイメージが描かれます。


さらに進んだ先にあるものを「触ってみて」と言われるがままに触ると、手が何か固いものに触れます。普段は意識しないのですが、ある程度の感触は触覚でも記憶しているようで、触った瞬間に「これは木材だ」と認識。手を徐々に動かしつつ、固い「何か」の輪郭をさぐっていくと、ベンチのようなものであることが判明します。試しに座ってみると……


イスではなく、ブランコでした。一度何かが分かってしまうとこわごわだった態度も変わり、みんなでわいわいと代わりばんこで暗闇の中ブランコをこぎます。

by Snugg LePup

部屋の中をどんどん進みながらイベントは進行するのですが、例えば明るい場所なら誰とも話さずに従える「テーブルに集まって」という指示でも……


暗闇の中だと「みんなどこにいる?ポールいる?」「ポール、まだテーブル見つけられてないです……」「こっちだよー!こっちこっち」「あ、今誰かに触った。僕ポールです。誰?」「ゆーきちだよ!」「今テーブルに誰がいる?」「どっせーはこっちのテーブルにいる」「えっテーブルって2個あるの?こっちってどっち?」「奥の方!」「じゃあ、ゴロリとめぐみはそっちのテーブルに行って……」「そっちってどっち???」「奥(笑)奥のテーブルだよ!」「ゴロリ、動きまーす!」「めぐみ、動きまーす!」「わあ、ごめん、足踏んじゃった、誰?」「ばっしーだよ!大丈夫。誰?」「ゴロリだよー。ごめんね!」とその50倍ぐらいの会話が必要になります。


テーブルの上ではハサミやシール、ペンなどを使ってクリスマスカードを作成。見えないので頭の中のイメージは完璧なのですが、カードは大変なことになっていることが予想されます。また冬のイベントでは時折静電気で光が生じるのですが、真っ暗闇の中だと静電気の起こすわずかな光が「誰かのポケットに入っているスマートフォンが光っている?」と思うくらいの明るさに感じました。


視覚からの情報がないと無意識のうちに聴覚・嗅覚・触覚などを使って情報を得ようとするのですが、肌が露出していない冬は顔の表面も大切な感覚器官になります。部屋を移動する度にまず顔の表面で温かさ・冷たさ・湿度といった空気を感じ、匂いや音といった情報も追加されていき、「今自分がどんな状況にいるのか?」という推理をしていきます。


次に通された部屋を視覚情報だけで表現するとこんな感じ。


しかし、部屋の温度・湿度・周囲の音・匂いなどから判断すると、こんな感じのイメージです。

by Jules Stoop

持っていたお金を使い、飲み物やお菓子を購入。見えないカフェで軽食を楽しみます。


そしてカフェから移動してイベントは終了なのですが、移動の際、誰かが「ここ、狭い部屋な気がする」と発言。始めはおっかなびっくりだった暗闇ですが、最終的には慣れて声の響き方から部屋の大きさが分かるようになっていました。


最後は豆電球がともされた程度の明るさの部屋で目を慣らしつつ感想を言いあいます。人の顔が何とか見られるかどうか、というくらいの明るさですが、なんとなく先ほどまでとは違って遠慮がちになる会話。「人の顔を伺うって、こういうことなんだ」とコメントした人もおり、「見える」ことがコミュニケーションの邪魔になる時もあると実感しました。とは言え、みんななんとなく暗闇のテンションを引きずっているので、もう目で確認できるにも関わらず紙の資料を「はい、どうぞ」「ありがとう」と声に出しつつ回していました。


そして、入り口とは違う扉から再び光の世界へ。


あっという間の90分を終え、久々に視界を楽しみます。


待合室ではタオルや本なども販売されていたのですが……


イベント終了後にはなんとなく皮膚が敏感になっており、タオルを触ってもこれまでとは違った質感に感じます。


アンケートを書き終わると本当に解散、となるのですが、印象的だったのは明るい部屋でアンケート用紙を回す時、誰も声を出さずに無言で隣の人に渡していたこと。「見れば分かるから」と言われればそれまでなのですが、さっきまで友人のように話し、相手に触れ、気を遣い合っていた人々の親しさが薄くなったように感じました。


真っ暗闇の中では明るい世界とは別のコミュニケーションとの方法が必要で、例えば誰かに何か情報を伝える時は、まず自分が感覚を鋭敏にし手探りで物や人に触れ、想像力を働かせて周囲の状況を認識し「これをどうやって相手に伝えよう?」と逐一考える必要があります。「見れば分かる」は通じないため常に会話が必要になり、協力しないと前に進めないため自然と助け合い、「見えている」時よりも密なコミュニケーションを行うこととなります。普段は意識しないのですが、相手が見えていることで何となく気恥ずかしかったり顔を伺ったりで遠慮がちになり、もしかすると物が見える環境は本当の相手に接する機会を損なっているのではないか?という、「見える」ことの不自由さを感じた90分でした。

なお、イベントの参加費用は大人が5000円、学生は3500円、小学生は2500円。12月25日まではクリスマスバージョンですが、2014年1月10日からは新春バージョンのイベントが行われます。

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in 取材, Posted by darkhorse_log

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