コラム

マイケル・ムーア監督次回作「Sicko」を米政府は必死で押収したいらしい


マイケル・ムーア監督と言えば、2002年に「ボウリング・フォー・コロンバイン」で銃社会の真実を突きつけ、さらに2004年の「華氏911」でブッシュ大統領政権に切り込んだことで超有名ですが、2007年に公開予定の最新作「Sicko」(シッコ)について大問題が発生しているそうです。なんと米国財務省がフィルムを押収することを画策しており、危機感を抱いたマイケル・ムーア監督はフィルムのコピーを既に海外のいずこかへと輸送して万が一の事態に備えたらしい。

なお、今回の映画「Sicko」は医療問題を扱っており、これを知った全米の医療業界は「マイケル・ムーア対策マニュアル」を制作して戦々恐々となったとのこと。

気になる映画の中身とか、ついに米国政府を完全に敵に回してしまった詳細、およびこの映画がなぜそこまで目を付けられることになったのかという事情などは以下の通り。
まずは映画の中身から。日本は当然ながらアメリカではないので、予定通りであれば2007年8月には公開予定です。Flash形式などの予告編が以下の公式サイトから見ることができます。

映画『シッコ Sicko』公式サイト
http://sicko.gyao.jp/

ちなみに「Sicko」とはどういう意味かというと辞書的には「変質者」ですが、俗語的解釈をするとこういう意味らしい。

マイケル・ムーアさんの次作は「Sicko」(原題) おumaちゃんの部屋/ウェブリブログ

Sicko とは俗語で、使い方は微妙で、病人程度なら良いけれど、精神病患者。精神異常者。変質者的意味がある。通常は使い方に気をつけないといけないようですが、ある意味意図を持って使ったのだろうと思います。

で、何がどうなったらアメリカ政府にフィルムを押収されるかもしれない事態にまで陥ってしまったのかというのは以下に書かれています。

US government trying to seize new Michael Moore film, says producer | Features | Guardian Unlimited Film

CNN.co.jp : マイケル・ムーア監督がキューバで撮影、米財務省が調査 ? - エンタテインメント

どうもはっきりとはわからないのですが、あちこちの情報をつなぎ合わせると、ラスト20分ぐらいで、同時多発テロ事件直後に現場で働いていた人々がビルの残骸に大量に含まれていたアスベストによって病気になったが、アメリカの医療サービスをまともに受けられないため、キューバに連れて行ったらちゃんと治療が受けられたよ、どうなってんだこのアメリカは!という流れになるシーンがあるっぽいのですが、そのキューバへの取材渡航の際に「ジャーナリスト」として監督は申請したが、米国財務省いわく、人を一緒に連れて行っているので「旅行業」ではないか、そうであるならば「引率者」と書くべきであり、マイケル・ムーア監督が行ったのは虚偽の申請になる、そうであれば対キューバ禁輸政策に抵触する違法な行為によってこの映画は撮影されており、違法行為によって撮影されたフィルムはもちろん押収する……そして上映は不可能になる……という意味不明な理由のようです。


あくまでも推測ですが、今回の映画では民間保険業者と製薬会社がターゲットとなっているらしく、「健康でいたければ、病気にならないようにするしかない」というコメントがマイケル・ムーア監督から出ていることも合わせると、おそらくはかなり民間保険業者と製薬会社にとって不利になるようなことが描かれているようです。しかもその矛先はアメリカの医療業界だけではなく、医療保険制度全体に向けられており、そのため今回のカンヌ映画祭の前にできればアメリカ政府(正確には医療業界と癒着して利益を得ている政治家たち)としてはフィルムを押収したい、さもなくばアメリカで上映される2007年6月29日までになんとか押収して上映を阻止したいというのが本音っぽい。日本で政府が上映させないために押収するなど、まず考えられないのですが……。

ここで不思議になるのは、医療業界が一体どういう影響力で政治家を動かして政府の各機関を動かすにまで至ったのかと言うことですが、この点は日本とはかなり違うので気をつけないといけません。

客観的にアメリカの医療制度の事実をまとめているページとしては、以下のページが非常に詳細に制度的な内容にまで踏み込んで解説しているのでわかりやすいです。

アメリカの医療の現状‐(社)大阪府医師会

かいつまんで説明すると、米国の医療費はGDPの約15%であり、一人あたりの医療費は5635ドル、世界で最も高いレベル。この医療費の支払い元の内訳を見るとトップが「民間保険」で36%。日本で言うところの健康保険とは意味が全く違っており、日本のような健康保険は「メディケイド(低所得者向け医療扶助)」というのがそれに相当しており、高齢者や低所得者しか適用されません。つまりほとんどの人は民間保険になるわけですが、これは任意加入。大体は会社が従業員に加入させている。もちろん負担は会社にとって大きい。そして65歳未満で見た場合、民間保険加入者は7割、1割はメディケイド、そして残りの2割はなんと「無保険」になっています。

さらにこの民間保険にも問題があり、医療用医薬品が日本と違って「自由価格制」であるため、薬局は民間保険会社からまず償還され、そして残りが患者の自己負担となるわけです。この手順の何が問題かというと、民間保険会社によってこの医薬品の「ランク付け」が協議されて行われており、民間保険会社が推奨する製薬メーカーの薬であれば少額の自己負担で済むが、そうでないライバル製薬メーカーの薬であれば高額の自己負担……というような感じになっているわけです。

つまり、製薬会社は市場占有率を上げるためにより有利な条件で民間保険会社と提携し、値引きを行ったりいろいろと画策しています。そのため、効果のある薬であっても保険が全然適用されず高価になっている場合があり、そうなると負担が大きすぎて治るものも治らないよ、というわけ。

上記のような事実はごく一般的に知られていることなので、おそらくマイケル・ムーア監督次回作「Sicko」ではさらに突っ込んだ内容を突撃インタビューとかで明らかにしていくのではないか?と予想されます。期待大。

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in 映画,   コラム, Posted by darkhorse

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