児童ポルノ検出のためメッセージのスキャンを義務づける規制案について欧州委員会が情報開示を行わなかった件が欧州オンブズマンに問題視される
2022年5月、欧州委員会がチャットサービスなどに対して児童性的虐待のコンテンツ(CSAM)をスキャンすることを義務づける規制案を提出しました。この件に関し、欧州委員会が規制の技術的問題について相談した専門家の情報開示を行わなかったことを、EUの機関や組織による活動について市民から訴えられる不平を調査する欧州オンブズマンが問題視しました。
Ombudsman: European Commission’s concealment of secret ‘expert list’ on CSAM regulation constitutes ‘maladministration’ - Irish Council for Civil Liberties
https://www.iccl.ie/news/ombudsman-european-commissions-concealment-of-secret-expert-list-on-csam-regulation-constitutes-maladministration/
欧州委員会は2022年5月、オンライン上でやり取りされているCSAMの検出義務を企業に負わせる「チャット規制法」を提案しました。この規制では、オンラインサービスプロバイダーがすべてのチャットメッセージやメール、ファイル、ゲーム内チャット、ビデオ通話などをスキャンし、CSAMが含まれているかどうか監視する必要があるとされています。
チャット規制法の導入により、児童の犯罪被害を未然に防げるなどの効果が期待されていますが、サービスプロバイダーがユーザー同士のやりとりをスキャンするのはプライバシー保護法違反であるとして非難する声も上がっています。
欧州委員会はこの規制法の起草に際し、暗号化を損なうことなくCSAMを検知する技術的実現可能性について専門家に相談したことを明らかにしていました。この情報を基にアイルランド自由人権評議会は2022年10月、専門家に関連する情報に加え、あらゆる背景文書や技術情報の提出を求めました。
しかし、欧州委員会は規定の15営業日以内にこの要求に応えませんでした。これについてアイルランド自由人権評議会が見直すよう要請したところ、2022年11月、欧州委員会は申立人の要求に応えたとする2つの文書を提出。この文書は開示されたものの、そのうちの1つについては個人情報が修正されていて、欧州委員会は該当する他の文書は保有していないと述べました。
この対応に不満を抱いたアイルランド自由人権評議会は2022年12月、欧州委員会が規定の期限内に要求を処理できなかったこと、開示できるはずの文書を開示しなかったことについて、欧州オンブズマンに苦情を申し立てました。
苦情を受け付けた欧州オンブズマンの調査が2023年10月18日に終了し、「欧州委員会は改めて専門家リストの開示請求を処理すべきである」と結論づけられました。欧州オンブズマンは「申立人が専門家リストを含む文書の開示を要求していたにもかかわらず、専門家リストの文書開示に関する処理を行わなかった」と指摘し、これは欧州委員会の失政であると指摘しています。
メッセージの暗号化を損なうことなくCSAMコンテンツを検知するための技術的な問題は、規制案をめぐる交渉の大きなネックとなっていて、これを解決しない限り、法制化は難しいとされています。
この件に詳しい専門家の多くは「技術的に実現不可能」と見ていて、暗号化されたコンテンツからCSAMを検出する技術は現在のところ成熟しておらず、今後2~5年のうちに成熟する可能性もないと公言している人もいます。
規制案が成立すると、大量監視の恐れや暗号化という仕組みそのものの弱体化につながる可能性があり、人々の通信の監視を禁止する既存のEU法との非整合性についてもさらなる懸念が提起されているのが現状。議論が活発する中で、透明性を求めて開示を要求したアイルランド自由人権評議会は2023年11月6日、欧州委員会の対応について「深く憂慮すべきことである」と懸念を表明しました。
アイルランド自由人権評議会のシニアフェローであるクリス・シュリシャク博士は、「現状の懸念に照らせば、欧州委員会が外部の専門家について透明性を欠いていることは問題である」との声明を出しています。
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in Posted by log1p_kr
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