彗星が引き起こした核爆弾級の大爆発で古代人の集落が滅亡していたことが判明
現在のシリアに位置する古代遺跡テル・アブ・フレイラには、1万3000年以上前に穀物を栽培した痕跡が見られ、「人類最古の農業の例」とされています。そんな遺跡が、隕石により発生した爆発で滅亡していた可能性が高いことが、研究により明らかとなりました。
Evidence of Cosmic Impact at Abu Hureyra, Syria at the Younger Dryas Onset (~12.8 ka): High-temperature melting at >2200 °C | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-020-60867-w
Cosmic impact caused destruction of one of world's earliest human settlements -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2020/03/200306183153.htm
A Comet May Have Destroyed This Paleolithic Village 12,800 Years Ago | Science | Smithsonian Magazine
https://www.smithsonianmag.com/science-nature/comet-upended-life-paleolithic-village-12800-years-ago-180974575/
シリア北部を流れるユーフラテス川のそばには、かつてテル・アブ・フレイラという遺跡がありましたが、ユーフラテス川の氾濫を食い止めるための巨大ダム建設により、1973年にアサド湖の底に沈みました。ダム完成に先駆けて行われた発掘調査では、旧石器時代と新石器時代という2つの異なる時期の集落跡が発見されています。
同じ場所にあった2つの時代の集落跡のうち、旧石器時代にあたる1万2800年前の遺跡からは、家屋の一部や道具とともに穀物などの食料の痕跡が見つかっていたことから、この遺跡はちょうど人類が農業を始めたころのものだと考えられています。また、遺跡からは動物の骨などに混じって火災があったことをうかがわせるような痕跡も発見されていました。
ロチェスター工科大学の考古学者であるアンドリュー・ムーア氏は、「1973年にテル・アブ・フレイラを発掘した時に、この地域で激しい火災があったことが分かりました」と話しています。遺跡で発見された火災の痕跡の中には、普通の火災でも発生する木炭や微小粒子のほかに、溶融ガラスや極小サイズのダイヤモンドも見つかっています。これらは、当時の人類が起こすことのできる火では形成されないことから、落雷や火山噴火などの自然現象が原因ではないかと見られました。
以下は、テル・アブ・フレイラで見つかった溶融ガラスの粒の画像です。
その後の調査により、溶融ガラスが帯びる磁気が少ないことが分かったため、落雷の影響は否定されました。また、含水率が低いという特徴が隕石衝突によって作られるテクタイトと一致していたことから、ムーア氏らの研究チームは、「遺跡から見つかった溶融ガラスは、火山などではなく隕石に伴うエアバースト(空中爆発)によるもの」と結論付けました。
ムーア氏は、溶融ガラスが発生した状況について「土壌に含まれる鉱物が溶融するには、最低でも1720~2200度は必要になります」と述べました。また、共著者であるジェームス・ケネット氏は「これほどの高温下では、自動車でも1分足らずで金属の水たまりになってしまいます」とコメントしました。
ケネット氏は、溶融ガラスがテル・アブ・フレイラの集落全体で見られることから、隕石によるエアバーストはテル・アブ・フレイラのすぐそばで発生したと考えています。当時の様子についてケネット氏は「テル・アブ・フレイラの村は突然破壊されたに違いありません」と話しました。テル・アブ・フレイラを滅亡させたエアバーストは、核爆弾に匹敵する破壊力で、直下にある土壌や植物を一瞬で気化させたと考えられています。
さらに、研究チームによると、テル・アブ・フレイラが位置する地域は、中東や北米大陸、ヨーロッパにまたがるヤンガードリアス境界層(YDB)と呼ばれる地層が存在する範囲の中にあるとのこと。このYDBからは、テル・アブ・フレイラで見つかったものと似た隕石の痕跡が見つかっているほか、ちょうどテル・アブ・フレイラが1万3000年前には大規模な寒冷化が起きていることも分かっています。こうした証拠から、テル・アブ・フレイラを滅亡させたエアバーストは単一の隕石などによって引き起こされたのではなく、断片化した彗星によって引き起こされた可能性があるとのこと。
ケネット氏は「小さな隕石1つが起こしたエアバーストでは、テル・アブ・フレイラで見つかったような物質が発生することはなかったはずです。巨大な彗星の破片の集合体は、地球の半分にわたって約数分で数千ものエアバーストを引き起こすことができるという仮説があります。YDBに関する仮説ではこのメカニズムを提案し、北半球と南半球にまたがる1万4000kmを超える範囲に広がった同時代の物質について説明しました。今回の発見は、このような断片化した彗星によって引き起こされた主要なインパクトを強く支持するものだと考えられます」と述べて、今回の発見が古代の気候変動の謎を解くヒントになる可能性を指摘しました。
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