アニメを録画されると利益が減るから「私的録画補償金が必要」と日本映像ソフト協会がめちゃくちゃな意見を表明
社団法人日本映像ソフト協会(JVA)が6月17日に発表した「私的録画問題に関する当協会の基本的考え方について」によると、放送からの録画のうち、特にアニメーション番組に関しては、
「放送からの録画によるパッケージビジネスに与える影響は大きいし、仮に直接的な売上げ減がなくても、私的録画補償金が必要」
との考えを明らかにしました。
今までの「ネット上での違法配信によって売上が減少するから補償金が必要」という考え方と比べると、「売上が減少していなくても補償金が必要」というのは、かなり支離滅裂な考え方ですが、一体どういう事なのでしょうか?
詳細は以下から。
(PDFファイル)私的録画問題に関する当協会の基本的考え方について
上記ファイルの3ページ目から4ページ目にかけてが今回のポイントです。
(2) 放送からの録画によるパッケージビジネスに与える影響は大きいし、仮に直接的な売上げ減がなくても、私的録画補償金が必要
放送からの録画のうち、特にアニメーション番組に関しては、その多くは放送事業者ではない者によって製作されていますが、製作者は、放送そのものによっては製作資金を回収することはできません。製作者にとって製作資金の主たる回収源は、放送後に発売されるDVDなどのパッケージ商品です。このようなビジネスモデルにおいて、放送されたアニメーション番組が大量に私的録画されると、その後のパッケージ商品の販売に耐え難い悪影響が生じます。
このように、特にアニメーション番組など、製作者が放送後のパッケージ商品等によって投下資本の回収をはかっている映画の著作物については、私的録画による「逸失利益」の発生が顕著です。
パッケージ商品の発売が先行することの多い劇場用映画の放送に関しても、パッケージ商品の販売及びレンタル並びに有料配信は一定の時期に終了するものではなく、放送後においても継続して行われているのですから、放送からの私的録画による何らかの「逸失利益」は生じていると考えられます。
まず現在行われているビジネスモデルとして、特に深夜アニメーション番組の場合、テレビで放送するだけでは利益は出ず、むしろそれ自体は「宣伝」という位置づけになっており、DVDや関連グッズなどで利益を回収するモデルになっている、という実態があります。
中には国内だけでなく、海外にも販売して「転がす」ことで最終的に利益を出すという場合もあり、国内のテレビ放送だけで利益を出すビジネスモデルはかなり厳しい現状があります。
アニメ制作会社はどう“儲ける”べきか ~プロダクションI.G 石川光久社長インタビュー(前編):NBonline(日経ビジネス オンライン)
視聴率では今一つだった「BLOOD+」だって、ビジネス的には黒字だよ。特に海外ビジネスで稼いだ。最近の日本アニメの米国向け相場は2万から3万ドルと言われているけど、この作品はその倍以上の高値で販売できたからね。
つまり、簡単に書くと以下のようなビジネスモデルになっているわけです。
地上波テレビ放送(利益は出ない、お金を出して放送枠を買っている)
↓
DVD販売など(パッケージ商品化することで利益を出す)
この方式を「製作委員会方式」などと呼んでおり、下記ページの説明が詳しい。
ニセモノの良心 : テレビ局はアニメのお金の中抜きをしているか?
これが主なテレビ局の商売方法だが、最近では「製作委員会方式」、(業界内では多分「テレビショッピング方式」という方が通りがいい)という方法も存在する。
これは製作委員会がテレビ局から「放送枠」を買い、そこにアニメを流すやり方だ。
テレビ局からすればテレビショッピングを流すより(はるかに)実入りは少ないが、番組の風体をなしているのでコンテンツ充実という意味で、まぁ我慢が出来るという手法だ。金銭的に我慢が出来ない局はやめていったので今じゃあこの手法とるのはtxくらいだけどね。(追記:首都圏の独立U局はバリバリです。)
一方製作委員会からすると「プロモート」としてテレビ局の電波が使用できるという点で魅力がある。
で、何を狙っているかといえばやはり、映画化、DVD、キャラクターグッズ展開による「当たり」だ。それと多少はスポンサーが期待できるだろうか。(30分買い切っているので、この場合CMの料金は製作委員会に入る。使わない場合は空で局に返したりもする。)
これらの流れについては下記ページに図があるため、それを見るとかなりわかりやすく、まずこの流れを理解する必要があります。
図解・「テレビ局はアニメのお金の中抜きをしているか?」 - Attribute=51
要するに、放映枠買取番組であり、放送局自らが制作した番組を地方局などに販売する「番組販売」とはまったく違うわけですね。
なお、地上波で放送するとお金がかかるので、単純にネット配信に移行したとしても、今度はその膨大なトラフィックを支えるための「転送料」や「サーバ代」などが発生するため、かなり厳しいという現状もあることから、最近では、ネット上に存在するさまざまな動画共有・配信サイトや各種プロバイダのポータルサイトなどと手を組んで、そこを拠点にして期間限定で公開するという手法も多いようです。
で、日本映像ソフト協会の言い分はこれだけにとどまりません。
以上のように、放送からの私的録画により「逸失利益」の発生はあると考えられますが、冒頭で述べたとおり、必ずしも直接的な売上げ減が生じているかどうかが重要なのではありません。パッケージ商品発売後に行われる放送からの私的録画といえども、映画の著作物の経済的価値を本来的態様において享受する行為であり、そのような私的録画からは、直接的な売上げ減の発生の有無にかかわらず、映画製作者に対するフィードバックが必要であるからです。
そして、そのフィードバックは、私的録画補償金によって実現するほか、現状においては適切な方法がありません。
つまり「録画されると利益が減るから金を寄こせ」と言うわけです。しかし、現時点では私的複製は認められています。
コピライトQ&A(著作権相談から)
著作権法では、著作物を利用する者が「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」(私的使用)を目的とする場合には、権利者の許諾を得なくても複製することができると定められています(30条1項)。
私的使用のための複製行為には著作権の効力が及ばない(著作権法30条1項)。これは、単に私的利用のために著作物を複製するのであれば、著作権者にそれほど経済的損失を与えることはないだろうという見地から認められたものである。
地上波放送することによって私的録画され、「逸失利益」が発生するというのであれば、なぜわざわざ利益を害する行為を自ら行うのか?ということになるため、明らかに言っていることが矛盾しています。つまり、地上波放送せず、有料のペイパービューなどに移行すればよいわけです。挙げ句の果てに「売上げ減の発生の有無にかかわらず」補償金が必要だという主張は、支離滅裂でむちゃくちゃです。誰が聞いても「最近は昔みたいに利益が思うように出ないから金よこせ」「儲からないから無料の私的複製は認められない、金よこせ」と言っているようにしか聞こえません。
また、私的録画によって将来的に見込まれる利益も失うというような意味のことを言っていますが、その分、将来的な利益率も大きくなっているという実態があります。
アニメ制作に資金が流れ込む理由 ~テレビ東京アニメ事業部長・岩田圭介氏インタビュー(その1):NBonline(日経ビジネス オンライン)
その一方で、償却してもフィルム資産は残っているわけです。将来その作品が“名作”として評価されれば、帳簿上はほぼ存在していない資産であるにもかかわらず、DVD-BOXを販売したり、放送権収入を得るなどの可能性があるわけです。
事実、ここ数年のビデオメーカーが主力としている商品の1つのラインとして、旧作のBOX販売があります。子供時代に見た懐かしの作品を、 30~40代の大人に向けて売るという商品が多かったように思いますね。この年末年始に発売された「機動戦士ガンダム」のDVD-BOXなどが最たる例です。数万円の商品が12万セットの販売ですからね。
つまり、DVDによるパッケージ販売で儲かるというビジネスモデルは決して「放送終了直後」だけで完結する「短期回収型」ではなく、そこからさらに先まで見込んで利益が出る「長期回収型」ビジネスモデルが本来の姿である、というわけです。しかもアニメ作品のフィルムは2年で減価償却できるため、作品の関連商品を売るための「償却できる広告費」としての意味があり、この点に一切触れていないだけでも日本映像ソフト協会の認識がいかに甘いものであり、知らない人に対して誤認を狙っているのかというのがわかります。
そもそも儲からない理由はテレビ局と製作側の契約や業界の体質、そして「ビジネスモデルの破綻」が問題なのであって、破綻の理由を外部に求め、金をせびるというやり方はおかしいと言わざるを得ません。
時代は常に移り変わるものであり、その変化に逆行しようとすれば淘汰されるのはそれこそ自然な話であり、やるべきことはこの時代の変化の中で生き残る方法を模索することです。どうやらその「生き残る方法」の一環として「補償金くれくれ」と主張しているようなのですが、恥ずかしくないのでしょうか……このままでは廃れる一方です。新聞や雑誌が読まれなくなって発行部数が減っているからと言って、何か「補償金」を求めているでしょうか?そんなことをするよりも、新しい方法を模索するのが先決のはずですし、むしろ業界全体で行っていくべきでしょう。
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