シリアスなシーンにコメディを挟む「ストーリーに説得力を持たせるコミック・リリーフ」の技法とは?
マンガや小説、映画作品などで、緊張感のあるシーンや深い悲しみの雰囲気の中で、直感に反するようなコメディシーンが挟まることがあります。そのようなコメディシーンで読者の感情を動かすテクニックを、科学や歴史のほか執筆のアイデアなどについてアニメーションにまとめるYouTubeチャンネルのTED-Edが解説しています。
How to write comedy - Jodie Houlston-Lau - YouTube
TED-Edによると、笑えるようなシーンやコメディ描写は、一見するとそのシーンに不釣り合いでも、シリアスな物語の鍵となることがよくあるとのこと。
作家は物語を通して、読者や視聴者にさまざまな感情を味わってもらう必要があります。これは、物語がどんなジャンルであっても同様で、「物語がこのジャンルだからこの種類の感情だけ引き出す」という制限されたやり方は好ましくありません。
というのも、作品のジャンルによって恐怖や悲しみ、興奮を特に呼び起こしたい場合でも、人は一つの感情に長くさらされると、その感情に対して鈍感になってしまう傾向があるためです。物語全体でずっと恐怖を呼び起こしていても、作品を楽しみながらその恐怖に慣れていってしまいます。
そこで用いられるのが「コミック・リリーフ」という技法です。
良質な物語はキャラクターの感情の変化が折れ線グラフになると良いと指摘する研究がありますが、コミック・リリーフはコメディシーンを有効に活用することで、さまざまな感情の質感を作り出し、説得力のあるストーリーに仕上げることができます。
コミック・リリーフの効果を生み出すには、理解すべき重要な点があります。コメディシーンあるいは笑える状況を描写するには、キャラクター、シチュエーション、言葉やセリフのいずれかがポイントとなります。ただし、いずれを選択する場合も、これらを組み合わせて使う場合も、ただキャラクターやシチュエーション、セリフをおもしろおかしくするのではなく、タイミングとコントラストを意識する必要があります。
ムービーでは、古代メソポタミア文学の「ギルガメシュ叙事詩」を例に挙げています。ギルガメシュ叙事詩は最も古い文学作品とされる一方で、今日でも説得力のある物語となっており、その要因の一つがコミック・リリーフにあるとのこと。
ギルガメシュ叙事詩は、古代メソポタミアの伝統的な王であるギルガメシュを主人公として、その冒険を描きます。ギルガメシュ王は冒険の末に世界の終わりへ近づいた結果、バーに入っていきます。
読者は、ギルガメシュの物語がクライマックスに到達したと思いきや、その期待が裏切られる形になります。しかし、その短い休息によって、緊張をほぐすと同時に緊張を作り出すことができ、物語の緊張はさらに高まり、真のクライマックスに向かうことができます。
この教訓は現代の物語にも当てはめることができます。物語の雰囲気を一度和らげることで、必要なときに必要なだけの感情を与えることができます。
また、ギルガメシュがバーで過ごす時間は、観客の感情を増幅させる以外の効果も持っています。賢明なバーテンダーがギルガメシュに探求の目的を問いかけ、ギルガメシュがそれに応答することで、最終的にたどり着く解決への舞台にさらなるニュアンスを与え、読者の複雑な感情を呼び起こします。強いシリアス感情を常に呼び起こしていると単調になるため、緊張を緩和した場面でシリアスなメインストーリーについて再度問いかけることにもコミック・リリーフは役立ちます。
コミック・リリーフを活用する方法として最も一般的で直接的なアプローチが、サイドキック(相棒)キャラクターの活躍です。主人公の相棒として付きそうキャラクターは、メインアクションに対してこっそりと鋭いコメントを提供すると同時に、しばしば失敗しておもしろおかしく不運なオチをつける役割を果たします。
また、カート・ヴォネガット氏の「スローターハウス5」では、コミック・リリーフの異なる効果を用いています。作中では悲惨な戦争シーンと奇抜なSFシーンを交互に繰り返し描いています。これは、シリアスなシーンにコミカルな緩和をもたらすだけでなく、言葉にすることが難しいテーマについて、全く異なるジャンルの描写を通して対話を行い、人間の苦しみの性質を強調することで、より衝撃的なものに仕上げています。
アルンダティ・ロイの「The God of Small Things」は、コミック・リリーフについてさらに別のアプローチを採用しています。「The God of Small Things」は、子どもの視点を生かした語り口で、悲劇的な物語に痛快なユーモアを吹き込んでいます。大人たちの人種や階級、家族関係などの緊張感を子どもの視点でコミカルに描写することで、皮肉なユーモアに笑ってしまうだけではなく、状況のリアリティを強調する効果も生まれています。
コミック・リリーフを最大限に活用するためには、物語のどの場面で、シリアスなメインストーリーと対照的な感情を散りばめるのが効果的かを考える必要があります。さらに、それだけでなく「直接言えないけど伝えたいメッセージ」を語ることができる効果もあるため、「読者のどのような思い込みに疑問を投げかけたいのか?」と考えてみることも重要です。
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