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「衝撃的な出来事があると人々はネットでどう反応するのか?」をトランプ前大統領襲撃事件を通して分析した結果

by Gage Skidmore

世間で気になる事件や事故が起こると、インターネットで事実を確認したり、事実の裏に隠された情報のウワサをチェックしたりする人は多いはず。そのようなインターネットにおける情報やウワサの伝達などを、2024年7月14日に発生したドナルド・トランプ前大統領の襲撃事件をを例に調査した結果が示されています。

Making sense of rumors about the Trump assassination attempt | Center for an Informed Public
https://www.cip.uw.edu/2024/07/15/trump-assassination-rumors-collective-sensemaking/


After Trump shooting, UW researchers try to make quick sense of online reaction, rumors and more – GeekWire
https://www.geekwire.com/2024/after-trump-shooting-uw-researchers-try-to-make-quick-sense-of-online-reaction-rumors-and-more/

2024年7月14日、ペンシルベニア州で開催された選挙集会で演説を行っていたドナルド・トランプ前大統領が銃撃を受けました。トランプ氏は出血したものの命に別状はなく、現場では聴衆1人が死亡、2人が重傷を負ったほか、狙撃したとみられる容疑者1人が死亡しています。

ドナルド・トランプ前大統領が集会で銃弾を受け右耳を負傷、容疑者1人と聴衆1人が死亡 - GIGAZINE


この事件を受けてワシントン大学の情報公衆センター(CIP)は、人々がソーシャルメディアを使って証拠を集め、その証拠の解釈方法を形成する枠組みを選択する「集団的意味形成」と呼ばれるものを分析しました。集団的意味形成には「潜在的な証拠の収集」と「フレーミング」という2つの主要な要素があり、大まかに前者が事実確認、後者が事実からの解釈になります。

このような衝撃的な事件に直面すると、予測不可能で不確実な情報空間、政治的な枠組み作りの争い、陰謀論化といった動向が起こりやすいと研究者は指摘。そこで発生するのが、集団的意味形成です。社会学者のタモツ・シブタニ氏は1966年の著書「Improvised News」の中で、「ウワサは、不確実で急速に展開する出来事に意味を割り当てるのに役立つ。この観点から見ると、ウワサは真実でも嘘でもかまわない。なぜなら、ウワサは事実性ではなく、検証されていない性質によって定義され、非公式のチャネルを通じて広まるからである」と書いています。現代社会では、即時性がますます重視されるデジタル空間において衝撃的な事件に関する事実が曖昧な時、ウワサはインターネット上に定着し、欠かせないものとなっています。


CIPの調査によると、トランプ前大統領の襲撃事件が発生してから5分以内に、「誰が、なぜこれをしたのか」という情報が飛び交ったとのこと。ウワサの形成はソーシャルメディアによって連鎖的に広まっており、Telegramでは反ファシスト運動であるANTIFAのメンバーであるという犯人が名指しされ、Xでは自分が犯人であると主張する動画が混乱を招きました。自称犯人が単なる荒らしだと判明し、その後実際の銃撃犯の身元が公式に確認されると、ウワサは襲撃犯の動機に焦点を当てた第2段階に入ります。CIPは「ステージ1とステージ2の両方において、犯人が左翼の政策や反トランプのレトリックに動機づけられていると描写しようとする、戦略的な政治的枠組みの使用(および推進)が反映されていることに私たちは気づきました」と述べています。

襲撃事件後の数日間にウワサとして広まった政治的枠組みを、CIPは大きく3つに分けています。1つは事件発生直後に広まったもので、「事件は、トランプ前大統領の政治的利益のために仕組まれたもので、トランプ前大統領が自らを傷付け、戦略的に配置されたカメラマンが撮影した」というもの。この初期のフレームは、事件発生直後は爆発的に話題を呼んだものの、事件の詳細が明らかになるにつれて急速に弱まっていきました。以下のグラフは、Xで「演出」という言葉を使って襲撃事件について議論した投稿の数を示す時系列グラフで、事件発生後の2時間にピークを迎えた後、すぐに下火になったことがわかります。これは、信頼できる報道機関が正当な暗殺未遂として報道し、銃撃犯が特定されたためです。


「トランプ前大統領の演出説」というセンセーショナルなウワサが落ち着いた後に、ウワサは「シークレットサービスの失敗」という第2の枠組みに注目が移りました。多くの報道や個人の投稿が広まり、実際の現場の詳細が明らかになるにつれて、「トランプ前大統領へのシークレットサービスの反応は、1981年のロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件と比較して、はるかに遅かった」というような指摘が話題になりました。トランプ前大統領の演出説と同様に、この点についても政治的動機を絡めたインフルエンサーの投稿が確認されており、CIPは「このフレームは今後もオンラインで広まっていくと予想されます」と指摘しています。より陰謀的になった3点目は、なんらかの「内部的犯行」を示唆するものでした。

以下の画像は、トランプ前大統領襲撃事件に関する4つの主要なウワサについて、その投稿数の推移を時間経過ごとのグラフにしたもの。青色が「左派が関係している」とするもの、オレンジが「演出」に関する説、緑がシークレットサービスへの批判、赤が内部的犯行。


襲撃事件に伴うウワサの流布としてもう1点注目すべき点として、CIPは主流メディアに対する批判を挙げています。ソーシャルメディアでは集団的意味形成が急速かつ広範囲で行われますが、ジャーナリストは信頼できる手がかりを入手した上で、それらを正確な解釈で発表するのに時間がかかることがあります。また、不正確だったり曖昧だったりする情報を報じるニュースメディアに批判が集まることもあります。イーロン・マスク氏がXで「従来のメディアは純粋なプロパガンダマシーンです。Xこそが人々の声です」と投稿しているように、ニュースメディアよりもソーシャルメディアの方がニュース速報の情報源として迅速で信頼性が高く、偏りが少ないと支持したユーザーが数多く確認されたそうです。


さらに、近年の生成AIを利用した画像やムービー作成速度の向上を含め、事件に伴うサブカルチャーの動きも注目されています。話題になっている事件が衝撃的なほど、ソーシャルメディアではそれを説明したり軽く扱ったりする目的で、映画「マトリックス」で弾丸をよけるシーンをパロディした投稿が作られるなど、ポップカルチャーと絡めたネタ投稿やミームの広まりなどが発生します。また、インパクトが強い事件の写真を商品化する素早い動きがあったことも、危機の後に考えを共有したりトランプ前大統領への支持を高めたりする一因としてCIPは注目しています。


CIPの研究者であるケイト・スターバード氏はこの調査結果について報告した際に、ネット上の反応は外部の国家や非国家主体による陰謀的な操作ではなく、各個人による自然発生的な投稿だと指摘。「私たちが目にしてきたのは、政治的なフレーミングコンテストだと言えます。人々はほぼ最初から、イベントに関する情報を自分たちの政治的目標に有利な形でフレーミングしようとします。オンラインのインフルエンサーがこれを実行する理由は2つあります。1つは自分たちの政治的目標を推進するためですが、もう1つは注目を集め、評判を高め、フォロワーを増やすためです」と語りました。

CIPは「ウワサは人間の生活の自然な一部であり、特に感情が高ぶり、事実が不確かで変化している危機の瞬間には、自然な社会的プロセスで私たち全員が参加するものです。このような状況下では誰もが間違いを犯し、陰謀論に巻き込まれやすくなります。悪意のある人物やいたずら者、政治工作員などが事実や解釈を歪曲する可能性が高く、詐欺師や起業家はセンセーショナルな状態を利用して虚偽を広めたり製品を販売したりします。今回の調査報告で私たちが望んでいるのは、ウワサの共有を問題視することではなく、危機や社会的混乱の時期に、意図的な操作に対して人間が持つ脆弱(ぜいじゃく)性を人々に理解してもらうことです」と説明しています。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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