貧困による子どもの脳への悪影響を「読書」が打ち消してくれる可能性
子どもの脳の発達は生まれ育つ環境の影響を受けることがわかっており、これまでの研究では幼児期の貧困が脳の発達に悪影響を及ぼすことが示されています。そんな貧困による脳への悪影響の一部を、「幼い頃の読書」が打ち消してくれる可能性があるという研究結果が報告されました。
Early-initiated childhood reading for pleasure: associations with better cognitive performance, mental well-being and brain structure in young adolescence | Psychological Medicine | Cambridge Core
https://www.cambridge.org/core/journals/psychological-medicine/article/earlyinitiated-childhood-reading-for-pleasure-associations-with-better-cognitive-performance-mental-wellbeing-and-brain-structure-in-young-adolescence/03FB342223A3896DB8C39F171659AE33
Poverty is linked to poorer brain development – but reading can help counteract it
https://theconversation.com/poverty-is-linked-to-poorer-brain-development-but-reading-can-help-counteract-it-208966
幼児期は脳の発達において非常に重要な時期であり、健康な脳の発達が青年期や成人期により良いメンタルヘルスや認知能力を保つことにつながるほか、高い学歴にも関連しています。幼児期の世帯収入が高いほど言語や作業記憶、社会的および感情的な情報処理のスコアが良いことがわかっているほか、大脳皮質は貧しい人々よりも社会経済的地位の高い人でより大きく、厚くなっていることが報告されています。
社会経済状態と認知能力の関連は経済的に恵まれない家庭で特に大きく、低所得世帯の子どもではわずかな収入の差で脳の発達に大きな差が出るとのこと。一方、高所得世帯の子どもの間では、同じだけ収入に差があっても脳の発達に現れる影響は小さなものにとどまるそうです。また、「低所得の母親に毎月お金を与えることで、乳児の脳の発達が変化する」という研究結果もあります。
貧困が子どもの発達に影響するということが初めて研究によって示される - GIGAZINE
新たに、ケンブリッジ大学の臨床神経心理学教授であるバーバラ・サハキアン氏らは、貧困が脳の発達に及ぼす悪影響を軽減する方法を模索する中で、「幼い頃から楽しむために読書すること」が与える影響について調査しました。
サハキアン氏らの研究チームは、アメリカにおける子どもの脳の発達と健康を調査する長期的研究「Adolescent Brain and Cognitive Development(ABCD)」というプロジェクトのデータを分析しました。ABCDプロジェクトにはさまざまな民族や社会経済的地位を持つ1万人以上の子どもが参加し、調査が行われた9~13歳の時点より幼い頃に読書した経験があるかどうかの聞き取り調査結果や、認知能力・メンタルヘルス・脳の発達に関するデータも含まれていたとのこと。
データを分析した結果、子どもたちのうち約半数は幼い頃から読書を始めていましたが、残る半数の子どもたちは幼い頃に読書をした経験がないか、もっと遅い時期に読み始めていました。また、幼児期に読書をした子どもたちは包括的な認知能力テストでより良いスコアを獲得し、学業の成績も高く、メンタルヘルスの問題も少ない上に、電子機器に費やす時間も短いことが判明しました。
サハキアン氏らは、「私たちの研究では、幼児期の読書は社会経済的地位にかかわらず有益であることが示されました。また、読書の効果は両親の教育年数にも左右されなかったため、子どもが最初から持っていた知能レベルに関係なく有益な可能性もあります」と述べています。
さらに、楽しむために読書をしていた子どもたちは、認知能力やメンタルヘルスと関連するいくつかの脳領域において、皮質の表面積が大きいこともわかりました。これも社会経済的地位に関係なく当てはまったことから、研究チームは「この結果は、幼児期に行う喜びのための読書が、貧困の脳に対する悪影響を打ち消す効果的な介入である可能性を示唆しています」と主張しました。
研究チームによると、本を読んだり本について議論したりすることを含む言語学習は、健康な脳の発達に重要な要素であるとのこと。また、言語学習は記憶や計画、自己制御といった認知的な実行機能や社会的知性など、さまざまな認知の重要な構成要素だそうです。
サハキアン氏らは、「貧困が脳の発達に悪影響を及ぼす理由はさまざまであるため、結果を改善するには包括的かつ総合的なアプローチが必要です。読書を楽しむことは、それだけでは貧困が脳に及ぼす影響に完全に対処することはできないでしょうが、子どもたちの発達と才能を向上させる簡単な方法を提供します」と述べました。
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You can read the machine translated English article The possibility that ``reading''….