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なぜ政府は「少しのインフレが望ましい」と言って物価上昇を目指すのか?


さまざまな物価が上昇し続けるインフレーション(インフレ)はほとんどの人にとって嫌なものですが、なぜか専門家や政府関係者は「少しのインフレは望ましいことだ」と主張しており、日本の中央銀行である日本銀行も「消費者物価の前年比上昇率2%」を目標として掲げています。一体なぜ政府は少しのインフレが望ましいと考えているのかについて、ウェブメディアのVoxが動画で解説しています。

Why can’t prices just stay the same? - YouTube


2022年は世界各国で異常なインフレが記録されました。


アメリカ・イギリス・ヨーロッパ諸国ではいずれも10%を超える物価上昇率となりました。これはつまり、さまざまな物品の価格が前年より10%も高くなったことを意味します。


幸いにも物価上昇率は減少し、記事作成時点では5%を下回って2~3%付近で落ち着いています。


しかし、これはあくまで物価上昇率が下がったというだけであり、物価そのものは依然として上昇し続けています。アメリカにおける物価の平均価格を示した以下のグラフを見ると、ほぼ一貫して物価が上がり続けていることがわかります。


インフレはほとんどの消費者にとって嫌なものですが、もしインフレについて調べたりニュースでインフレの話題を見たりしたことがある人なら、次のような言葉を聞いたことがあるはず。


「少しのインフレはいいことです」


「誰もが少しのインフレを望んでいます」


価格の上昇は誰にとっても不利益を及ぼすように思われますが、なぜか物価は上がり続けており、物価上昇率が「0%」になることはめったにありません。


その大きな理由は、政府と中央銀行がインフレを望んでいるからです。


多くの国はある程度の物価上昇を追求しており、日本を含む多くの国で2~3%のインフレ目標が掲げられています。


政府がインフレ目標を掲げる理由は、経済学者が「インフレの好循環」と呼ぶものを求めているからです。


この好循環はまず、人々が物価上昇を認識するところから始まります。将来的に物価が上がり続けると予想される場合、多くの人は「まだ相対的に価格が安い今のうちにいろいろな物を買おう」と思うため、車や家電製品などの購入にお金を使いやすくなります。また、衣服や食料品といった生活必需品も値上がりするため、自然と使う金額も増えていきます。


すると、企業はより多くの利益を上げるようになり、より多くの人々を雇用します。すると、お金をたくさん使える人が増えて、さまざまな物品の需要が増加します。


需要の増加は値上がりを促すため、このサイクルが持続します。これがインフレの好循環と呼ばれるものです。賃金が上昇する限り、物価の上昇はそれほど問題になりません。


しかし、アメリカでは急激なインフレが起きた2022年を含めて2年間にわたり、賃金の伸びがインフレに追いついていませんでした。このような事態になると、インフレによって物価が上がっているのに収入が足りず、家計を圧迫してしまう結果となります。


この傾向は2023年半ばから逆転しており、特に底辺層の賃金はインフレ率を上回るスピードで増加しているとのこと。しかし、アメリカのワシントンD.C.に拠点を置く非営利シンクタンクのGroundwork Collaborativeで主任エコノミストを務めるラキーン・マブド氏は、アメリカの底辺層の賃金は長らく低く抑えられてきたため、賃金が増えても十分とはいえないと指摘しました。


また、このインフレの好循環のどこかで混乱が起きると問題が生じます。たとえばサプライチェーンの中断によって製品が不足すると、企業は利益を増やすために製品価格を引き上げます。これが行きすぎたり他の要因と重なったりすると、人々の生活を圧迫するほどの物価上昇につながるというわけです。


しかし、政府にはインフレに対抗する手段があります。それがよくニュースなどで聞く「政策金利の引き上げ」です。これによってクレジットカードや銀行ローンを含むすべての借入れの金利が高くなります。


マブド氏は、「借入れコストが上昇すると、人材を雇用するための投資コストも高くなります。これは最終的に景気を減速させます」と説明しています。


実際に2022年、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は金利の引き上げを行い、インフレ率を抑えることに成功しました。一方で、生計を維持するために借金せざるを得ない家庭にとっては、さらに大きな経済的負担となりました。


マブド氏は、「FRBが金利を使ってインフレを抑える時、彼らがやっているのは需要を抑えることです。彼らは人々に、『仕事を持つことはできません』『失業しよう』と言っているのです。これにより需要が鈍化し、価格の伸びも抑えられるのです」と述べています。


一方、価格が上昇するのではなく、下落した場合はどうなるのでしょうか。これは「デフレーション(デフレ)」と呼ばれる状態で、物価が下がると聞くと多くの人にとって喜ばしいことに思えます。


しかし、デフレが引き起こす「デフレスパイラル」には大きな問題があります。


物価が下がる状態が続くと、消費者は「将来的にさらに価格が下がるかもしれない」と考えて、大きな買い物を控えるようになるかもしれません。また、生活必需品も値下がりするため、支出が減ります。


支出が減ると企業の収入も少なくなり、コストを削減せざるを得なくなります。その結果、従業員の解雇が進み、雇用されている人の賃金も安く抑えられます。最終的に、人々はますます支出を減らすようになり、余裕がある人も貯蓄に回す金額を増やします。


需要が減るとさらに製品価格は下げられ、このスパイラルが持続するというわけです。これらすべてが重なると、経済成長全体が鈍化することになります。


政府にとって、デフレを修正するのはインフレに対処するよりも困難だとのこと。なぜなら、政府はインフレに対応するのと同じ能力をデフレの場合は持っていないからです。


たとえば直近でインフレ率が2%を下回ったのは2020年春のことで、FRBは金利を0.05%とほぼゼロにまで下げました。これが功を奏して物価は上昇に転じましたが、もしこれでもインフレに転じなかった場合、すでに金利をほぼゼロにしていた政府が打つ手はかなり限られてきます。


歴史的に見ても、デフレの時期はそれほど多くありません。長く続くデフレを修正するには、経済に大きなショックを与えなくてはならないとのこと。


たとえば1930年代に起きた世界恐慌は部分的にデフレスパイラルでしたが、これが解決したのは第二次世界大戦が勃発し、政府が支出と雇用を急増させたためでした。


数十年にわたり慢性的なデフレに陥っていた日本がインフレに転じたのは、2022年に起きた世界的なインフレの余波を受けたためでした。このように、長く続くデフレスパイラルから脱却するには、人々の生活を苦しめるようなショックに頼らざるを得ない部分があるというわけです。


ひとたび物価上昇率が0%を下回ってしまうと、これを修正するのは困難です。


物価上昇率のグラフを見ると、常にさまざまな要因で変動しており、非常に不安定であることがうかがえます。もし物価上昇率を0%にとどめることを目標としていたら、ささいなことでデフレに突入し、それがデフレスパイラルにつながる危険性があります。


そのため政府は、「少しのインフレ」である物価上昇率2%付近を目標に掲げているというわけです。

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in 動画, Posted by log1h_ik

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