重度の新型コロナ発症によってがん腫瘍が縮小するという研究結果、新たながん治療法の開発につながる可能性も
アメリカ・ノースウェスタン大学の研究チームが発表した論文で、「重度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によってがん腫瘍が縮小する可能性がある」という結果が示されました。この新しい発見により、がん治療の新たな可能性が開かれるのではないかと期待が寄せられています。
JCI - Inducible CCR2+ nonclassical monocytes mediate the regression of cancer metastasis
https://www.jci.org/articles/view/179527
COVID caused cancer tumours to shrink in mice – new study
https://theconversation.com/covid-caused-cancer-tumours-to-shrink-in-mice-new-study-243973
がんの治療法には腫瘍を直接切除する外科手術や、がん細胞の増殖を抑えて死滅させる抗がん剤治療、がん細胞の遺伝子を傷つける放射線療法、免疫系を活性化させてがん細胞を攻撃させるがん免疫療法などがあります。中でもがん免疫療法は近年注目を集めており、さまざまな研究結果が蓄積されています。
しかし、がん免疫療法の効果がある症例は20~40%程度にとどまっており、すべての患者に効果があるわけではありません。既存のがん免疫療法は主にT細胞と呼ばれる免疫細胞を対象にしたもので、体内で十分な機能を持つT細胞を産生できない時にがん免疫療法が失敗するケースが多いことから、T細胞への依存はがん免疫療法の効果を制限する要因と考えられているとのこと。
一方、COVID-19などのウイルス感染症にかかったヒトや、特定のワクチンを接種したヒトでは免疫システムが活性化され、その他の感染症や疾患に対しても抵抗性を示すようになることが知られています。これはtrained immunity(訓練免疫)と呼ばれるもので、さまざまな疾患を治療する新たなアプローチにつながる可能性を秘めています。
ノースウェスタン大学の研究チームは、重度のCOVID-19によって生じる訓練免疫ががんの治療に効果を示すのかどうかを確かめるため、マウスを対象にした動物実験を行いました。実験では、ステージ4の悪性黒色腫(メラノーマ)・肺がん・乳がん・結腸がんなどを持つマウスに、重度のCOVID-19に対する免疫応答を模倣した薬物を投与し、特殊な単球を産生するように促しました。
単球は免疫細胞の一種であり、感染に対する防御機構において重要な役割を果たしています。しかし、がん腫瘍に入り込むと「腫瘍随伴マクロファージ(TAM)」となり、がん細胞の増殖や浸潤、転移を促すと共にT細胞の働きを抑制するようになります。
今回の実験では、重度のCOVID-19によって産生される特殊な単球はTAMに変換される通常の単球とは異なり、がん細胞と戦う特性を保持し続けていることが判明。特殊な単球は腫瘍に移動し、ナチュラルキラー細胞を活性化してがん細胞の攻撃を促すことが確認されました。特殊な単球の産生を促されたマウスでは、4種類のがんすべてで腫瘍が縮小し始めたと報告されています。
アングリア・ラスキン大学で生物医学教授を務めるジャスティン・ステビング氏は、「このメカニズムは、現在の多くの免疫療法が焦点を当てているT細胞に依存せずにがんと戦う新しいアプローチを提供するため、特にエキサイティングです」と述べ、従来のがん免疫療法では効果がない患者にとっての新しい選択肢になり得るという見解を示しました。
今回の研究結果はあくまでマウスでの実験に基づいたものであり、同様の効果がヒトの体内でも見られるかどうかを判断するには臨床試験が必要です。また、新型コロナウイルスワクチンは新型コロナウイルスのRNA配列の一部しか使用していないため、ワクチン接種で同様の効果が起こる可能性は低いとのこと。
それでも、特殊な単球が関わるメカニズムはがんに普遍的なものであるため、ヒトの体でも同様の効果が起こる可能性は十分にあり、新薬やワクチンの開発につながることが期待されています。
ステビング氏は、「これらの発見をヒト患者の治療につなげるには、まだ多くの課題が残されています。しかし、この研究はウイルス・免疫系・がんの間の複雑な関係の理解について、エキサイティングな一歩を踏み出しました。これは新たな治療法への希望をもたらすと同時に、科学的発見が予期せぬ形で医学的ブレイクスルーをもたらすことがあることを強調しています」と述べました。
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