血を顔に注入する「ヴァンパイア美顔術」で3人の女性がHIVに感染
アメリカ・ニューメキシコ州の無認可のスパで行われた、マイクロニードルで顔に血液を注射する「ヴァンパイア美顔術(ヴァンパイア・フェイシャル)」により、3人の女性がヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染したと、アメリカ疾病予防管理センターが報告しました。
Investigation of Presumptive HIV Transmission Associated with Receipt of Platelet-Rich Plasma Microneedling Facials at a Spa Among Former Spa Clients — New Mexico, 2018–2023 | MMWR
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/mm7316a3.htm
Three women contract HIV from dirty “vampire facials” at unlicensed spa | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2024/04/dirty-vampire-facials-behind-first-hiv-outbreak-linked-to-spa-treatments/
ヴァンパイア・フェイシャルとは、「多血小板血漿(けっしょう)マイクロニードル処置」という美容法の一般名です。この美容法は、まずクライアントの血液を採取して遠心分離機にかけ、血液を血漿と血球の成分に分離してから、血小板を多く含む血漿をマイクロニードルで顔に注射するというもの。これにより、肌が若返ったり、ニキビの跡が目立たなくなったりする効果があるとされていますが、エビデンスはほとんどありません。
このヴァンパイア・フェイシャルによるHIVの集団感染が発覚したきっかけは、最初の患者である40~50代の女性が2018年の夏に海外旅行に行った際、滞在先で受けたHIV検査で陽性反応が出たことです。
患者は最近注射薬を使用したり、輸血を受けたりしたことはなく、最近関係を持った唯一の性的パートナーは検査でHIV陰性でした。しかし、患者は2018年の春にニューメキシコ州にある「スパA」でヴァンパイア・フェイシャルを受けていました。
そこで、当局はこのスパに対する捜査を開始しましたが、スパは無認可で予約管理システムがなく、顧客の連絡先は保管されていませんでした。しかも、立ち入り検査をしたところ、そこにはむき出しで引き出しの中やカウンターの上に放置された注射器、医療廃棄物ではなく普通のゴミ箱に捨てられた注射器、食品と一緒に冷蔵庫に入れられたラベルのない注射剤や血液入りのチューブ、使い捨てのはずが再利用されている器具などが散乱するという、悲惨な光景が広がっていたとのこと。極めつけに、この施設には器具を滅菌するためのオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)が存在していませんでした。
スパはただちに閉鎖され、オーナーのマリア・デ・ルルド・ラモス・デ・ルイスは無免許で医療行為を行った罪で起訴されました。そして、被告人は2022年に5つの罪状を認め、3年半の懲役刑に服しているとのこと。
その後の継続的な調査で、2018年夏にヴァンパイア・フェイシャルを受けた2人目の女性と、2018年の春と夏に3回施術を受けた3人目の女性が特定されたほか、3人目の女性の男性パートナーもHIVへの感染が確認され、4件目の症例となりました。
3人目の女性とパートナーの男性は、感染の重症度から女性がスパでヴァンパイア・フェイシャルを受ける前にHIVに感染していたことが示唆されています。当局は、女性が2016年のHIVスクリーニング検査で陽性と判定されていたことを突き止めましたが、女性はその判定結果を通知されたとは話していないとのこと。
最初の2人の女性は感染から診断までが短期間だったので、診断時は3段階ある感染期のうちステージ1の急性期でしたが、3人目の女性とそのパートナーの男性の感染が発覚したのは2021年に入ってからで、どちらもステージ3の後天性免疫不全症候群(AIDS)発症期と診断されました。さらに、2023年にはやはりステージ3の診断を受けて病院に入院した5人目の女性が特定されました。
5人から採取されたウイルスの塩基配列から、5件のHIV株が酷似しており、すべてのケースが密接に関連していることが示されました。しかし、あまりに不衛生なスパの汚染状況から、調査官は「スパで感染がどのように拡大したかを正確に特定することは不可能」と結論づけており、まだ診断されていないスパの利用客がほかにもいる可能性が指摘されています。
アメリカ疾病予防管理センターは、「この調査では、HIV感染の危険因子がない場合、感染経路として美容注射サービスを検討すべきだということがわかりました。また、美容注射サービスを提供するスパに適切な感染予防措置を義務付けることは、HIVやそのほかの血液感染症に関係する病原体の拡散を防ぐのに役立ちます」と述べました。
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