サイエンス

わざと空に「汚染物質」をまいて地球を強制冷却するという恐るべき計画を真剣に議論する時が来ていると気候学者


1991年に起きたフィリピンのピナトゥボ山噴火では、1700万トンもの二酸化硫黄が成層圏に放出され、北半球の平均気温が約0.5度下がりました。この現象に触発されて気候変動の研究に生涯をささげることを決めたというシカゴ大学のデビッド・キース氏と、同氏が提唱するジオエンジニアリング(気候工学)にまつわる議論について、The New York Timesがまとめています。

David Keith Has an Idea to Slow Global Warming: Geoengineering - The New York Times
https://www.nytimes.com/2024/08/01/climate/david-keith-solar-geoengineering.html


毎年のように観測史上最高気温が塗り替えられ、気候変動による異常気象や災害がますます激化するにつれ、人為的に地球環境を操作するジオエンジニアリングへの関心が高まっています。

こうした議論には、炭素の回収や雲の太陽光反射率の改善、海洋や植物の炭素吸収能の向上などさまざまな方法が含まれていますが、その中で最も物議を醸しているのが成層圏に二酸化硫黄を散布するソーラー・ジオエンジニアリング、あるいは太陽放射管理(SRM)と呼ばれる手法です。

例えば、2024年5月には海運業界の排ガス規制強化が「大気汚染物質の減少」と「海温の上昇」を招いたとの研究結果が報告されたことがあります。

海の大気汚染の減少が皮肉にも「地球温暖化を加速」させてしまった可能性がある - GIGAZINE


キース氏をはじめとするソーラー・ジオエンジニアリングの推進派は、大気汚染により太陽光が遮られる現象を逆手に取ることで、地球を冷却して気候変動の影響を相殺することが可能だと主張しています。

キース氏によると、この技術によって今後100年間の地球温暖化のペースを1度でも鈍化させることができれば、10年ごとに数百万人が熱中症で命を落とすのを防げるとのこと。また、日照が減少する影響や大気汚染による目や呼吸器の疾患の増加も、気候変動による健康被害の増加に比べれば軽微であるとキース氏は考えています。

一方、懐疑派の専門家は気象パターンの乱れによる予測不能な影響や、大気汚染による健康被害、一度始めたら止めることも引き返すこともできないソーラー・ジオエンジニアリングの危険性を理由に、強く反対しています。


最も大きな懸念のひとつが、ソーラー・ジオエンジニアリングをすれば化石燃料の使用を削減する必要はないというモラルハザードです。

ハーバード大学の大気科学教授で、かつてキース氏の協力者でもあったフランク・コイチュ氏は「ソーラー・ジオエンジニアリングは麻薬に似ています。麻薬は対症療法であって、病気の原因を治療するわけではありませんし、副作用や依存症、そして禁断症状のリスクがあります」と述べました。


オックスフォード大学の大気物理学者のレイモンド・ピエールハンバート氏によると、ソーラー・ジオエンジニアリングを開始してから中止すると、「終末的ショック」と呼ばれる気温の急激な上昇が発生するおそれがあるとのこと。これが、コイチュ氏が禁断症状だと指摘したソーラー・ジオエンジニアリングの反動です。

キース氏は、こうした反対意見は大げさに誇張されたものだと反論しています。同氏はThe New York Timesに「確かにリスクはありますし、不確実性もあります。しかし、量的なリスクはメリットに比べて小さく、不確実性もそれほど大きくないというエビデンスはたくさんあります」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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