取材

20代の約9割がアカウントを持っている巨大動画サービスniconicoのアニメ戦略


3000万人以上の会員を持つ日本最大級の動画サービス「niconico」。再生中の動画にコメントをつけられる動画共有サイト「ニコニコ動画」や、生放送番組にリアルタイムでコメントをつけられる「ニコニコ生放送」などのサービスを提供していて、アニメに関していえば、新作のアニメを放送直後から配信したり、作品を全話まとめて一挙放送するなどの展開を行っています。2012年12月末には「猫物語(黒)」をTOKYO MX、BS11とともに3チャンネルで同時放送するという異例の取り組みも行われました。

いったいniconicoではどういった戦略を持って動いているのか、株式会社ドワンゴコンテンツ 営業本部 コンテンツ営業部部長の小川文平さんによる講義が、デジタルハリウッド大学国際アニメ研究所主催のアニメ・ビジネス・フォーラム+2013の中で行われました。講演タイトルは「niconicoのアニメ戦略」です。

【デジタルハリウッド大学】アニメ・ビジネス・フォーラム+2013
http://www.dhw.ac.jp/e/anime_business2013/

動画を見られるサービスはいろいろとありますが、niconicoのサービスの特徴は「動画にコメントをつけられる」という点。これによって、ユーザーは動画を他の人と一緒に見ているかのように体験でき、その面白さや楽しさを共有することができます。


小川さんのデータによると、2012年12月末時点の登録会員数は約3078万人。このうち、月額525円で様々な特典が得られるプレミアム会員の数は約181万。また、モバイル会員は782万人。男女比率で見ると、男性が67.1%、女性が32.9%で、女性会員の数は約1012万人。年齢層では若年層が多く、特に20代が42.5%を占めています。その数は1308万人で、総務省統計によると20代人口が約1490万人となっていることから、20代の約9割はniconicoユーザーということになります。最近では、40代や50代の人のアカウントも増加しています。


niconicoの中で小川さんが担当しているのは「ニコニコ生放送」の部分。ニコニコ生放送ではアニメに限らずドラマやスポーツ、ゲーム、囲碁将棋、麻雀などの番組も展開していますが、「アニメ・ビジネス・フォーラム+2013」ということで、アニメについての話となりました。

アニメ展開の目的について、小川さんはアニメ業界への還元アニメビジネスの発展だと語りました。ビッグタイトルがないわけではないのですが、アニメビジネスは低迷傾向にあり、その1つの原因に、小川さんは違法動画を挙げています。

現状は、日本で放送されたままの字幕がないものであれば放送後30分程度、字幕付きでも1時間ほどでアップされています。この海賊版(違法動画)はテレビで見られないという人には便利かもしれませんが、許諾は受けておらず、製作者サイドやクリエイターへの還元が行われることはありません。しかし、あくまで「ほかに見るものがない、見られるものがない」からアップされているものであり、公式動画をなるべく早いタイミングで上げることができれば違法動画の意味がなくなるはず。そこで、放送直後に公式動画としてアップできる環境を作ることで、違法動画よりも公式動画を見てもらい、還元ができるようになるのではないかというのがniconicoの考えだというわけ。


では、現在のniconicoではどういったものを展開しているのか。ニコニコ生放送では、オールジャンル含めるとここ3ヶ月で600~800番組を放送していて、そのうちアニメ関連は150~160ほどだそうです。

2013年1月期にニコニコ生放送とニコニコチャンネルで展開しているアニメは全18作品。継続作品が6つあるので、合計24作品が展開されています。配信タイトルの推移はこんな感じ、棒グラフは放送されているアニメの総本数をniconicoの中の人が調べたもので、、折れ線グラフは実際にniconicoで展開しているものの数です。


新作の展開の上で何をしているかというと、まずは放送前の番組宣伝。そして、テレビ放送に連動したニコニコでの生放送。さらにCD・DVDのプロモーションまでを、一貫して行っているとのこと。たとえば、依頼を受けた作品に関する特番を作り、作品に出る声優さんなどによって番組概要を伝え、niconicoでの視聴習慣を持ってもらう、という流れです。

2013年1月に始まった番組に「ビビッドレッド・オペレーション」があります。この作品の場合は、1月からの開始に合わせて12月14日に直前番組を生放送。キャストが出演して番組のことを楽しく伝え、生放送を見ているユーザーがコメントを投稿、キャストはそのコメントも拾いながら進めていき、リアルタイムで情報を共有していきました。正月休みにはアニプレックス制作の特番をテレビでの放送が終わった後に配信、ニコニコでの生放送に繋げることでユーザーの視聴欲を高めました。毎週日曜日には生放送のあと「ニコ生トークオペレーション」という番組があって、出演声優がゲストとして登場して、本編を見た後の感想をユーザーと共有。翌週の視聴意識を高める取り組みを行っています。


小川さんいわく、「niconicoではコメントが多くついているものほど売れる」のだそうです。これは、作品をコメントなしで見るような人はそれほど見に来ないので、コメントで盛り上がるのを楽しみに来た人が「購入して自分もコメントを打ちたい」と思うため。そのため、生放送にはプロモーションをしているという部分のほかに、VOD(ビデオオンデマンド)配信前に生放送で見てもらってたくさんのコメントをつけてもらうという狙いがあり、そのコメントがある状態で販売を行っています。

niconicoで配信している旧作アニメは、資料には「約500作品」とありますが、小川さんによると下回ることはなく、もうちょっと多いぐらいとのこと。


VODで配信を行う中で、生放送をプロモーションとして位置づけており、当時見ていた20代や30代の人に無料で見てもらってコメントをつけてもらい、そこから有料販売に持っていくという展開をしています。


事例としてはタツノコプロダクションの作品を取り上げる「ニコニコ名作劇場 presented by タツノコ劇場」があります。ここでは、毎日2話ずつタツノコアニメを取り上げていて、平日のレギュラー番組として視聴者への意識付けを行い、旧作販売へつなげています。2012年5月から6月にはニコニコ本社とタツノコプロダクションでコラボを行って、本社の名前を「タツニコ本社」にした上で、全14作品以上の無料配信開始を告知するというプロモーションが行われました。

昨年後半からは「爆走兄弟レッツ&ゴー!!」全51話のうち、10話分を2回に分けて無料生放送。コメントをつけてもらった上で、11話目からは有料販売しています。これは、通常のサイトだといきなり売れるということはないそうですが「ユーザー層とレッツ&ゴー!!が合致したことで、かなりの額を販売することができた」と小川さん。今はゾイドの生放送を行っていて、「懐かしい、次が見てみたい」というところから有料配信に繋げています。

新作配信、旧作配信とはまた別の取り組みが「アニメ一挙放送」です。アニメは1クール作品で全12~13話、2クール作品なら全24~26話ほどありますが、これを1日で1クール分を目安としてまとめて放送するというもの。これまでに実施した事例としては、2011年のお正月「らき☆すた」一挙放送や「魔法少女まどか☆マギカ」日本・台湾一挙放送などがあります。まどマギのものは、台湾語字幕をつけて日本と台湾で同時に見てもらうという試みで、コメントはもちろん日本語だけではなく台湾語のものも混ざることになります。


こういった企画は土日祝日など、ユーザーの多いところを中心に編成されています。この編成の8割から9割はアニメメーカーの依頼で行っているもので、BDやDVDを販売する直前のタイミングだったり、第2シーズンなど続編の放送が始まる前に前のシーズンを一気に流して視聴を促すという形で実施されています。また、大型連休に流すためにniconicoで権利獲得をして流しているものもあるそうです。最短でも6時間、長いと12時間ぐらいという長尺で見せることになるので、多くのユーザーが集まったところで関連商品や次回作のPRを挟み込み、プロモーションをしています。

たとえば、2012年夏休みには16日間連続で、合計11タイトルの一挙放送を行いました。その総来場者数は290万人、総コメント数は350万件。単体でも強いですが、集中させることでさらに効果を高め、インパクトもあるというわけ。


2012年末には2週間で15タイトルを放送。このときは総来場者数が400万人、総コメント数は430万件。作品にはメーカー依頼のものと、niconicoで流したものとが混ざっています。一挙放送の視聴習慣をより強くする狙いもあり、たとえばNHKアニメではこういうものの実施事例はほとんどないはずですが、「バクマン。」の3期目に向けて、1期目と2期目の一挙放送を展開しました。


これまでに「アニメ一挙放送」は200回以上実施されていて、その総来場者数は4100万人、総コメント数は6300万件以上にもなります。今週の土曜にはBD-BOXの発売を記念したSchool Days一挙放送、日曜にはめだかボックス アブノーマル一挙放送など、現時点で3月24日までに8作品11回の一挙放送予定が発表されていて、小川さんによると、春休み期間にも一挙放送を予定しているとのこと。


4つめの展開は「アニメプロモーション番組」。基本的には商品、つまりCDやDVD、イベント告知などがあって作るものです。音楽のプロモーションであればアーティスト本人に出演してもらい、視聴を高めるために過去のライブ映像やPV映像などを加えて、本人出演トークにつなげていくという形です。映像のプロモーションであれば、キャスト出演映像を一挙放送の後に出し、視聴者数が多いタイミングで見てもらいます。新作のプロモーションであれば発表会の中継や、前のシーズンの一挙放送などが挙げられます。小川さんによると「なるべく人にたくさん見てもらえるように編成している」とのこと。niconicoで生放送をするメリットは、イベント会場だとどうしても人数が限られてしまいますが、ネットだとキャパを考える必要がないため、より多くの人に届けられ、しかもリアルタイムで知ってもらえるという点。テレビとは異なり何千万人が見られるという環境ではないものの、Twitterなどによってよりライトなユーザーまで情報を循環させることができます。


過去の事例としては、ClariSのCD発売イベントが挙げられます。普通に特番形式で行うことも考えられましたが、ClariSは顔出しをしないユニットなので、ニコファーレにお客さんを入れて、発売前のアルバムを全曲DJプレイしてもらうというイベントを開催。11万5000人の来場者がありました。

7月にはセーラームーンの20周年イベントで、六本木のニコファーレでトークイベントをしつつ、パリで開催されていたJapan Expoの会場と中継を行って、ももいろクローバーZに主題歌を歌ってもらうということを実施。このときも11万5000人が来場しました。この放送直後にはセーラームーンの公式サイトに通常よりもかなり多いアクセスがあったそうです。


水樹奈々さんのシングル発売記念特番では、全国的に人気があることもあって来場者数は14万人越え。

10月にはKalafinaにSONYスタジオで歌ってもらうという「生歌・生中継」。ユーザーからは生歌を希望する声も多いので、自然と人が集まる展開になっています。

そのほか、西尾維新アニメプロジェクトの発表会は声優総出演で来場者数40万人を突破、ノイタミナラインナップ発表会、まおゆう魔王勇者製作発表会、進撃の巨人製作発表会などを放送しました。進撃の巨人の場合は発表会がニコファーレで行われ、PVも初出しとなりました。

5つめの展開はイベント・LIVE生中継。その一番の目的は「リアルタイムでイベント会場にいない人にも伝えられる」というところにあります。これは無料だけではなく、有料でも可能。無料イベントだと、2012年のアニメコンテンツエキスポでニワンゴブースやイベント中継を実施したり、先ほどのももクロJapan Expoライブや、ジャンプフェスタのステージ生中継などがありました。有料放送はアニメだとあまりないですが、ビジュアルアーツの20周年記念イベントでは有料のネットチケットを販売したりしています。一般のライブやイベントなどで需要があり、目的に合わせての生中継や、行けない人向けのプロモーションフィールド拡大のほか、ネットチケット販売での収益化もできている、というわけです。


作品のプロモーション事例についても、具体例が挙げられました。

1つめは「生徒会の一存 Lv.2」。2012年10月からテレビで放送されましたが、その3ヶ月前にniconicoで配信が行われました。また、テレビ放送の宣伝として前シリーズ全話配信の取り組みを実施しました。通常、アニメ作品には半年ほどプロモーション期間がありますが、3ヶ月早く配信することでその期間を生かしているというわけです。これと同じ取り組みは「うぽって!」でも行われました。また、生放送の始まる1週間前にはインストアイベントをカウントダウンのような感じで生中継。その結果、第1話では5万3000人が来場しました。通常、アニメの来場者数は1万から3万ぐらいなので、かなり多いと言えます。


2つめは映画「009 RE:CYBORG」。ただ生放送をするというだけではなく、ニコニコオリジナル特典を作りました。その特典についても「前売り特典みんなで作ってみた!生放送」として、神山健治監督と視聴者が一緒に企画を考えるという番組を実施。監督に自ら作品の見せ場を語ってもらいつつ、番組内で考えたものが売られるんだということでチケット販促に繋げています。また、この生放送後には「RE:IG」と題して、東のエデンや攻殻機動隊、機動警察パトレイバーなどの一挙放送を実施しました。公開直前の試写会でも生放送を行い、監督やメインスタッフに生放送に出てもらって、本編やメイキングをチラ見せしながら座談会などを行い、劇場公開へと繋げていきました。


最後の事例は「猫物語(黒)」。これは大晦日に生放送したもので、TOKYO MXとBS11でも同じ時間帯に放送が行われました。なかなかテレビでこの番組のために特番を作るというのは難しいですが、niconicoは枠が無限にあるので、プロモーションとして12月7日に「最新情報発表会」をソラマチから生中継。取材陣もユーザーと同じタイミングで放送を知るというサプライズとなりました。また、各局の担当者も出演して31日に向けての意気込みを語ったり、ニコニコニュースのカテゴリに「ねこだいすき」を追加して発表会のニュースを入れたり、さらにはトップページの都度告知や、時報の声を堀江裕衣さんに担当してもらうなど、周知を徹底。放送の前々日には化物語「つばさキャット」を一挙放送、前日には「つばさキャット」BD特典のキャラクターコメンタリー版を放送しました。


通常、一挙放送では6~7時間かけてどんどん人が増えていくので、「まどマギ」の場合は100万人を突破したとしてリリースが出たりしましたが、猫物語は1時間30分という放送時間で99万人の来場があったそうです。


niconicoでは生放送以外の取り組みも行っています。たとえば、ニコニコチャンネルがその一例です。VOD販売は作品ごとに権利を獲得して販売していますが、ニコニコ生放送だと権利者の都合もあって受けられないということもあるため、メーカーや出版社などが自分でチャンネルを開設して運営していくことができます。これにより、作品やキャストなどそれぞれの事情に合わせて、権利者が自社チャンネルで放送を行うということが可能になっています。


「ブロマガ」は生放送をしながらブログを展開できるという新しいサービスで、これも有料・無料のいずれでも可能。登録しているユーザーにはメールが届くので、更新したタイミングで見に来ることができます。また、ブロマガで収益を上げることもできるので、生放送のゲストにギャランティを出すことも可能になり、会員が増えれば登録者の収益にもなっていきます。Gacktさんや小沢一郎さん、ドワンゴの夏野剛さんもやっているほかにかなりの数が立ち上がっていて、現在は一般向けにも開放されています。


ニコニコからの展開ということでは「戦勇。」という作品があります。これは、もともとはニコニコ漫画に投稿された作品。その後、集英社のジャンプSQで連載が始まり、さらに2013年1月からはテレビアニメも放送されています。


そして最後に小川さんはniconicoの今後の展開について、プロモーションから収益化までのビジネスを行う中で、権利者に早いタイミングで許諾を得た公式動画を配信するというビジネススタイルを一貫して行っていきたいと語りました。また、数としては多くないものの、海外でもniconico展開ということで、英語版と台湾語版を開設、日本と同様に正式許諾を得たものを配信していっています。猫物語(黒)の場合、放送から30分後には台湾での公式配信を実施。違法なものが上がっていないうちに公式動画を見に来るように仕向けるという展開を増やして行ければ、とのことでした。

niconicoは外から見ると不思議なサイトに見えるかもしれないが、社員は真面目に取り組んでいると小川さん。アニメビジネスを牽引する立場にはならないかもしれないが、お手伝いをしていけたらと業界発展への貢献を語ってくれました。


サービス開始当時はYouTubeのムービーにコメントをつけるという形式が主流でしたが、今やそのYouTubeと並び立つ存在感を見せているniconico。「アニメ産業の手助けを」とのことでしたが、アニメの新作をテレビで見るのはスケジュールが合わないのでニコニコチャンネルで見ているという人はかなり存在しており、すでに主役の1人なのは間違いありません。

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in 取材,   ネットサービス,   アニメ, Posted by logc_nt

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