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産業用ラズパイ「CM5」の冷却ハック、公式ファンと公式ヒートシンクで極冷え安定稼働を実現してみた


産業向けRaspberry Pi「Raspberry Pi Compute Module 5(CM5)」の開発キットには「公式空冷ファンと公式ヒートシンクが付属するのに、両方とも装着するとケースのフタが閉まらない」という大きな問題が存在しています。そこで、空冷ファンとヒートシンクのどちらの方が冷えるのか検証したり、両者の共存を試みたりしてみました。加えて「OSをシャットダウンしても空冷ファンが爆速で回り続ける」という問題の解決方法も見つけたのでまとめておきます。

Raspberry Pi Compute Module 5 – Raspberry Pi
https://www.raspberrypi.com/products/compute-module-5/?variant=cm5-104032

・目次
◆1:Raspberry Pi Compute Module 5とは?
◆2:空冷ファンとヒートシンクの冷却性能を比較
◆3:空冷ファンとヒートシンクを共存させて効率良く冷却
◆4:冷却手法ごとのベンチマークスコアを比較
◆5:OSのシャットダウン時に空冷ファンを停止させる方法

◆1:Raspberry Pi Compute Module 5とは?
CM5はRaspberry Pi 5と同等の処理チップを搭載した産業および組み込み用途向けのコンピューターです。CM5にはUSBポートなどの入力端子が搭載されておらず、ユーザーは必要な端子を搭載したI/Oボードを購入したり設計したりすることでオリジナルのコンピューターを作ることができます。


Raspberry PiはCM5用の公式I/Oボードやケースを用意しており、それらが付属した開発キットも販売しています。CM5や開発キットの詳細は以下の記事にまとめています。なお、CM5は記事作成時点では技適を取得していないため、「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」の届出を行った上で使用しています。

産業向けラズパイ「Raspberry Pi Compute Module 5」の開発キットが届いたので内容物&搭載チップを詳しく観察してみたよレビュー - GIGAZINE


◆2:空冷ファンとヒートシンクの冷却性能を比較
公式ケースにはあらかじめ空冷ファンが搭載されています。


当然のことながら、空冷ファンを装着した状態でもケースのフタを完全に閉じることができます。


空冷ファンの冷却性能を検証するために、stressコマンドでCPUの全コアに100%の負荷をかけながら「CPUの温度」(青)、「CPUの動作周波数」(緑)、「ファンの回転数」(赤)の推移を測定した結果が以下。なお、横軸の単位は100ミリ秒です。負荷をかけている間はCPU温度の上昇速度に対してファンの回転数上昇が遅く、動作周波数が定格の2.4GHzより低くなってしまいました。負荷を止めた後はCPU温度が下がって動作周波数も安定しています。


次に、ヒートシンクを装着した際の冷却性能を検証します。まず、ケースから空冷ファンを取り外します。


ヒートシンクを装着。


フタを閉めます。


ヒートシンクを装着した状態で、CPUの全コアに100%の負荷をかけながら「CPUの温度」(青)と「CPUの動作周波数」(緑)の推移を測定した結果が以下。約10分間は定格の2.4GHzを保てましたが、その後は動作周波数が下がってしまいました。


◆3:空冷ファンとヒートシンクを共存させて効率良く冷却
一般的なデスクトップPCでは空冷ファンとヒートシンクを組み合わせて冷却しています。「CM5も空冷ファンとヒートシンクを組み合わせれば効率良く冷却して安定稼働させられるはず」と考え、なんとか両者を共存させてみることにしました。


何も対策せずに空冷ファンとヒートシンクを装着すると、以下のようにケースのフタが閉まりません。


そこで、空冷ファンをフタの外側に固定し、ケーブルを延長してI/Oボードに接続することにしました。


内側はこんな感じ。ファンのケーブルが通気孔を通ってI/Oボード上の端子につながっています。


これで空冷ファンとヒートシンクをどちらも装着した状態でフタを閉めることができました。なお、今回は用意しませんでしたが、この状態で常用する場合はファンガードを用意するのがベターです。


CPUの全コアに100%の負荷をかけながら「CPUの温度」(青)、「CPUの動作周波数」(緑)、「ファンの回転数」(赤)の推移を測定した結果が以下。「温度が上昇するとファンの回転数が上昇して冷やし、温度が低下するとファンの回転数も下がる」という理想的な動作を実現できました。CPU動作周波数も定格の2.4GHzを保てています。


◆4:冷却手法ごとのベンチマークスコアを比較
「空冷ファンのみ」「ヒートシンクのみ」「空冷ファンとヒートシンク」という3種の冷却手法で処理性能が変わるのかを検証してみました。

以下のコマンドでベンチマークツール「UnixBench」をダウンロードして整数演算処理性能テスト「dhry2reg」を実行します。

git clone https://github.com/kdlucas/byte-unixbench.git

cd byte-unixbench/UnixBench

./Run dhry2reg -c 4


結果は以下の通り。空冷ファンのみの場合はスコアが明らかに低くなっています。なお、空冷ファンとヒートシンクを組み合わせた場合、ヒートシンクだけで十分に冷却できていたようで、ファンが回転しませんでした。「全コアに100%の負荷を長時間かけ続ける」という特殊な状況でない場合はヒートシンクのみでも十分に安定稼働させられるというわけです。


◆5:OSのシャットダウン時に空冷ファンを停止させる方法
CM5の開発キットには「OSをシャットダウンしても空冷ファンが回転し続ける」という問題があります。以下の動画を再生すると、OSのシャットダウン後にファンが回転し始めて、OS起動と同時にファンが停止する様子を確認できます。

「Raspberry Pi Compute Module 5」の開発キットはOSをシャットダウンするとファンが高速回転し始める - YouTube


電源コードを抜けばファンを止められますが、電源コードを毎回抜くのは面倒なので、シャットダウンと同時にファンも停止するようにカスタムしてみます。

公式I/Oボードの(PDFファイル)データシートによると、「USBポートにVBUSがあり、そのVBUSはシステムの起動やシャットダウンに伴ってON・OFFが切り替わる」という仕組みとのこと。つまり、ファンのケーブルを改造してUSBポートを経由するようにすれば「OSのシャットダウン時にファンを停止する」という動作を実現できるというわけです。


というわけで、ケーブルを改造しました。


ケースのフタを閉めるとこんな感じ。ケーブルを工夫すればもう少しスッキリするはず。


OSをシャットダウンした際の動作はこんな感じ。OSのシャットダウン後もファンが回転せずに静かな状態を保てています。

「Raspberry Pi Compute Module 5」のファンケーブルを改造してシャットダウン時にファンを停止できるようにしてみた - YouTube


なお、Raspberry Piの中の人が配布している「2024年12月19日版のブートローダー」を適用することでも、「シャットダウン時にファンを止める」という動作を実現できます。手順は以下の通り。

まず、ブートローダーをダウンロードします。

wget https://github.com/timg236/rpi-eeprom/raw/927596fc312b6c2ddcf33f7b7608938241403586/firmware-2712/latest/pieeprom-2024-12-19.bin


「rpi-eeprom-config」を実行。

sudo rpi-eeprom-config --edit pieeprom-2024-12-19.bin


エディタが開いたら、以下の行を末尾に追加して上書き保存します。

POWER_OFF_ON_HALT=0


EEPROMの更新が完了したら再起動。

sudo reboot


再起動後、以下のコマンドを実行してブートローダーのバージョンを確認します。

vcgencmd bootloader_version


以下のように2024年12月19日版に更新されていればOK。これで、シャットダウン時にファンが止まるようになります。

2024/12/19 11:57:13
version ccf64a4f0756db2e198bb3c32a2c7cde5064a260 (release)
timestamp 1734609433
update-time 1735115307
capabilities 0x0000007f

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