先史時代の彗星衝突が狩猟採集社会から農業への移行をもたらしたという研究結果が報告される
かつて、あらゆる人類は動植物の狩猟や採集を生活基盤とする狩猟採集社会を築いていましたが、新石器時代における新石器革命(農耕革命)によって、一部の社会は農耕を基盤とする農耕社会へと移行しました。この狩猟採集から農耕への移行について、「約1万2800年前に起きた彗星(すいせい)の衝突」が原因だとする研究結果が報告されています。
A prehistoric cosmic airburst preceded the advent of agriculture in the Levant | ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2023/10/231003173447.htm
Abu Hureyra, Syria, Part 3: Comet airbursts triggered major climate change 12,800 years ago that initiated the transition to agriculture – ScienceOpen
https://www.scienceopen.com/hosted-document?doi=10.14293/ACI.2023.0004
Prehistoric comet impact triggered the invention of agriculture • Earth.com
https://www.earth.com/news/prehistoric-comet-impact-triggered-the-invention-of-agriculture/
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の地球科学者であるジェームズ・ケネット氏らの研究チームは、1万2900年前から1万1500年前に生じた「ヤンガードリアス」と呼ばれる亜氷期について研究しました。
研究チームは、彗星が地球の大気に衝突することでバラバラの塵(ちり)が巻き上げられ、結果として劇的な寒冷化が生じたという「ヤンガードリアスインパクト仮説」を支持しています。また、人類最古の農業の形跡が認められたシリアの遺跡「テル・アブ・フレイラ」で、ヤンガードリアスが住民の生活様式に大きな変化を与えたことを示唆する証拠が見つかったと報告しました。
隕石が衝突する以前のテル・アブ・フレイラでは、豊かな森林が存在しており、人々は狩猟や採集を行っていました。しかし、約1万2800万年前に隕石が地球に衝突すると、地球は急激に寒冷化し、テル・アブ・フレイラ周辺は自然の少ない乾燥した気候へと変化しました。
すでにテル・アブ・フレイラはダムの底に沈んでいますが、ダムに沈む前に考古学者らがさまざまな資料を抽出していました。堆積した地層に基づく年代測定からは、ヤンガードリアス前の豊かな自然が広がっていた頃のテル・アブ・フレイラでは、住民は野生のマメ科植物や穀物、ベリーなどの果物を食べていたことがわかっています。しかし、ヤンガードリアスにより寒冷化した時期のテル・アブ・フレイラでは、食生活から果物やベリーが消え、代わりにレンズマメやオオムギ、コムギが増えました。
この結果は、ヤンガードリアスによる寒冷化によってテル・アブ・フレイラの狩猟採集社会が行き詰まり、結果として穀物やマメ類の栽培へと移行したことを示唆するものです。ケネット氏は、「村人たちはオオムギ、コムギ、マメ類を栽培し始めました。このことは証拠が明確に示しています」と述べています。
隕石の衝突を指し示す証拠は南北アメリカやヨーロッパなどの世界中で見つかっており、テル・アブ・フレイラでは、ダイヤモンドやプラチナ、さまざまな金属の球体が散らばった、炭素が豊富な「ブラックマット」と呼ばれる地層が発見されています。
ブラックマットは、トリニティ実験をはじめとする核実験の跡地からも発見されています。核実験によって放出される熱と、隕石の衝突によって放出される熱はどちらもセ氏2000度を超え、周辺の石英などを溶かすには十分な温度です。
ケネット氏は「隕石が地球の低高度かつ高い圧力で分解して地球上に降り注いだ際の、地上に存在する石英に対する衝撃変性作用は、核実験の爆発による衝撃変性作用と本質的に同じです」と述べています。
また、研究チームは今回の発見に関して「農業開発を含む人類の社会と文化の変容の間に、隕石という地球外からの影響や、それに伴う環境や気候の変化といった、これまで考えられてこなかった新しい因果関係があることが示唆されました」と語っています。
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