Sakana AIのデイビッド・ハCEOが「日本型AI」について語る

日本発のAIスタートアップSakana AIでCEOを務めるデイビッド・ハ氏がDisrupting Japanのポッドキャストで「日本企業へのAI実装」「巨大モデル競争とは異なる戦略」「日本に合わせたAI開発の考え方」について語りました。
The future of AI looks very different in Japan - Disrupting Japan
https://www.disruptingjapan.com/the-future-of-ai-looks-very-different-in-japan/
Sakana AIは2023年にデイビッド・ハ氏、ライオン・ジョーンズ氏、伊藤錬氏が東京で設立したAI企業です。ライオン・ジョーンズ氏はChatGPTなどの基盤にもなったTransformerを提案した論文「Attention Is All You Need」の共著者の1人で、ハ氏はGoogle Brainの日本チームを率いた経験を持つ研究者。いかにも巨大AIモデルをゼロから作って世界の消費者に配る会社に見えますが、ハ氏は「Sakana AIの入り口は違う」と語っています。

アメリカのAI企業ではまず誰でも使えるチャットボットや基盤モデルを公開し、利用者を増やしてから収益化を狙う動きがよく見られます。一方でSakana AIは日本の大企業と組んで、融資の申込書類を読む、論点をまとめる、資料の下書きを作る、担当者が確認するといった業務ごとに調整したAIワークフローを導入する道を選んだとのこと。
Sakana AIが重視しているのは「AIが人間の代わりに決める」ことではなく「人間が判断する前の作業をAIが支える」ことです。たとえば三菱UFJ銀行とのプロジェクトでは、融資判断を自動で承認・否認するのではなく、融資判断に使う資料の下書きや根拠整理をAIが支援する考え方が説明されています。金融の判断は企業や働く人の将来に関わるため、AIが結論だけを出す仕組みではなく、人間が根拠を読み、同意または修正できる形にする必要があるというわけです。
SMBCグループとの取り組みでは、企業向け提案書を作るための情報収集、分析、仮説構築、資料作成を複数のAIエージェントで進めるアプリケーションが紹介されています。AIエージェントは目的に合わせて作業を分け、検索や要約や資料作成のような複数の工程を進めるAIのことで、人間が白紙のスライドから作業を始めるのではなく、AIが社内基準に沿ったたたき台を用意し、担当者が確認して仕上げる形になっているとのこと。

企業向けAIを支える考え方として、ハ氏が強調しているのが「ルーティング」です。AIモデルには、安く速く動くモデル、推論が得意なモデル、コードが得意なモデル、日本語や日本文化に合わせやすいモデルなど得意不得意があります。簡単な資料の要約に高価な最先端モデルを使い、難しい分析にも同じモデルを使うと費用がふくらむため、タスクごとに適切なモデルへ振り分ける仕組みが必要になるとのこと。
ハ氏は「ルーティングの考え方はアメリカや中国の巨大モデルに頼り切らないための備えにもつながる」と語っています。さらに自社モデル、オープンソースモデル、アメリカのフロンティアモデルなどを組み合わせ、利用者が使いたくないモデルを外せるようにする構想にも触れ、「特定の国や企業の技術に依存しすぎず、必要に応じて使い分けられる能力を持つことでAI主権の確保につながる」と訴えました。
Sakana AIが2026年3月に一般ユーザー向けに公開したSakana Chatにも、日本向けAIの方向性が表れています。Sakana Chatには、日本向けに調整した大規模言語モデル「Namazu」シリーズのアルファ版が搭載されており、ウェブ検索機能も組み込まれています。ハ氏によると、Namazuは日本の文化や価値観に合わせるだけでなく、推論やツール利用にも対応することを意識しているとのこと。大阪弁のように話すモードも用意されており、日本向けに作るという姿勢を分かりやすく示す要素になっています。
日本に拠点を置くAI企業のSakana AIが日本仕様の無料AIチャットサービス「Sakana Chat」を公開 - GIGAZINE

ただし、日本向けにAIを調整する作業は、単語を日本語に翻訳すれば終わる話ではありません。海外で作られたモデルには開発元の国や社会の前提が入り込むことがあり、日本で使うには偏りを減らし、日本の知識や価値観を追加しながら、数学や推論やコード生成の能力を落とさないようにする必要があります。ハ氏によると、追加学習の過程で元の能力を忘れてしまう「破滅的忘却」という問題もあるとのこと。
Sakana AIは研究面でも、AIがアイデア出しから実験、論文執筆までを進める「The AI Scientist」などを発表してきました。研究成果を企業向けの業務支援へ移し、企業で得た知見をさらにAIの改善に使う流れは、研究所とシステム開発会社の中間のようにも見えます。ハ氏は、従来は拡大しにくいと見られていた日本型のシステムインテグレーションも、AIで補強すれば世界で使われるモデルになる可能性があると語っています。
Sakana AIは日本で株式会社として設立され、海外投資家から資金を集めた後、日本の大企業からの戦略投資も受けています。日本のスタートアップが大型資金調達をするなら海外法人にすべきという通説に対し、Sakana AIはかなり変わった実例になっているとのこと。ハ氏は「会社設立や日本での起業は外から想像されるほど難しくない」とも話しています。
日本企業のAI活用は、派手な発表よりも実際に動くことを重視するため、外からは進んでいないように見える場合があります。しかし融資審査や提案書作成のような中核業務にAIを入れる取り組みを見ると、AIの使い方はチャットボットの利用回数だけでは測れません。「巨大モデルを作って世界を取りに行くのではなく、現場に入り込み、複数のモデルを使い分け、担当者が責任を持てる形で仕事を変えていくことが日本のAI活用の特徴だ」とハ氏は述べています。
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in AI, Posted by log1d_ts
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