コラム

どうしてハリウッド映画は予算に何百億円もかけられるのか?


日本の映画を見ていると「予算が少ないのでは?」と思うことが多々あり、逆に海外の映画、特にいわゆる「ハリウッド大作映画」を見ると「お金かかってるな~」と感じることがあると思います。一体なぜここまで映画にかける予算に差が出てしまうのでしょう?

そのあたりの事情を調べてみました。
まず大前提。映画の予算というのは以下のような感じで内訳が成り立っています。これをどんぶり勘定するととんでもないことになり、さらに製作期間が遅延するとべらぼーに予算がふくれあがるわけです。

H-Yamaguchi.net: 映画の予算表

では、まずはハリウッド大作映画の事情から。以下の記事は1999年に書かれた内容ですが、今でも通じるものを含んでいます。


映画の製作費について私が知っている二、三の事柄 アメリカ映画篇

■製作費高騰の原因

 アメリカ映画では、1億ドル級の製作費を要した映画を「ビッグ・バジェット」あるいは「イベント・ムービー」と呼び、6000~4000万ドル規模の作品を「ブルー・チップ」、2000~1000万ドル規模の低予算映画を「ロウ・バジェット」または「ポートフォリオ」と呼んでいます。
 しかし、イベント・ムービーがこれくらいの予算規模になると、アメリカ国内で3億ドル以上の劇場収益をあげないとペイできず、アメリカ圏外の世界諸国での上映によって初めて純利益が生じるという状況です。

 映画1本の製作費が1億ドルの大台に乗った背景には、様々な要因が挙げられます。もちろん物価自体の上昇もそのひとつに違いありませんが、コストが高いビジュアル・エフェクトを多用した作品の台頭、ポスト・プロダクションの細分化、俳優の出演料の高騰化、さらにはヴィデオソフトや衛星放送などといった2次収益市場の拡大化によって、製作費の枠もそれに比例して大きくなったといえるでしょう。

つまり、現状としては以下のような収益構造が大ざっぱに成立しているわけです(細かい点を書き始めるときりがないのでかなり大ざっぱ)。

1:制作費はまずアメリカ国内の劇場公開で回収(宣伝費などを含んだ総制作費ではない点に注意)。大ヒット作や予算が少ない割にヒットするとこの時点で総制作費を回収してしまい、利益が出始める。その場合は速攻で続編の制作契約が取り付けられるケースもある。

2:もちろん海外展開することによる上映権の販売でも利益が出る。全世界同時上映でも同様に利益は出る。この段階で総制作費が回収されていないとまずい。

3:関連商品やDVD化などで2次利用、3次利用の利益が出始める。この段階でどれだけ利益が出るかにすべてがかかっている場合が一般的な作品の場合は多い。そのため、海賊版の摘発に必死になるのはここでの売上が直接利益に直結するため。場合によってはこの段階でしか利益が上がらない。

4:内容が良くできている作品はさらにロングヒット状態になるので4次利用、5次利用してもまだ利益を出し続ける。微々たる利益であってもちりも積もればなんとやら、という感じで総合的にはコレが積もり積もって利益を出している場合も多々あるため、著作権の時効による消滅はなんとしても避けたいという思惑が強く強く働く。

つまりロングヒットするようなものであれば、制作資金などの回収は終わっているわけであり、売れれば売れるほど利益が増えるので、絶対に何が何でも権利は離したくないし、このうまみがあるからなんとかギリギリ立っていられるという場合もあります。

ではまず「1」について見てみると、アメリカはその独特の国民性もあって映画人口が非常に多く、そのために映画館の料金が日本に比べるととても安いという事情があります。

Welcome to Arizona - アメリカ生活のヒント

入場料は子供が$4.50で大人は午後6時前が$6.00で、6時以降が$8.00。一般的な子供2人の家族で昼間見たとして$21。日本の大人料金1800円と子供料金1000円(小学生以下)だと、同じ家族構成で5600円かかり、半分以下の料金となっている。

外国の映画料金ってどのぐらい?

聞いてる範囲では、アメリカが5ドル(日本円で約650円)、フランスも日本円で約600円、お隣の韓国でも6000ウォン(日本円で約600円)と、だいたい日本の1/3程度の映画料金が世界の相場であるような雰囲気があります。ヨーロッパではもっと安いのが普通だとも聞いています。

★ALL アメリカ生活★ アメリカの映画 スパイダーマン

日本の映画館では確か大人1名 1,500円、子供1,100円程度であったと思いますが、アメリカでは映画はとても安く、この日は通常料金であったにもかかわらず大人一人 $6.5、子供$5.5と二人分合わせても、日本での大人一人分の料金よりも安い金額で見ることができます。

この料金はさらに土・日の午前中であれば大人も子供も一人 $4.0となり、また平日月曜日から木曜日までは終日の割引もあります。

BIG STEP ONLINE 「素顔のアメリカ」新発見

いわゆる2番館、3番館といったような、封切り後に上映する映画館では料金も安く、単館のインディーズ映画やクラシック上映館などでは、1~2ドルくらいで入れるところもあります。世界一入場料の高い日本では信じられない料金ですね。

で、大体どれぐらいの収益を公開第1週で上げているか、公開されてからどれぐらいの収益を上げたか、一体何館で上映されているのかはYahoo! Moviesの以下のページでわかります。

Yahoo! Movies - Weekend Box Office and Buzz

また、世界展開することを最初から考えているのも特徴です。これは「2」の上映権の海外販売だけでなく、「3」のDVD販売などにおいても、世界中の文化圏においてできるだけ広く受け入れられないとそれだけマーケットが狭くなってしまうためです。

で、日本の邦画の場合は以下のページにて非常に丁寧にまとめられて解説されています。

trivialities & realities: 映画出資と回収のシステム1

trivialities & realities: 映画出資と回収のシステム2

つまり日本の邦画の場合、世界をマーケットにするという発想はなく(後述するが世界を相手にできない事情がある)、国内だけで回収して利益を出そうとするケースがほとんどです。以下はテレビドラマの場合ですが、同じような状態が映画製作においても発生します。

ITmedia News:「日本のドラマは論外」 希薄なテレビ業界の意識

しかし、海外展開となると質の前に、言語や人種などの問題が立ちふさがる。

 NHKの番組販売を手がける国際メディア・コーポレーション海外販売部の今村研一担当部長は、「NHK臭、もっといえば、日本臭がしないものでないと売れない。たとえば日本人のアナウンサーが出てきた時点で、もう、売れなくなってしまう」と訴える。

これは全米で1位の楽曲が同じように日本でも1位になるかというとならない、というのを考えれば容易に理解できると思います。つまり文化の壁というのが想像以上に高いため、最初から国際的な展開を考えていないと、製作される映画そのものが利益を出しにくくなってしまっている。利益が出しにくいのであれば、予算もかけられるわけがない、と。

ですが、邦画だから予算がかかっていないというわけではない。このことは以下を読むとよくわかります。

映画の製作費について私が知っている二、三の事柄 日本映画篇

つまり、ハリウッド映画は高い予算をかけても回収が容易である(2次利用や3次利用を国際的に展開しやすい)という事情があるのに対して、日本の邦画は国内だけですべて回収しようという傾向が強いので思っているほど予算はかけられないというわけ。

また、この根本的な差が映画の質にも関わってくるのだからたちが悪い。お金をかければいい映画ができるわけではないのはハリウッド映画自身が示してくれていますが、結局のところ質のいいものを作らないと、2次利用まではできても、そこからあとの3次利用、4次利用ができない、あるいは利益が極端に小さい、ということです。「ITmedia News:「日本のドラマは論外」 希薄なテレビ業界の意識」でも以下のように書かれています。

「米ドラマは制作に潤沢な予算と時間をかけている。地上波放送やDVD化など先々の展開を考え、最高の脚本家とキャストを集め、完成度の高いドラマを作っている。当然おもしろくなるし、世界中で売れる」

これに対して日本映画のだめなところというのは、大ざっぱには以下のサイトに書いてあるような点が上げられます。

なぜ日本映画はダメなのか?

結果、何が起きたかというと、いわゆる「実写」よりも「アニメ」の方が低予算でそれっぽいのが制作でき、なおかつ国際展開もしやすいので資金回収がしやすいだけでなく収益もきっちり上がるようになってきた、と。

そして一体業界全体で何が起きてしまったのか、全体の概要でどれぐらい日本とアメリカの映画コンテンツ業界自体で差が出てきたかを数字で見てみましょう。財団法人デジタルコンテンツ協会が2006年にまとめた最新の「デジタルコンテンツ市場関連の調査研究業務(海外市場)報告書」(PDFファイル)によると、以下のようになっています。

日本の映画興行収入:2109億円
アメリカの映画興行収入:1兆321億円

約5倍の差

日本の観客動員数:1億7009万人(国の人口は1億2679万人)
アメリカの観客動員数:15億3610万人(国の人口は2億9366万人)

アメリカ国民一人当たり年に5回ほど映画館に足を運んでいる

日本の映画の平均入場料:1240円
アメリカの映画の平均入場料:672円

アメリカは日本の約半額ほど

日本の上映スクリーン数:2825
アメリカの上映スクリーン数:3万6594

日本の12倍ほど存在する

日本の映像ソフトの売上(セル):4362億円
アメリカの映像ソフトの売上(セル):1兆8011億円

アメリカは日本の4倍ほど売れている

日本の映像ソフトの売上(レンタル):3756億円
アメリカの映像ソフトの売上(レンタル):8786億円

アメリカは日本の2.3倍ほどレンタルの売上が多い

日本の映画興行収入における一人当たりの支出額:1652円
アメリカの映画興行収入における一人当たりの支出額:3515円

そもそも入場料が安いので見る本数はさらに差が開く

日本の映像ソフト売上における一人当たりの支出額:6358円
アメリカの映像ソフト売上における一人当たりの支出額:9125円

日本は劇場公開で資金回収が難しいために映像ソフトの割合が高くなりがちになるため、余計に規制が厳しくなりやすい

なお、日本から海外に販売している映画販売額は78億円。全然世界展開できてませんね……。このあたりが巡り巡って現場の製作、つまり予算に反映されてしまうわけですね。

ちなみに、アニメの海外販売分は映像販売+版権料収入などで163億円。音楽の海外販売分は5億7034万円。対してゲームの海外販売分は9614億円、圧倒的ですね。才能が映画ではなくゲームの現場にドンドン流れる理由もわかります。そうなると余計に映画には才能のある人がいなくなってしまい、空洞化に拍車が……。

予算がかけられないのは売上が出ないからで、売上が出ないから予算も少ないし、少ない予算だと世界に通用するような作品を作るのは無理があるため、できあがった作品の質は低下してしまい、3次利用や4次利用できないので利益を出せる期間は必然的に短くなり、利益が少ないので次の作品への予算はさらに減り、あるいは確実に利益が見込める作品以外には予算が割り当てられなくなる……というスパイラルが起きてしまっているわけです。

このような事情を鑑みると、かなり映画事業というのはリスキーであり、ギャンブルに近い状態なわけですが、これを改善するためには制作側の質を上昇させるしかないわけで。つまり質を上げることで「当たる」確率を上昇させるのが一番のリスクヘッジになるわけです。

が、実際には何をしたのかというと、こういうことをして利益を上昇させました。

【レポート】ジブリはやはり強かった! 邦画が洋画を逆転した'06年映画ランキングを斬る (2) 映画制作事情の今昔 | エンタテインメント | マイコミジャーナル

邦画興行成績上位10作品のすべてにテレビ局が製作・出資しているのも06年の特徴だ。最近の邦画製作の主流である。テレビ局、映画配給会社、原作の出版社、広告代理店などが参加して製作委員会を組織し、それぞれ得意な戦略で映画を宣伝する。つまり、テレビ局はたくさんのCMを打ち、特番や人気番組で作品を紹介。出版社は自社雑誌への出稿や原作本の販売強化。広告代理店は多角的なマーケティング戦略を練る。これにより公開前の一定期間、ユーザーは否が応でもあらゆるメディアから映画宣伝の洗礼を受けることになる。はじめはあまり興味がなくても、テレビや雑誌、ネットのクリック広告で繰り返し宣伝されていると、その映画の存在が忘れられなくなってしまう。その成果が数字となって現れた結果ともいえるだろう。

結果、2006年度は邦画と洋画のシェアが逆転し、邦画が洋画の収益を上回ったわけです。

しかし……

邦画と洋画のシェア逆転へ/テレビの感性でヒット連発

ただ、興収の総計も映画館の入場者数も過去五、六年、大きく増加したわけではない。一方で、ブームに乗って外部から映画業界に製作資金がつぎこまれ、昨年の邦画公開本数は前年に比べ15%以上増える見通しで、供給過剰との指摘もある。

キネマ旬報映画総合研究所の掛尾良夫(かけお・よしお)所長は「ブームと言うが、洋画の観客が邦画にシフトしただけ。入場者を増やす努力をしなければ、早々にバブルが崩壊するかもしれない」と懸念する。

本腰を入れて質を上げる努力をしないと、どこかで破綻する、と。

日本でも予算を十分にかけて世界に通用し、なおかつ名作の領域に突入して末永く語られる映画が量産される日は来るのでしょうか……?

SF MOVIE DataBank:邦画興行収入ランキング

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in 動画,   コラム, Posted by darkhorse

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