作家が使いこなせると最強の武器は「ユーモア」であるという指摘
創作をする際には設定やプロットのための知識やアイデア、重要なシーンをクールに見せるセンスなど、重要なスキルがいくつかあります。その中でも特に、ユーモアを使いこなせると作家として最大級の武器になると、ミステリ・スリラー作家のロブ・ハート氏が語っています。
Why Humor is one of the Sharpest Tools in a Writer’s Arsenal ‹ CrimeReads
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シリアスでダークな雰囲気の作品でも、そのような雰囲気だからこそユーモアのあるシーンを挟むことで、読者の感情を動かすことができる「コミック・リリーフ」というテクニックがあります。恐怖や悲しみといった雰囲気が続いて読者がその感情に慣れてしまうのを防いだり、一度緊張をほぐすことで物語の緊張をさらに高めることができたりといった効果がコミック・リリーフには期待されます。
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また、ハート氏はキャラクターを面白い人物にすることで、「読者がキャラクターを信頼する」効果があると考えているそうで、作品がアルコール依存や殺人といった重いテーマであるとき、執筆の早い段階で、主人公の暗殺者をユーモアのあるキャラクターにしようと意識しているとのこと。ハート氏は「読者を笑わせることができれば、読者はあなたとあなたの登場人物を信頼するようになります。信頼が確立されると、読者をどこにでも連れて行くことができます」と述べています。
人が笑うとき、脳内の報酬系物質であるエンドルフィンが放出されます。エンドルフィンが放出されると幸せな気分になり、ストレス解消にもなるため、適切なジョークは緊張を和らげるだけではなく、そのシーンの印象を強める効果もあるとハート氏は述べています。
さらに、ユーモアはキャラクターを確立することにも役立ちます。スリラー作家のE・A・アイマール氏も、暗い雰囲気の作品こそユーモアが大事だと指摘しており、「会話の中でユーモアを交えた返答をしたり、皮肉交じりのブラックユーモアを会話に折り込んだりすると、そのキャラクターがどのような考えか、何を重要と考えているかなどが、より表れやすくなります」とその理由を挙げています。アイマール氏によると、ユーモアとは作品に暖かみを与える効果があるもので、「寒いときに読者が立ち寄れる暖かい場所」になるとのこと。
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アイマール氏が「暖かみ」と表現しているユーモアの効果について、ハート氏は「信頼に関する多くのこと」だと指摘しています。理不尽でつらい世界でも、ユーモアを交えたシーンや会話は、直面している世界を登場人物たちが恐れていないという宣言として映ります。また、ユーモアを交わす人たちは、それぞれの信頼関係が見えてきます。このように、多くのレベルの信頼をユーモアがもたらしてくれるとハート氏は結論付けました。
一方で、「暗い雰囲気の主題に軽薄なユーモアを持ち込むことで、作品に込めた真剣さが薄れてしまうのではないか」と考える人もいるはず。しかし、そういった変化こそ、感情的な重みを増幅するとハート氏は指摘しています。肩肘を張っていた緊張感からユーモアによって肩の力を抜くことで、キャラクターはより人間らしくなり、人間らしくなればなるほど、読者はキャラクターに共感できるようになります。
ユーモアの使い方の達人として、脚本家、映画監督のジェームズ・ガン監督をハート氏は挙げました。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズや「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」などを手がけたガン監督は、キャラクターに軽妙なジョークを言わせたり、時にはキャラクターに間抜けたふるまいをさせたりして、視聴者がキャラクターにユーモアを感じるよう設計しています。笑いとともにキャラクターへ精神的に近づいた視聴者は、ストーリーでキャラクターたちが感情的な爆発に到達する際に、強い共感を得ることになります。
ハート氏が2024年6月に出版した「Assassins Anonymous」は、改心した殺し屋が刺客に狙われながらも、だれも殺さずに逃亡するストーリーが描かれます。ストーリーはコメディとはほど遠いものですが、主人公をユーモアのあるキャラクターにし、要所ごとに笑いを提供することで、混乱する世界の中で自らの運命に向き合うキャラクターに対し、読者がより感情移入することができるとハート氏は述べています。
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