早起きな人はネアンデルタール人からその遺伝子を受け継いだ可能性がある
かつてホモ・サピエンスはネアンデルタール人と交配していたため、その遺伝子(DNA)の一部が現代人にまで受け継がれていることがわかっており、ネアンデルタール人のDNAが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化と関連していたり現代人の痛みの感受性に影響を及ぼしたりしています。オックスフォード大学出版局が発行する学術誌の「Genome Biology and Evolution(ゲノム生物学と進化)」に掲載された論文によると、ネアンデルタール人のDNAは日光への適応能力に影響しており、「早起きな『朝型人間』の人はネアンデルタール人から遺伝的変異を受け継いでいる」ことが判明しました。
Archaic Introgression Shaped Human Circadian Traits | Genome Biology and Evolution | Oxford Academic
https://academic.oup.com/gbe/article/15/12/evad203/7457904
Are You An Early Riser? You Might Carry Genes From These Ancient Humans
https://www.inverse.com/health/are-you-early-riser-ancient-humans-neanderthal-genes
Early risers may have inherited faster body clock from Neanderthals | CNN
https://edition.cnn.com/2023/12/14/health/early-risers-neanderthal-dna-scn/index.html
ネアンデルタール人は2万~4万年前に絶滅したとされていますが、それ以前に現生人類であるホモ・サピエンスと交配して、DNAの一部が現代人にまで受け継がれていることがわかっています。2023年の研究では、ナトリウムを細胞に送り込んで痛覚神経の信号伝達を助けるNav1.7というナトリウムチャネルをコードする「SCN9A」というDNAについて、ネイティブアメリカンを祖先に持つ人が多いペルーの被験者は突然変異を持っている割合が高いことが判明しました。SCN9AのDNA変異はネアンデルタール人から受け継いだものだと考えられており、結果として「ネアンデルタール人に由来するDNA変異を持つ被験者は、そうでない被験者よりも小さい力で痛みを感じる」と結論付けられました。
「ネアンデルタール人から受け継いだDNA」が現代人の痛みの感受性に影響を及ぼしているという研究結果 - GIGAZINE
カリフォルニア大学サンフランシスコ校で薬学および生物統計学を専門に研究するトニー・キャプラ氏は、同様のことが現代人の概日リズムにも関係していると考えました。ネアンデルタール人はヨーロッパとアジアの高緯度で進化していった種族のため、日光の季節変化が大きい地域に適応しやすい体内時計を備えていた可能性があります。そして、そのネアンデルタール人のDNAを受け継いでいる現代人は、太陽に適応して「朝型」になる確率が高いと推定されました。
研究では、標準的なヒトゲノム、5万2000万年から12万2000年前の範囲のネアンデルタール人のDNA、ネアンデルタール人と密接に関係する古代人であるデニソワ人のDNAを比較して分析しました。そして、今日生きている人類がネアンデルタール人の遺伝的変異を持っているかどうか、そしてそれらが概日リズムにどう影響を与えているか確認するために、イギリスのUKバイオバンクを調査しました。
結果として、論文では「異種交配により現生人類に残るネアンデルタール人のDNAは、現代人にさまざまな影響を及ぼしていることが分かりました。特に、概日リズムと関連するネアンデルタール人のDNAは、朝型人間になる傾向を一貫して高めています」と研究チームは結論付けました。
高緯度に住む人は朝型であることが多いですが、朝型であるとなぜ日照時間が変化しやすい高緯度の生活で有利なのかは明らかになっていません。キャプラ氏は「これは実際には進化上の利点ではなく、光に関する季節変動にうまく適応できる『動作クロック』を持つことに影響しています。重要なのは、体内時計を新しいパターンにどれだけ早く同調させ、体内時計と日照時間の不一致による悪影響を回避できるかです」と説明しています。
また、研究では3種類のネアンデルタール人DNAが分析されましたが、同じネアンデルタール人でも、概日リズムに関して異なるDNAを持っていたことが発見されました。これについてキャプラ氏は「概日リズムに関するDNAの理解から、そのネアンデルタール人が日照時間の変わりやすい高緯度に住んでいたか、それとも日照の変化に適応する必要が低い低緯度に住んでいたか、ということがわかる可能性があります」と主張しました。
キャプラ氏によると、今回の研究には古代ヒト族のDNAが合計4つしか分析できなかったことや、古代に存在したはずの季節変動以外の環境要因を正確に考慮に入れられていないことなど、いくつかの制限があるとのこと。しかし、DNA変異が現代人の環境適応に重要な役割を果たした可能性は高いと考えられるため、次のステップではネアンデルタール人のDNAが細胞内の概日リズムに及ぼす影響を、遺伝子工学を利用して直接テストして確認する研究が進められています。
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