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世界的作家が指南する「論文の書き方」まとめ、文章を読みやすくするにはどうすればいいのか?

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ウンベルト・エーコ氏は全世界で5500万部を突破した大ベストセラー小説「薔薇の名前」を1980年に発表し、一躍世界的な人気作家となりました。そんなエーコ氏は研究者としても著名な人物で、エーコ氏が大学生や研究者向けに適切な論文の書き方を指南した「論文作法─調査・研究・執筆の技術と手順─」という手引き書について、マサチューセッツ工科大学発のウェブ雑誌・MIT Press Readerが内容の一部を紹介しています。

How to Write a Thesis, According to Umberto Eco | The MIT Press Reader
https://thereader.mitpress.mit.edu/umberto-eco-how-to-write-a-thesis/

エーコ氏は大学生が学位を取得するために書く最初の論文について、「まるで初恋のようなもの」と表現しました。その後も学術研究を続けて行くにしても、最初の論文はなかなか忘れ去ることができないものであり、おろそかにしてはいけないと述べています。論文の書き方についての完璧なルールというものはありませんが、エーコ氏はいくつかのアドバイスを行っています。

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◆1:長い文章や代名詞の多用は避ける
文章を書いていると、人々はついつい練りに練った修辞や複雑な文章構造を使いがちですが、エーコ氏は「長い文章を書かないでください」と注意しています。もしも長い文章が思い浮かんでしまった場合、とにかく文章を書いてからわかりやすく分解するべきだとのこと。主題を2回繰り返し書くことになっても恐れることなく、とにかく代名詞や従属節など、文章を複雑にする要素から遠ざかるべきだとエーコ氏は述べています。

悪い例としてエーコ氏が挙げているのが、以下の文章です。

The pianist Wittgenstein, brother of the well-known philosopher who wrote the Tractatus Logico-Philosophicusthat today many consider the masterpiece of contemporary philosophy, happened to have Ravel write for him a concerto for the left hand, since he had lost the right one in the war.


和訳:「ピアニストのウィトゲンシュタインは、多くの人から現代思想の傑作と考えられている論理哲学論考を出版したことで著名な哲学者の兄弟であり、彼は右手を戦争で失ったので、ラヴェルが彼のために左手のためのピアノ協奏曲を書きました」

この文章は以下のように書き換えるべきだとエーコ氏は主張。

The pianist Paul Wittgenstein was the brother of the philosopher Ludwig Wittgenstein. Since Paul was maimed of his right hand, the composer Maurice Ravel wrote a concerto for him that required only the left hand.


和訳:「ピアニストのパウル・ヴィトゲンシュタインは、哲学者であるルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの兄弟です。パウルは右手が使えなかったため、彼のために作曲家のモーリス・ラヴェルは左手のためのピアノ協奏曲を書きました」

このように長い文章を短く分解し、人名を省略せずにきちんと書くことで読みやすさが格段に上昇します。また、代名詞を頻繁に使う人も多くいますが、長い文章で何度も代名詞が使われていると、読み手が「この代名詞『he』は一体誰のことだろう」と混乱してしまいます。そのため、文学作品を書いているならともかく、論文を書く時には長い文章や代名詞の多用は避けるべきだとのこと。

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◆2:あなたは詩人ではない
前衛詩人は詩の中にコンマやピリオドを多用したり、文章を驚くほど細かく区切ったりしてさまざまな効果を狙いますが、論文を書く人の多くは詩人ではありません。また、たとえ詩人であっても、論文にまで詩の技法を持ち込む必要は全くありません。

エーコ氏は「あなたの論文が前衛的な詩についてのものであっても、あなたは詩人ではありません。カラヴァッジオ(バロック期のイタリア人画家)についての論文を書いているなら、その人は画家ですか?」と指摘。論文はメタ言語としての役割を果たしており、論文の内容が論文そのものの書き方に影響を与えてはいけないとのこと。たとえば精神障害についての論文であるとしても、論文自体まで精神障害の人が書いたような文章になってしまっては、読み手が理解できません。

「自分の表現方法は詩的なものであり、芸術的な表現方法こそが自分にとって大事なのだ」と主張する人もいるはずですが、そういう人は大学の学位を取らずに芸術方面に進めばいいとエーコ氏は述べています。また、ダンテ・アリギエーリT・S・エリオットエドアルド・サングイネーティといった偉大な詩人であっても、自身や他者の詩について語る文章は明確な散文で記述しており、詩に対する理解が浅い人でも読むことができると主張しました。

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◆3:必要な時は新しい段落を使用する
新しい段落に入るのをためらって、一つの段落で長々と説明を続ける論文を書いてしまいがちな人も多いはず。しかしエーコ氏は、論理的に必要であると判断されるのなら、ためらわずに新しい段落に入るべきだとアドバイスしています。

◆4:必要な部分だけを残す
論文を書く際に頭の中に思いついたもの全てを書き出すことは悪くありませんが、インスピレーションに夢中になって、論文本来の目的を見失っては本末転倒です。後から下書きを見直して、余計な部分だと思ったら削除するか付録として添付するに留めるのが賢明だとのこと。論文はあくまでも仮説を証明するために存在するもので、知識の幅広さを示すためにあるのではないと心掛けることが大事です。

◆5:アドバイザーをモルモットにする
自分1人だけで論文を書いていると、文章のおかしな点や構造の不備に気づくことが難しくなるため、アドバイザーは最大限に利用するべきです。論文のアドバイザーには、論文全体が書き終わっていなくても、最初の章が書き上がった段階で一度文章を見てもらうべきだとのこと。他の人に理解してもらうことが論文では大事であり、アドバイザーや友人が読んで理解できない論文に意味はありません。「孤独な天才を演じないで下さい」と、エーコ氏は戒めています。

◆6:最初の章から書くことに固執しない
論文は必ずしも最初から順に書いていく必要はありません。最初に目次を設定し、どの章でどのような内容を書くのかさえ決まっていれば、目次や構想を指針にしてどの章から書き始めてもいいとのこと。まずは書き始めて、自信を得ることが大事だそうです。

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◆7:比喩的な文章や不必要な引用符の使用を避ける
論文の中では、あまり比喩的な文章や用語は使うべきではないとエーコ氏は主張。論文では読み手に誤解を与える余地のない言葉を使い、文脈を十分に理解できる同時代の人でなくても意味を理解できる文章にするべきだとのこと。

たとえば「高校野球の聖地」と書いてある場合、日本に住んでいる多くの人々は、全国高校野球選手権大会が行われる阪神甲子園球場のことを指しているとわかります。しかし、この表現が海外に居住する人にも伝わる可能性は低く、日本の読者であっても遠い未来では通用しない比喩である可能性があります。このような問題を避けるため、論文ではなるべく正式名称を使い、修辞的な表現を避けて誤解のない書き方をすることが重要です。

また、初心者にありがちな問題点として、引用を示す“”(日本語では「」)を使いすぎる点もエーコ氏は挙げています。人々は何か重大なことを述べている部分を強調したい時に、つい引用符を使ってしまいがちです。しかし論文で引用符を使うべき場合は、実際に他の文献からテキストを引用する場合か、論文または文献のタイトルを指定する場合が基本だとエーコ氏は指摘しています。

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◆8:初めて使う用語は定義をハッキリさせる
論文を書く際には、自分で定義を明確に説明できない用語を使ってはいけません。もしも論文の主要なテーマに定義のわからない用語がある場合、「あなたは間違ったテーマを選択しました(さらに研究を進める場合、あなたは間違ったキャリアを選ぶことになります)」と、エーコ氏は厳しい意見を述べています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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