サイエンス

難しい物事をわかりやすく説明するための「Lie-to-childrenモデル」とは?


「原子構造とは」のような複雑な概念は、いかにわかりやすく説明しようとしても正確に説明すると、相手に理解させることは困難です。そこで、まずウソを含んだ説明をした後にやがて正しい情報を学ぶ、「Lie-to-childrenモデル」という概念が存在します。

Lie-to-children - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Lie-to-children

難しいことを簡単に説明する指針。"Lie(s)-to-children" #Python - Qiita
https://qiita.com/daikw/items/bb2c85533cdb2e984a5b

Lie-to-childrenモデルという概念は、科学者のジャック・コーエン氏と数学者のイアン・スチュアート氏が1994年の論文で発表したものです。コーエン氏らは「Lie-to-childrenモデルは、誤ってはいるものの、子どもの心をより正確な表現に導いてくれるようなものです。そのウソをあらかじめ知っておくことによって、後に正しく理解できるようになるという表現です」「Lie-to-childrenモデルという概念は、教育の過程で複雑な概念を減らすことの難しさから生まれたものです」と述べています。

Lie-to-childrenモデルが教育分野で最も良く使われるのが物理学です。物理学の初歩では、原子核内の電子と陽子の関係を示す「ボーアの原子模型」を学習しますが、その際、「まるで太陽の周りを地球や火星、木星などが回るように、電子は原子核の周りを回っている」と説明されます。

しかしこの表現は実際には正しくなく、その後シュレーディンガー方程式を学ぶことで、「電子は惑星のように実態として存在している」「電子は同じ周回軌道上に8つまで」というボーアの原子模型を学ぶ際に教わったことがウソだったということを理解します。


たとえウソをつかれていたとしても、ボーアの原子模型を学ぶ際にいきなりシュレーディンガー方程式について教わるよりもウソの説明の方が理解しやすく、その後の学習につながります。これがLie-to-childrenモデルです。

またLie-to-childrenモデルはさまざまな分野で用いられており、コーエン氏は「DNAの目的を『青写真』として捉える」など、進化論をわかりやすく教えるためのモデルの応用について論じています。またコーエン氏は「普遍的な特徴の探求は、例外を大切にしながらも進化の過程の一般的な形をスケッチし、それを『子どもへのウソ』という形でわかりやすく説明できるようになります」と述べています。

一方でエディンバラ大学のハミッシュ・マクロード氏とジェン・ロス氏は「子どもにウソをつくことは、『単純で曖昧さのない質問と、同様に単純な答え』に対して不合理な期待を抱かせることで、子どもの学習者に悪影響を及ぼす可能性があります」と(PDFファイル)指摘しています。


また、科学者のキルステン・ウォルシュ氏とエイドリアン・カリー氏は「Lie-to-childrenモデルを使う際に『子どもはコウノトリが運んでくる』といった神話を用いることは不適切」と(PDFファイル)指摘しており、作家のアイリーン・ジョンソン氏は自著の中で「両親は後に子どもに対し、教えた神話がウソだったことを伝えなければなりません。しかし両親には『このウソのどこまでが正しいのか、どこまで踏み込んだ話をしていいのか、いつ、どのように説明をしたらいいのか、確信が持てなくなります」と述べています。

加えて、「Lie-to-childrenモデルは教育者を不誠実に見せ、生徒からの敬意を損なう」との指摘もあり、地球物理学者のキム・カステンズ氏は「教師が子どもにウソをつくことを超えた真実を理解できるようにすることや、ウソをつかれた子どもが目指すべき学習の『マスタープラン』を作成するべきです」と主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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