フィンランドではインフレ抑制のためにお金が物理的に半分にカットされたことがある
by Antti Heinonen
現代の日本では、紙幣の額面を書き換えたり切ったりして変造すると法律で罰せられることがありますが、第二次世界大戦が終結した1945年のフィンランドでは、国民に高額紙幣を半分に切ることを命じる、いわば物理的な通貨切り下げ措置が講じられたことがあります。
Moneyness: Setelinleikkaus: When Finns snipped their cash in half to curb inflation
https://jpkoning.blogspot.com/2024/11/setelinleikkaus-when-finns-snipped.html
Leikattu seteli on harvinaisuus - Taloustaito.fi
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Dramaattinen pakkolaina – sakset käteen ja seteli kahtia - Suomen MonetaSuomen Moneta – keräilijän kumppani, rahojen ja mitaleiden asiantuntija
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通貨経済学に詳しいジョン・ポール・コーニング氏によると、フィンランド政府は1945年の大みそかに国民に紙幣を半分に切るよう指示するSetelinleikkaus(紙幣切断)を実施したとのこと。
これにより、フィンランドの国民は1946年の新年早々に高額紙幣である5000マルッカ、1000マルッカ、500マルッカの紙幣をハサミで切ることが義務付けられました。
カットした紙幣は引き続き物品の購入に使えましたが、その価値は額面の半分でした。つまり、1000マルッカ紙幣の左半分で買えるのは500マルッカまでの商品だけでした。そして、残った紙幣の右半分はフィンランド政府に強制的に融資したものとして扱われ、買い物には使えない債券となりました。
これはなにも前代未聞の措置ではなく、1922年のギリシャや1945年のノルウェーやデンマークで行われた同様の措置を手本とした政策だったとされています。
なぜわざわざ紙幣を切るようなことが行われたのかについて、経済学者のルディガー・ドーンブッシュとホルガー・C・ウルフは1990年の論文で、戦後ヨーロッパの通貨過剰問題への対応であったと説明しています。
当時のヨーロッパ市民は、長年にわたる戦時生産体制や価格統制、配給などによる「不本意な消費延期」、つまり使いたくても使えずに取っておくしかなかった強制貯蓄を相当ため込んでいました。
そして、第二次世界大戦が終結したことで以前の暮らしを取り戻そうと考えましたが、戦争により多くの工場が破壊されるなどして生産力が落ちていたため、深刻な物資不足が予想されました。
品物が不足することで起きると懸念されたのが、物品の値段の急激な高騰、つまりインフレです。
同じことは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックでも起きています。2020年から2021年にかけてのロックダウンやサプライチェーンの混乱に、ロックダウンの終了による支出の増加や使われなかった支援金が追い打ちをかけたことなどにより、世界経済は急激なインフレに苦しんでいます。加えて、2022年からはロシアによるウクライナ侵攻がエネルギー価格や食料価格を高騰させており、これもある意味で戦争がもたらしたインフレと言えます。
話を第二次世界大戦直後のフィンランドに戻すと、当時のフィンランド政府は差し迫ったハイパーインフレの危機に対応するため、国民の購買力を半分にして消費を抑制する奇策として、紙幣を半分に切断して左半分で買い物をしたり、最寄りの銀行に持ち込んで新しい紙幣に交換したりすることを国民に要請しました。
使えなくなった紙幣の右半分は政府に登録することが義務付けられ、登録すると年利2%のフィンランド国債として1949年に償還されることになっていました。これにより、フィンランド政府は国民の消費意欲の半分を4年後に後ろ倒ししようとしたわけです。また、ドイツがフィンランドから大量の資金を持ち去ったり、偽札を作ったりしているのではないかという疑念があり、早急に新紙幣に切り替えたいという思惑もあったとされています。
結論から言うと、この政策はうまく機能せず、フィンランド経済はその後しばらくインフレに見舞われることになりました。というのも、この政策は預金には適用されず、対象となる現金は当時の通貨供給量全体の8%でしかなかったので、通貨過剰の大部分は手つかずのままだったからです。
また、多くのフィンランド人が思い切ったインフレ対策が行われることを事前に察知しており、現金を預金や不動産に変えて資産を防衛していたのも、失敗の一因だったとされています。
by Antti Heinonen
最終的に、貧しい人や地方に住む人などが特に経済の混乱のしわ寄せを受けることになりました。
財布の中のお金を半分に切るという大胆な政策とその失敗は、フィンランド人の脳裏に強い不信感として刻み込まれ、1967年にマルッカ切り下げが議論された時でさえ、また紙幣を切断するのではないかという怪情報が流れたそうです。
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