新型コロナウイルスに感染すると強力な免疫を得られる可能性があるがわざと感染すべきではない
イスラエルの研究者が発表した「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して得られる自然免疫とワクチン接種で得られる免疫を比較すると、自然免疫の方がデルタ株に感染しにくい」という論文に反応があったことを受けて、スウェーデン・カロリンスカ研究所免疫学研究員のシャーロット・ソーリン氏が「その可能性はあるが、わざと感染すべきではない」と注意を呼びかけています。
COVID infections may give more potent immunity than vaccines – but that doesn't mean you should try to catch it
https://theconversation.com/covid-infections-may-give-more-potent-immunity-than-vaccines-but-that-doesnt-mean-you-should-try-to-catch-it-167122
ソーリン氏の指摘の対象となっている論文は、テルアビブにあるマッカビ・ヘルスケア・サービスのSivan Gazit氏ら10人によるもの。イスラエルは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種を世界に先駆けて推進した国であり、貴重なデータであることは間違いありませんが、当該論文は査読を受けていないプレプリント論文であり、掲載しているmedRxivでは「臨床診療の指針として使用すべきではありません」という注意書きがつけられています。
Comparing SARS-CoV-2 natural immunity to vaccine-induced immunity: reinfections versus breakthrough infections | medRxiv
https://doi.org/10.1101/2021.08.24.21262415
論文の内容は「ウイルスに感染した人はワクチンを接種した人より、デルタ株に再感染しにくい」というもの。ソーリン氏によると、これを「ウイルスに感染する方が、ワクチンを接種するよりもいい」と受け止める人がいたとのこと。
ソーリン氏はまず、「ウイルスに感染する方が、ワクチン接種より免疫が長続きするという可能性は、ありえない話ではありません」と認めています。これは、ワクチンの免疫反応は、単一の抗原を用いることから指向性が高く制限されたものになるのに対し、ウイルスに感染すると免疫系が複数のウイルスタンパク質にさらされ、時間と共に免疫が強まることが報告されているため。
ただし、プレプリント論文から結論を引き出す危険性を別としても、データを適切なコンテキストに置くことが重要であるとソーリン氏は指摘しています。当該論文は、自然に獲得した免疫の効力について注目したものですが、自然免疫達成に伴うリスクは考慮されていません。また、被験者にウイルス未感染でワクチンを接種したという人を含んでおらず、ワクチン接種の利点そのものが研究の中で取り上げられていません。さらに、ワクチンを接種した被験者1万6000人のうち、入院した人が8人というのは、ワクチン未接種者と比べて著しく低い数字であると考えられますが、研究チームはこの点についても分析を行っていないとのこと。
一方で、この論文は「ハイブリッド免疫」についての新たな理解を得られるものだったとソーリン氏は評価しています。ハイブリッド免疫とは、ウイルスに感染した人にワクチンを接種することで誘発される強力な免疫のことで、いったんウイルスに感染したあとワクチンを接種した人と、感染後にワクチンを接種しなかった人を比べると、ウイルスに再感染するリスクはワクチン接種によって半減したことがわかりました。また別の研究では、新型コロナウイルスに感染した人がファイザーやアストラゼネカのワクチンを1回接種した場合でも、未感染者が2回接種したときより強力な免疫反応がみられたという報告も上がっており、フランスやドイツで新型コロナウイルスに感染した人にはワクチンを1回のみ投与する動きもあるそうです。
ただし、すでに、新型コロナウイルスへの感染によるリスクは、直接的な死や病気の重篤化のほかに、回復後も後遺症として心筋症や血栓の発生など、長期的な健康問題が明らかになっています。一方で、ワクチンはアメリカにおいては「歴史の中で最も集中的な安全監視を受けている」とのこと。
こうした事情から、ソーリン氏は「新型コロナウイルスに感染して自然免疫を得るという選択肢」は誤解があると述べています。
・関連記事
ワクチンの接種で新型コロナの後遺症リスクが半減するとの研究結果 - GIGAZINE
ワクチン接種を完了した人でもコロナに感染する「ブレークスルー感染」とは? - GIGAZINE
新型コロナウイルスに対する免疫は8カ月以上持続することを示す研究報告が続々と発表される - GIGAZINE
「新型コロナワクチン接種で集団免疫は達成できない」と専門家は考え方を変えつつある - GIGAZINE
なぜ免疫系のはたらきで体調が悪くなってしまうのか? - GIGAZINE
・関連コンテンツ