コラム

急速な円高や全世界同時株安の原因、「サブプライム問題」とは?


一時的に円が113円とかいうすさまじい円高になり、しかも全世界同時株安の様相を呈しているわけですが、原因の一つは「サブプライム問題」というやつです。

テレビで散々言われているものの、いまいちどういうものかという説明があまりされていないので、株式とかそういうのがわからない人でもある程度わかるようにまとめてみました。
さて、まずは大原則。お金が余っている側は、すでに信用力があってお金をきちんと返済してくれる人には喜んでお金を貸します。なぜなら、貸した金額はちゃんと戻ってくるし、利子もちゃんと支払われるためです。リスクが低いので利子が低くても問題ないのです。このような信用力のある層は「プライム」と呼ばれます。これに対して「サブプライム」の「サブ」とは「次の」という意味で使われており、要するにこういう優良な相手よりも一段階信用度が落ちている相手、という意味です。

要するに本来ならお金を借りることができない人にお金を貸すというのがサブプライム。いわゆる高利貸しに近い形。どんな人が借りているのかというのは以下の用語説明を読むと非常にイメージしやすい。

サブプライムとは - はてなダイアリー

・ 過去12ヶ月間に30日間以内のローン返済延滞が2件以上、または過去24ヶ月間以内に60日以内の延滞が1件以上ある
・ 過去24ヶ月間に法定判決、抵当物件の差押え、担保回収、ローンの不払いがある
・ 過去5年間に自己破産がある
・ 信用調査機関のリスクスコアが所定の値を下回る。

貸す条件もすごい。ほとんど無条件です。

サブプライムローン問題、「予想・防止共に可能だった」米紙論評:Garbagenews.com

サブプライムローンの設定においては、借り手に対して収入の証明を必要としない(つまり収入について考慮しない)ことをうたい文句とし、さらに仕事に従事しているか・資産を持っているかなどを問われずに、住宅ローンを設定してしまったという。要は借り手に元々担保も将来性の確約もないのに、借り入れたローンで購入できる住宅自身を担保にし、お金を貸し出すという按配である

なぜこんな信用の低い層、すなわち、貸しても返済が完遂できない貸し倒れの確率が非常に高い層に対してお金を貸すのでしょう?

FujiSankei Business i. なるほど講座/サブプライムローン

サブプライムローンは、所得や信用力の低い人向けの消費者金融の一種で、自動車や住宅などを担保に年率20~30%の高金利で貸し出すものです。米国では総世帯の約4割が年収2万5000ドル以下で、サブプライムの対象になるといわれ、市場が非常に大きいのは確かです。

つまり、信用が低いけれども人口が多いので成立してしまうわけです。テレビや新聞などで「サブプライム問題」と言っている場合はこの住宅向けローンを意味していることが一般的です。

で、サブプライム層にお金を貸す場合、もちろん金利は高くなります。なぜなら、サブプライム層は既に破綻したことがあったり、返済遅延とか、そういうお金の経歴を見るとキズがあるためです。つまり、信用力が低い。しかしそれでもなおこのサブプライム層にお金を貸していた理由は単純で、その貸したお金で買った家自体が担保に入っているためです。ローンの借り換え(ローンを組み直すリファイナンス)などをしてもなお返済できなくなったとしても、最終的にはその家を売れば貸し付けたお金は回収できる、と。なぜなら、米国の住宅市場はこれまでずっと値上がり傾向にあったため。結果として、安心して住宅向けサブプライムローンを展開できたわけです。むしろ住宅の価格がドンドン値上がりして不動産価格が上昇している以上、高金利で貸すことのできるサブプライム層の信用が「上がる」わけです。妙な話ですが、理屈としては「お金を返済できなくても家を売らせればいい」ということです……。当然ながら家がなくなるわけですが、貸す側はお金さえ儲けられれば関係ありません。しかもこの理屈だと必ず儲かる、要するにリスクが低い。しかも、先ほども書いたようにサブプライム層は人口が多いので、次々と金を貸していくことができる。サブプライム層に対してローンをさせてさせてさせまくって儲けられるときにガンガン儲けよう、ということになるのも当然の流れです。

景気がよいので不動産価格がどんどん上昇している

サブプライムローンで返済ができなくなっても担保に入っている家を売却すれば利益が出る

そのお金をさらにサブプライムローンとしてサブプライム層に貸し付ける

サブプライム層に貸せば貸すほど儲かるので、基準はどんどん緩くなる(より低階層の信用が低いサブプライム層に貸していくことになる)

金余り発生。以下、無限ループ。


構造的には、土地や家を持つことなどできないようなレベルの人に金余りを起こしている側がむりやり貸し付けて利益を得ようというのが根本的な構造です。一種の貧困層ビジネスみたいな雰囲気もするのですが、ずっと悪質です。なぜなら、富めるものはますます富み、貧しくなる者はますます貧しくなる仕組みだからです。これは経済自体を萎縮させてしまうということにつながるので、必ず悪影響が出ます。今がまさにその影響が露呈し始めた時期だ、と解釈していればまず間違いありません。

ここからが本題。なぜこれが米国市場の株安、そして全世界株安につながり、そして円高につながるのか?

ここまでだとまだ問題は単純ですが、さらに流動性を高めるために、このサブプライムローンを「債券化」したのです。これがクセモノだった。

多くのファンドに潜り込んでいる「サブプライム」:破綻目前、サブプライムの猶予は3カ月 / SAFETY JAPAN [大前 研一氏] / 日経BP社

こうした人々の顔が見えている間はよいが、ローンを何千、何万と束ねて、そこからREITのような小口債券化した商品を作る。いわゆるABS(アセット・バックト・セキュリティ:資産担保証券)の一種である。例えばローンの借り手が12%の利息で支払う場合、貸し倒れや回収・事務処理費に利益を上乗せして4%の余裕を見て8%の利回りの商品としてこれを売りに出す。この時点で、回収する人々とこの債券を買う人々が完全に切り離される。いわゆるファンドなどが運用難からこうした商品に飛びついて知らず知らずの間に組み込んでしまうのだ。

この小口債券が一体どこへ行ったのかが問題で、最終的にはヘッジファンドが扱うようになっていきました。なぜなら、不動産価格が上昇しつづけるというバブルな状態であれば、全力でこのサブプライムローン債権などを証券化したCDO(債務担保証券)に対して投資すれば、非常に高い利回りでガンガン儲けることができるからですね。

そして、サブプライム問題が持ち上がります。つまり、投資の失敗です。

そもそも右肩上がりの価格上昇を前提としているのが間違っている。永遠に不動産価格が上昇することはあり得ない。これは日本の土地バブルの時を見れば明らかです。それだけでなく、貸してはいけないサブプライム層にむりやりお金を貸したので、返済が滞って破綻するのは当然。結果として一体どれぐらい焦げ付いたのか?金額を見れば一目瞭然です。

猶予は3カ月しかない:破綻目前、サブプライムの猶予は3カ月 / SAFETY JAPAN [大前 研一氏] / 日経BP社

 サブプライム問題はどれくらい深刻なのだろうか。この後、世界市場にどの位の影響を及ぼすのだろうか。また、貸してはいけない人々に、どれくらいのお金を貸してしまっているのだろうか。

 サブプライムローンの総額は日本円にして170兆~180兆円、そのうち返済が滞っているのは30兆円といわれている。実に16パーセントあまりが焦げ付いている計算だ。

焦げ付き始めると本来出す予定だった利益が出なくなります。なぜなら、これだけ大量に焦げ付くと、担保として取り上げられた住宅が大量に出回ることになります。そうなれば市場ではたたき売りされることになります。供給過多になったわけです。そうなると、完全に行き詰まります。

サブプライムローンの返済ができなくなるサブプライム層が大量出現

担保として取り上げた住宅が市場に一気に増える

住宅供給過多となり、住宅の価格が下がる

ローンの返済が完遂していなくても住宅を売れば儲かるはずだったのに、儲からなくなった


さて……このサブプライムローンは「債券化」されています。つまり、銀行ではなくヘッジファンドなどが投資目的で持っているわけです。持っているだけではもう利益は出ません。売らなくてはいけないのですが、利益のでない債権に価値はないので誰も買いません。サブプライムローン債権はこの誰も買わない状態が極端なまでに顕著だったのです。一旦問題が明らかになったものを一体、誰が好き好んでわざわざ買うのでしょう?誰も買いませんね。手元流動性の枯渇と損失の表面化という問題が発生するわけです。

そしてここからが最悪の連鎖の始まりです。ヘッジファンドはその運転資金を銀行や投資家などから借りており、これの返済が必要ですし、ファンドを運営しているのであれば余計に資金の確保は必須です。銀行はリスクを低くするためにあわてて資金回収をします。そのため、ヘッジファンドは短期的な利益を確保して資金を銀行に返済する必要が出てくるため、持ち株などを次々と売って当面の利益を得ようとします。それでも穴を埋めることができないヘッジファンドが次々に出現、清算したり廃業に追い込まれたりするケースも登場。こういうことが露見して報道されると市場はますます警戒しますので、資金流動性が余計に低下します。信用が低下し、みんなが警戒するため、お金がなかなか動かなくなるわけですね。しかもみんな利益を確定させようと、あるいは損を最小限にするためになんとかしようと躍起になる、これがサブプライム問題です。

サブプライムローン債権で儲かりまくりだった

住宅の価格が供給過多で下落、さらに景気も停滞し始めた

サブプライムローン債権に頼ってファンド運用していたヘッジファンドが破綻

銀行や投資家があわてて資金回収し始める

ヘッジファンドはサブプライムローン債権の穴埋めのためにほかの方法で利益を上げようと必死になる

穴埋めできないヘッジファンドは崩壊、清算、廃業

サブプライムローン債権を含んでいるかもしれないファンド運用に対して信頼性が急速に悪化

お金の動き、つまり流動性が低下。全世界に波及。


すると当然、株式市場では株が大きく動きまくるので、結果的に株安が進行しますし、このサブプライムローン債券を持っていたのはアメリカのファンドだけではありませんので、全世界の同じようなファンドがすべて影響を被ります。こうなると米国のドルに対して動きが大きくなりますので、必然的に円高が進行することになります。それも急激に。そうしないとどんどん穴が大きくなるので世界中のヘッジファンドが今、必死になっているというわけ。それがここ数日の値動きの原因です。

これがさらに加速して深刻化していくと予想されている原因は、この焦げ付きが会社・企業・法人間の貸し借りや融資ではなく、「個人」であるという点。既に解説したように、サブプライム問題のローンは住宅ローンで、借りているのは「個人」です。返済するのも「個人」です。これが返済不能になるケースが上記引用の通り、既に16%が焦げ付いているということは、早い話が「アメリカ自体の経済が根本的なところでぐちゃぐちゃになりつつある」予兆である、というわけです。こうなると予想されるリスクを低減するためになりふりかまわずいろいろなことが起きてきます。日本の銀行にも影響は飛び火してきており、それが以下の結果につながって国内の株価下落要因となっています。

FujiSankei Business i. 総合/サブプライム危機 世界同時株安 カネ余り、忘れたリスク

日本でも、あおぞら銀行が10日に、サブプライム関連で07年4~6月期に44億8000万円の評価損が発生したと発表。すでに野村ホールディングスが同1~6月期に約720億円、新生銀行も同期に34億円の損失が発生するなど、影響が徐々に広がり始めている。


こうなると信用萎縮状態が発生し、本来であれば資金が向かうべき場所に資金が向かわなくなります。住宅であれば既に貸し出し基準が米国では厳格化されつつあり、結果として、それまで問題なく借りることのできた層が借りられなくなりつつあります。つまり、サブプライム問題というのはヘッジファンドの問題だけにとどまらなくなっているわけです。株ばかりしている人はどうしてもヘッジファンドとかその当たりばかりに目を向けがちで「サブプライムローンは証券化しているので世界中にリスクが分散されており、影響は少ない」という見解を出しがちですが、実際には「なぜこんな事になったのか?何が起きつつあるのか?」という根本的な問題を見落としてはならない、ということです。

既に個人消費の減速は米国の先月の住宅着工数が10年ぶりに減少していることなどで徐々に明らかになりつつあります。現時点では全体像がまだ把握できていないため、ちょっとした市場のパニック状態、つまり市場の不安心理が広がるという状況で済んでいるだけだと考えた方が無難でしょう。現在の米国の実体経済が明らかになったとき、一体何が起きるのかという点には今後も注意が必要です。

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in コラム, Posted by darkhorse

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