Natureが室温超伝導の論文を撤回、同一著者の過去の論文が撤回されてから1年2カ月ぶり2度目の撤回へ
ロチェスター大学のランガ・ディアス氏が率いる研究チームが2023年3月8日に公開した室温超伝導に関する論文について、論文を掲載していたNatureが撤回することを決定しました。ランガ・ディアス氏の論文がNatureから撤回されるのは2022年9月以来、約1年2カ月ぶりの2回目となります。
Retraction Note: Evidence of near-ambient superconductivity in a N-doped lutetium hydride | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06774-2
Nature retracts controversial superconductivity paper by embattled physicist
https://www.nature.com/articles/d41586-023-03398-4
超伝導は特定の金属や化合物を極端に冷却した際に電気抵抗がゼロになるという現象であり、室温程度で物質が超伝導となる「室温超伝導」は、リニアモーターカーや量子コンピューターなどさまざまな新技術への応用が期待される夢の技術です。多数の研究者が実現のために研究を行っており、ディアス氏も室温超伝導の研究者の1人でした。
ディアス氏らの研究チームは2020年10月に室温超伝導を実現したとする論文を発表していましたが、生データが不足していたり、再現実験が失敗したりしたことを受けて2022年9月にNatureから撤回されました。2022年9月の撤回については下記の記事で詳しく解説しています。
夢の「室温超伝導」の論文はいかにして白紙になったのか - GIGAZINE
ディアス氏は2023年3月8日に改めて室温超伝導を実現したという論文を発表。本当に実現されていれば超伝導の研究が一気に進むことは間違いありませんでしたが、筆頭著者であるディアス氏の論文が過去に撤回されていることから「また不正な結果なのではないか」と疑念の声が上がっていました。下記の記事で2023年3月の発表時の様子を確認できます。
「室温超伝導」を実現したという画期的な論文が発表されるが研究チームの過去の不正疑惑から疑念の声も - GIGAZINE
ディアス氏は自身にかけられた不正行為疑惑をすべて否定しており、2023年3月の論文について「私たちは今回、全力を尽くしました。査読者は技術も何もかも、すべてのデータにアクセスすることができました」とNatureの非常に徹底的なレビュープロセスに対して透明性を確保したことを強調していましたが、共著者8人の要請および論文内容に懸念点があることを理由に2023年11月7日に再び論文が撤回されることになりました。
共著者8人は論文について調査対象の材料の出どころ、実験の測定方法、データ処理の方法が正確に反映されておらず、これらの問題が出版された論文の完全性を損なうと述べました。また、共著者の指摘に加えて、論文に示されている電気抵抗データの信頼性に関して懸念が提起されており、Natureの調査および出版後のレビューにより懸念点が重大かつ未解決のままと結論づけられ、この2点を理由に論文の撤回が決定されたというわけです。
室温超伝導については2023年7月にも室温かつ常圧での超電導を実現したとする論文が発表されましたが、再現実験に成功せず、下記記事の通り多くの科学者たちからは懐疑的な視線が投じられています。
常温常圧超伝導体だという「LK-99」に科学誌Natureが懐疑的な見解を示す - GIGAZINE
なお、一部の物理学者からNatureの編集審査プロセスと、なぜ査読者が問題点を理解できなかったのかについて問題提起が行われましたが、Natureの物理科学主任編集長のカール・ジーメリス氏は論文の査読で問題点を発見するのが難しい理由について「論文の内容が実際に行われた実験を正確に反映したものなのかどうかは査読では分からない」と述べています。
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