サイエンス

論文の価値をゆがめる「論文の被引用数稼ぎ」の実情とは?

By sarawutnirothon

論文の被引用数」はその論文が他の論文に引用された回数を示す数値で、その論文が後世にどれだけのインパクトを与えたかを示す指標の1つです。被引用数が多ければ多いほどその論文は重要であると見なされる傾向があるため、被引用数は研究者としての出世などにも影響します。しかし、そんな被引用数を「自分自身で稼ぐ」という「自己引用による被引用数稼ぎ」が問題になっていると指摘されています。

A standardized citation metrics author database annotated for scientific field
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3000384

Hundreds of extreme self-citing scientists revealed in new database
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02479-7

問題になっている「被引用数稼ぎ」とは、自分や共著者の論文を自分自身の論文中で引用して被引用数を上げるという行為です。「なぜ発表された研究のほとんどは偽であるのか(Why Most Published Research Findings Are False)」など、科学技術の研究手法・研究倫理に関する論文で知られているスタンフォード大学医学部保健研究・政策部のジョン・P・A・ヨアニディス教授率いる研究チームは、10万人以上もの研究者の論文を調査した結果、少なくとも250人の研究者が「被引用数稼ぎ」を行っている可能性があると発見しました。

研究チームによると、論文の自己引用率は通常では12.7%ほどである一方、この250人の研究者は引用した論文の50%以上が「自分自身または自分の共著者の論文」だったとのこと。「論文の被引用数」は論文の重要性を示すファクターの1つですが、大半の論文の引用数は3桁にも届かないため、自己引用による被引用数稼ぎが有効なわけです。

By Prostock-studio

2019年7月、研究論文のねつ造改ざん盗用などを中心に研究公正上の問題を扱うイギリスの出版規範委員会(COPE)は、「引用数操作」の主な手法として今回問題となっている「自己引用による被引用数稼ぎ」を挙げ、雇用・昇進・研究資金の割り当てに論文の被引用数を重視しすぎることについての懸念を表明しました。ヨアニディス教授は今回の調査結果について「自己引用率が25%を超える研究者は、より綿密な調査が必要だといえます」と述べています。

(PDFファイル)COPE DISCUSSION DUCUMENT CITATION MANIPULATION


しかし、「自己引用が多いのは、『被引用数稼ぎ』を行っているからだ」と決めつけることはできません。ノーベル賞受賞者に匹敵する論文の被引用数を稼ぎ出しているインドの研究者サンダラパディアン・バイッドヤーナサン氏が、自身の論文の被引用数について、オンラインの質疑応答フォーラムQuoraにて「私の研究は一連の流れをくむもので、前の論文を引用せずに次の論文を書くことは不可能です」と回答したことからもわかるように、「自分の論文を正当な理由で引用する」というケースもあります。

ヨアニディス教授もCOPEも「自己引用の多さが『被引用数稼ぎ』と結びつけられるべきではない」という見解を明確にしています。ヨアニディス教授は今回の論文について「あくまで『データ』を提供しただけのもので、『自己引用が多い科学者が研究倫理に背いている科学者だ』といった断定に使用しないように」との注意を述べており、COPEも「自己引用が学術的に意味がある場合が存在する」として論文の被引用数から自己引用の数を除外することに反対しています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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