インドでは選挙で優位を得るためソーシャルメディアアプリを利用して偽情報の拡散やヘイトの扇動が行われている

オンラインプラットフォームの影響力が増し、選挙結果に影響を与える事例も報告されるようになっていますが、プラットフォームの運営主は政治広告の開示を義務付けたり、政治広告をブロックしたりと、独自の対策を実施しています。しかし、インドではほとんど制限なしで選挙活動に利用されているソーシャルメディアアプリもあり、偽情報の拡散やヘイトの扇動に一役買っていることを、非営利の調査報道メディアであるThe Reporters' Collectiveが報告しました。
New Home for Hate
https://www.reporters-collective.in/trc/new-home-for-hate

インドのナレンドラ・モディ首相は、ヒンドゥー至上主義派の政治家として知られています。モディ首相は2024年4月に、議会選挙運動が激化する中で、「議会は財産を集め、より多くの子どもを持つ者たちに与えようとしています」と語り、イスラム教徒を激しく非難しました。しかし、The Reporters' Collectiveはモディ首相の発言を「扇動的なウソ」と批判しています。
モディ首相のこの発言は、同氏の支持者を沸かせ、インターネット上ではイスラム教徒に対する憎悪の投稿やメッセージが数えきれないほど投稿される事態となりました。ヒンドゥー教組織ヴィシュヴァ・ヒンドゥー・パリシャドのカーシー支部で役員を務めるアンシュマン・シン氏も、インターネット上でモディ首相の発言を取り上げ、「イスラム教徒はヒンドゥー教徒よりも貧しいにもかかわらず、より多くの子どもを産んでいる」と非難。さらに、シン氏は議会が2024年の選挙に向けて提案した福祉プログラムでは、イスラム教徒が法外な給付金を受け取ることになると主張しました。
モディ首相の支持者たちは「チーム・モディ支持者協会」と呼ばれるチャットグループで意見交換を行っており、ヘイトスピーチ監視団体や選挙管理委員会の監視から逃れた場所でカルト的な集まりを作り出しているそうです。チーム・モディ支持者協会は、MetaのFacebookやInstagram、X(旧Twitter)、Discordといった「理論上は監視の目にさらされているプラットフォーム」ではなく、草の根政治活動をターゲットにしたコミュニティアプリである「Kutumb」上で連絡を取り合っています。
Kutumb上にあるチーム・モディ支持者協会のチャットグループには、70万人ものユーザーがおり、インド人民党の政治メッセージを広めるために活用されているそうです。

The Reporters' Collectiveは2024年の選挙期間中に、MetaやGoogleに掲載された130万件以上の政治広告をスキャンし分析している際に、選挙管理委員会や民間の監視団体の目を逃れるように運営されているいくつかのオンラインコミュニティを発見しました。
これらのコミュニティは政治戦略家、インド人起業家、怪しげな団体によって運営されているアプリ上に構築されています。これらのアプリはほとんど制約がなく、政治的な内容を抑制されずに拡散することができるため、The Reporters' Collectiveは「強力で隔離されたデジタル世界を作り出すことができる」と指摘しました。そして、これらのアプリ上では何百人ものインド人たちが問題行為であると指摘されることを恐れることなく、人々を扇動することが可能です。
The Reporters' CollectiveはKutumbをはじめとする選挙活動で異様な効果を発揮しているアプリを徹底的に調査しており、オンライン上の憎悪や偽情報を拡散するのに大きな役割を担っていることを明らかにしています。そして、このようなマイナーアプリ上で政治運動を行う政治関係者の筆頭がインド人民党であると指摘しました。
Kutumbなどのインド発のソーシャルメディアアプリは、ほとんど監視を受けずに運営されています。大手テクノロジー企業は、少なくとも表面的には政治的メッセージに関する独自の規範と開示要件に従おうとしていますが、Kutumbなどはこういった規範に従っていません。
技術政策研究者のプラティーク・ワグレ氏は、「政府にこうしたアプリに対する追加的な管理を課すことは、固有のリスクがあります。歴史が示唆するように、権限の行き過ぎは大いにあり得ますし、政府はこの機会を利用して、自分たちに不利なあらゆるデジタル政治組織を検閲する可能性があります。また、『政治アプリ』を明確に定義することも困難です。Change.orgのような署名集めやニュースレターの送信といった一般的な役割を担うアプリでさえ、『政治アプリ』に分類される可能性があります」と述べ、政治運動に利用されているソーシャルメディアアプリに規制を課すことには独自のリスクがあると指摘しました。

インターネット上での選挙活動が活発になるにつれ、インドの政党は怪しげなアプリや組織を歓迎するようになったとThe Reporters' Collectiveは指摘。その理由は簡単で、記事作成時点ではインドでアプリに対する規制がほとんど存在しないためです。
インドで選挙活動に利用されているアプリにはさまざまな種類のものがありますが、中でも注目を集めているのがKutumbです。Kutumbはソーシャルネットワーキングアプリを自称しており、ローカルな政治ネットワーキングサイトとして独自の地位を確立しています。より厳しいコンテンツモデレーションポリシーを持ったソーシャルメディアアプリと比べると、Kutumbは規制がほとんどないに等しく、多くのインド人の代替手段になっているそうです。
Kutumbでは政党名を含むあらゆる名前でグループチャットが作成されており、ユーザーは自身の支持する政党に関するコンテンツを閲覧したり投稿したりすることができます。Kutumbによると、政治関連のグループは2万件以上存在するそうです。Kutumbが人気な理由は、ファクトチェッカーがおらず、反対派から異議を唱えられることもないため、ルールやガイドラインに縛られることなく自由にコメントを投稿することが可能という点にあります。
KutumbはPrimetrace Technologiesというスタートアップが所有するアプリで、Sequoia、Tiger Global、Whiteboard Capitalなどのベンチャーキャピタルからの資金提供を受けています。共同創設者でありCEOも務めるアビシェク・ケジリワル氏は、Kutumbについて「私たちがアプリを始めた時、すでに追い風を感じました。小さな政党、市役所、その他のコミュニティを含む多くのグループが、互いにコミュニケーションを取る手段を持っていなかったため、Kutumbのようなプラットフォームが必要であることは明らかでした」と語っています。
Kutumb上でどのようなコミュニケーションが行われているかをThe Reporters' Collectiveが調査したところ、インド人民党の支持者が作成したチーム・モディ支持者協会では、オンライン上でのプロパガンダの拡散や、地元の支持者を集めての啓もう活動などが確認されています。
Kutumb上にあるインド人民党のグループチャットでは、「インド国民会議党がラーム寺院に抗議した」などの過激な偽情報も大量に投稿されており、「インド人民党への反対票は、ヒンドゥー教そのものへの反対票である」といった極端な主張も含まれていた模様。しかし、The Reporters' Collectiveの調査によると、インド国民会議派などの対立政党を支持するKutumb上のグループチャットでは、インド人民党のコミュニティほど過激な投稿は行われていなかったそうです。

Metaによると、Kutumbの運営元であるPrimetrace Technologiesは長年にわたってFacebook上で政治広告を掲出し続けてきた企業だそうです。Primetrace Technologiesとその関連会社は、2020年9月から2025年2月までの期間に1702件の政治広告を掲出しており、これらの広告は合計で1億7300万回から2億300万回も閲覧されています。
Primetrace Technologiesが掲出した選挙広告は、政党の最も有名な政治家の写真と一緒に「Kutumbのコミュニティに参加し、自身の支持する政党の勝利を確実にするために協力しよう」といったキャプションが付けられたものであるとThe Reporters' Collectiveは指摘しました。
これらの広告の大部分は2021年2月から2023年7月までKutumbのビジネスおよびパートナーシップの責任者を務めていたスワタントラ・ヴァーマ氏によって掲出されたもので、広告費の合計額は1億8800万ルピー(約3億2000万円)を超えるそうです。

選挙活動に利用されているのはKutumbだけではありません。The Reporters' Collectiveは、政治ポスターを生成するためのFAXアプリネットワークも発見しています。このアプリネットワークは政治コンサルタント会社のPolitical Academyが運営しているそうです。Political Academyの元取締役や主要経営陣は、インド人民党の独自アプリである「Sangathan Reporting and Analysis」を開発した別のコンサルティング会社である「Jarvis Technology&Strategy Consultin」とも関係があります。
Political AcademyはGoogle PlayでShare Post、Post Karo、Political Poster Makerという3つのアプリを配信しており、どのアプリも同じUIを備えており、月額99ルピー(約168円)で政治キャンペーン用のポスターを作成することができます。なお、プライバシー活動家のスリニバス・コダリ氏によると、この種の政治ポスター作成アプリは、PCなしでデジタル選挙活動に参加できるようにするためのものだそうです。
他にも、インド人民党を支持するアプリとして「Posters for B」も発見されています。Google Playのアプリページ上に記載されている情報によると、このアプリは「Dzine Box Consulting Solutions」という組織によって開発されたものです。Dzine Box Consulting Solutionsのウェブサイト上では拠点がハリヤーナ州グルグラムにあるNovus Towersとなっていますが、Metaのプラットフォーム上では拠点がウッタルプラデーシュ州アヨーディヤーとなっており、どちらの住所でも会社が運営されている実態は掴めなかったそうです。
運営実態のない企業であるにもかかわらず、Dzine Box Consulting SolutionsはMeta上で政治広告に650万ルピー(約1100万円)以上を投資していることが明らかになっています。この政治広告の中で、Posters for Bはインド人民党の活動家を募集し、選挙運動用の政治ポスターの作成を支援しています。
The Reporters' CollectiveはDzine Box Consulting Solutionsに直接問い合わせしていますが、同社からの返答は「当社はいかなる政党とも提携しておらず、ユーザーが提供するポスターに名前と写真を追加するソリューションを提供しているだけです。Posters for Bはソフトウェアソリューションであり、コンテンツプロバイダーではありません」というものだったそうです。
ただし、Posters for Bのランディングページにはインド人民党のロゴと自らのロゴである「BP」が並んで表示されています。

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in モバイル, ソフトウェア, Posted by logu_ii
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