イヌの脳はいつオオカミより小さくなったのか?

現代のイヌはオオカミより脳が小さいことが知られています。これは家畜化に伴う変化のひとつと考えられてきましたが、イヌの脳がいつごろから小さくなっていったのかについては議論が続いていました。古代のイヌやオオカミの頭蓋骨を調べた研究により、イヌの脳がいつごろからオオカミより小さくなったのかを探る手がかりが示されています。
Brain size reduction in dogs was already established at least by the Late Neolithic of western Europe, 5,000 years ago | Royal Society Open Science
https://royalsocietypublishing.org/rsos/article/13/4/252453/481514/Brain-size-reduction-in-dogs-was-already

The 'tail' of the shrinking dog brain: Study reveals they began getting smaller 5,000 years ago
https://phys.org/news/2026-04-tail-dog-brain-reveals-began.html
フランス国立科学研究センター(CNRS)のトマ・クッチ氏らが分析したのは、約3万5000年前~約5000年前の先史時代のイヌとオオカミ22個体、現代のイヌ104個体、現代のオオカミ59個体です。現代のイヌ104個体には、特定の犬種として管理されていない自由生活犬やディンゴも含まれていました。
その中でも今回の研究では、ベルギーのゴイエ洞窟で発見された約3万3000年前の原始犬、フランス南部のボーム・トロカード洞窟遺跡で発見された約1万5000年前の原始犬、そしてフランス東部の新石器時代後期の湖畔集落であるシャランで見つかった約5000~4500年前の犬(以下、シャラン犬)が、オオカミとの脳サイズ比較で重要な対象になりました。以下の図の左側にはそれぞれの頭蓋骨モデル、右側には出土地が示されています。

脳そのものは数千年単位では残らないため、クッチ氏らはそれぞれのイヌやオオカミの頭蓋骨のCTスキャン画像を分析しました。頭蓋骨内部の空間を3Dモデルとして復元したものは「エンドキャスト」と呼ばれ、かつてその頭蓋骨の中に入っていた脳の体積を推定する手がかりになります。
頭蓋骨の内部にあった空間は、CTスキャン画像から以下のように復元されます。黄色で示されている部分がエンドキャストで、クッチ氏らはこれを使って脳サイズの代理指標となる頭蓋内容積を調べました。

クッチ氏らは、脳の実際の大きさにおおむね対応する頭蓋内容積だけでなく、頭蓋骨の長さに対する相対的な頭蓋内容積も比較しました。これにより、小型犬が体格の小ささだけで「脳が小さい」と判定されないようにしたとのこと。
分析の結果、ベルギーのゴイエ洞窟で見つかった約3万3000年前の原始犬や、フランス南部のボーム・トロカード洞窟遺跡で見つかった約1万5000年前の原始犬では、同時代のオオカミより脳が小さくなっている証拠は見つかりませんでした。これらの原始犬は人間の近くで暮らしていたとみられるものの、脳サイズはオオカミと同程度でした。つまり、イヌがオオカミから分かれて人間と関わるようになってすぐに脳が小さくなったとは言えないことが示されました。
一方で、大きな変化が見つかったのがシャラン犬です。クッチ氏らは「約5000~4500年前のシャラン犬は、同時代のオオカミと比べて脳サイズが46%小さくなっていた」と報告し、脳容量については「現代のトイ犬種に近かった」と説明しています。

脳サイズの縮小は、脳組織の構成変化と関連していた可能性があります。クッチ氏らは、複雑な処理に関わる大脳皮質の割合が相対的に小さくなり、反応的・本能的な応答が相対的に重視されるようになった可能性があると考えています。こうした変化があった場合、イヌは不安や警戒心が強くなり、未知の刺激に敏感になったりよく吠えたりする傾向を持つため、集落に異変を知らせる「警報装置」のような役割に向いていた可能性があります。
クッチ氏らは、新石器時代にイヌの脳サイズが縮小したことは、残飯をあさる存在、肉の供給源、狩猟に使われる存在といった役割に加え、「集落に脅威を知らせる」という役割を担っていた可能性について重要な手がかりを与えると述べています。

ただし、この研究は「脳が小さくなったためイヌの知能が下がった」と示すものではありません。今回調べられたのは頭蓋骨内部の空間から推定した脳サイズであり、脳のどの部分がどう変化したのかや、行動や認知能力がどのように変わったのかを直接示しているわけではありません。クッチ氏らは、さらに多くの古代犬の標本を調べることで、イヌの脳がいつ、どのような人間との関係の中で小さくなっていったのかを詳しく検証できると考えています。
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in サイエンス, 生き物, Posted by log1b_ok
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