サイエンス

人間による品種改良が犬の外見だけでなく脳の構造まで変化させてきたことが判明

by sarandy westfall

世界中でペットとして愛されている犬は、オスの平均体高が71cmという超大型犬のニューファンドランドから、体長10cm未満という靴よりも小さな世界最小の犬まで、さまざまな大きさのものが存在します。

Significant neuroanatomical variation among domestic dog breeds | Journal of Neuroscience
https://www.jneurosci.org/content/early/2019/08/30/JNEUROSCI.0303-19.2019

As humans shaped dogs’ bodies, we also altered their brains - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/science/2019/09/02/humans-shaped-dogs-bodies-we-also-altered-their-brains/

世界中に存在する犬種は700~800種類ともいわれており、走るのが速い犬やジャンプ力のある犬、泳ぎが得意な犬など、さまざまな種類が存在します。ブラッドハウンドは嗅覚、グレイハウンドは視力が優れており、ジャック・ラッセル・テリアはキツネ狩りが得意と、犬種によって得意分野は大きく異なります。

そんな犬は約1万5000年以上前にオオカミを家畜化したことから始まったとされていますが、ペットとして広く親しまれるようになったのはヴィクトリア朝時代以降です。この時代から犬の品種改良が広く行われるようになります。人間による品種改良が進み、犬の大きさや形、色、行動といったものは自然界のものから大きく変化していますが、こういった品種改良の結果、犬は脳の構造すらも変化させてきたことが最新の研究結果から明らかになっています。

by ipet photo

人間が犬に対して行ってきた品種改良が、体だけでなく脳の構造にも影響を及ぼしているということを明らかにした研究論文は、科学誌のJournal of Neuroscienceで公表されました。研究チームは犬の脳の神経学的評価を行うため、ジョージア大学の獣医教育病院に訪れた62頭の犬の脳をMRIでスキャンしています。

調査対象となった62頭の犬種は33種類で、すべて「脳は健康」と診断されて動物病院から退院しています。「健康」と診断されたということで、脳に異変はないはずなのですが、MRIのスキャン結果は研究チームに多くの知見を与えてくれたとのこと。研究チームを率いたハーバード大学のエリン・ヘクト助教授は、「我々が最初に抱いた疑問は、異なる品種の犬の脳は異なるのか?ということでした」と、研究の当初の目的を明かしています。

調査の結果、ダックスフントドーベルマンといった犬種ごとの体のサイズを考慮した上であっても、脳のサイズや形には明確な違いが見つかったそうです。

by ipet photo

また、研究チームが最も変化が大きい脳の領域を調べたところ、嗅覚や運動能力といった特定の能力と結びつく6つのニューラルネットワークのマッピングに成功しています。これらのニューラルネットワークの形状は、各犬種に共通する特性と有意に相関していることが明らかになっています。

ヘクト助教授は、「脳の構造に起きている変化の一部は、狩猟や牧畜、警備といった特定の行動に対する選択的な品種改良を行ってきた影響であると考えられます」とコメント。研究結果を言い換えるなら、犬の脳の形やサイズは品種によって異なるというだけでなく、それぞれの脳の構造も異なることが判明したということになります。つまり、人間が犬の品種改良を行う中で、脳の構造自体も変化させてきたということを示しているわけです。

ネブラスカ大学のCanine Cognition and Human Interaction Labでディレクターを務めるジェフリー・スティーブンス氏は、今回の研究はMRIのデータを賢く使用したものであり、その成果は「刺激的なものである」と指摘しました。

by alan King

研究の被検体となった62頭の犬は、すべて使役犬ではなく飼い犬でした。たとえば偉大な狩猟犬の血を継いでいる犬であっても、現代で飼い犬として飼育されていれば、偉大な祖先と同じような能力を発揮することは難しいものです。これについてヘクト助教授は、「何かを学ぶたびに脳に新しいシワができるわけではありません。しかし、新しい言語を習得したり、新しい運動技能を習得したりすると、脳に変化が起こることを証明する多くの研究が存在します」とコメント。つまり、元々は狩猟犬であるラブラドール・レトリバーであっても、ハンターの撃ち落とした鳥を野山で捜索している「狩猟犬として扱われている個体」と、そうでない個体では脳の構造が異なる可能性があると指摘しているわけです。

研究に参加したアリゾナ大学の学生であるダニエル・ホーシュラー氏は、「犬種により生態・行動・環境面に大きな違いがあるとはいえ、『犬』という単一の動物の中でこれだけ大きな違いが犬種ごとに確認できるということは非常に興味深いことです」と語っています。

by Jack Brind

なお、ヘクト助教授は能力の高い個体と低い個体の違いを脳の構造から分析しようとしており、「たとえば現実世界で群れの中の競争に勝っているボーダーコリーや、何らかの理由でソファに座ったままの犬など」の脳構造を調べることを次の目標として掲げています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by logu_ii

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