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「すべてのものには心がある」という「汎心論」をとりまく現代の科学者や哲学者の主張とは?


汎心論(はんしんろん)とは、生き物はもちろん今座っている椅子などの非生物でさえも、すべてのものには心ないし心に似た性質があるという哲学的な理論です。汎心論は16世紀に確立して、19世紀に西洋で流行しましたが、20世紀初頭には経験的な証明を重要視する論理実証主義の運動に取って代わられました。しかし、2000年以降になって汎心論は改めて「経験科学で解決できない、難しい意識の問題」への取り組みとして注目されており、哲学者だけではなく科学者たちも汎心論に関する議論を展開しています。

Everything in Our Universe May Be Conscious, Scientists Say
https://www.popularmechanics.com/science/a60229168/panpsychism-everything-has-a-soul/


汎心論は、16世紀のプラトニズム哲学者であるフランチェスコ・パトリッツィによって作られた用語です。汎心論の概念自体は古代ギリシャまでさかのぼり、哲学の祖とされるタレスは「すべてのものは神に満ちている」と言い、ソクラテスの弟子であるプラトンも対話編「ティマイオス」の中で、世界のすべては魂と知性を与えられており、確かに神に満ちていると述べました。古代ギリシャの汎心論においては、すべてのものに魂(プシュケー)が宿っているという表現が正確ですが、基本的に「心」と同義に見なされています。

19世紀になって、ドイツの哲学者であるアルトゥル・ショーペンハウアーが「世界を表象とみなし、その根底にはたらく『盲目的な生存意思』により、人間生活はたえず意志のぶつかりあいで非合理である」と説いたり、アメリカの哲学者・心理学者で心理学の父とも呼ばれるウィリアム・ジェームズが徹底的なプラグマティズム(実際主義)を主張しつつも汎心論を擁護したりと、ヨーロッパで汎心論がにわかに流行しました。しかし、1920年代のウィーンでは論理実証主義という哲学運動が登場し、「経験的に証明された科学的知識が、唯一受け入れられる知識」という考えが広まったため、形而上学に含まれる汎心論も無意味なものとみなされました。

しかし、科学が進歩した現代において、汎心論への関心が再燃しています。イタリアの神経科学者で精神科医のジュリオ・トノーニ氏は、意識は広範囲に広がっており、人間に限らず一部の単純なシステムにも存在する可能性があるとする「意識の統合情報理論」を2004年ごろ主張しました。また、アメリカを代表する神経学者のクリストフ・コッホ氏は、2014年にScientific Americanへ寄稿した記事の中で、精神状態や意識などは物質的相互作用の結果とする唯物論を否定し「電荷を含む素粒子が組織化した物質の塊となる場合、意識はそこに宿ります」と述べました。その他、AIの発達によりAIがただデータでトレーニングされるだけではなく「知覚」しているように感じられることからも、汎心論が注目されることがあります。

人工知能(AI)は意識を持つようになるのか?を神経科学者が解説 - GIGAZINE


一方で、イギリスのシェフィールド大学で哲学名誉教授を務めるキース・フランキッシュ氏は、現代の汎心論は「形而上学的な辺獄」であると批判しています。フランキッシュ氏は心ないし意識を心理的機能ではなく現象的に概念化する「意識の脱心理化」の危険性について主張しており、汎心論はその典型例だと指摘。その上で、「意識が本質的に脳のプロセスと結び付いていないのであれば、意識が脳に限定されると考える必要はありません。結果として、すべてのものに内なる輝きを見いだす汎心論につながります。しかし、この見方は私たちの意識の重要性を損なう傾向にあります」と述べ、フランキッシュ氏は汎心論について「幻想主義」であると結論付けています。

反対に、汎心論を科学的な見地から主張するのが著名な生物学者のルパート・シェルドレイク氏です。シェルドレイク氏は、「あらゆる出来事は、なんらかの時間的・空間的相関関係によって影響し合っている」というシェルドレイクの仮説でよく知られています。シェルドレイク氏は、人間だけではなく銀河全体が意識を持っていることは反論の余地がない事実であり、意識や心は脳だけではなく広く電磁波に含まれると主張しました。シェルドレイクの仮説には「ペットはなぜ飼い主が帰ってくるタイミングがわかるのか」というものも含まれており、2000年には日本テレビでこの仮説に関する実験が実施されました。


シェルドレイク氏は「現在最も注目すべき科学者の1人」と呼ばれることもある一方で、シェルドレイクの仮説は超常現象などについて強引に科学的な説明をする疑似科学だとして否定する意見も数多くあります。また、2006年に生物学に「Plant Neurobiology(植物神経科学)」という「植物の持つ意識」に関する学問分野が登場した一方で、植物は意識を持たないと主張する論文が発表されるなど、意識や心については議論が分かれる部分も多くあります。

「植物は意識を持たない」と科学者がわざわざ論文で主張する理由とは? - GIGAZINE

By Annie Spratt

ニューヨークを拠点とする科学誌のPopular Mechanicsは、汎心論の議論をふまえて「おそらくそれは、世界における個人の位置付けの問題です」と結論付けました。どこまでに心があると考え、なにが意識によって左右されているかは、あくまで思想の範囲にとどまっています。しかし、より心に関する研究が進んだり、AIや全脳エミュレーションなどの心を再現する技術が進歩したりすることで、汎心論はますます注目される可能性が高くなることが考えられます。

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in Posted by log1e_dh

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