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新型コロナウイルスのパンデミックによって大量の牛乳が廃棄されてしまう理由とは?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い、各国では都市封鎖などの対策が実施されました。この影響により、アメリカでは「大量の牛乳が廃棄されてしまう」という問題が発生しているとアメリカのニュースメディアVoxが報じています。

Why American farmers are throwing out tons of milk - YouTube


南フロリダにできた2マイル(約3.6km)もの車列は……


市場に流通できない食品を生活困窮者などを対象にして配給するフードバンクに到達するためのもの。多くの人々がフードバンクに車で押し寄せるという事態は、カリフォルニア州やペンシルベニア州、ニューヨーク州などでも発生しました。


全米のフードバンク団体は、COVID-19のパンデミックによってフードバンクに頼らざるを得ない生活困窮者が大幅に増加したと考えています。COVID-19による休業や倒産などで仕事を失った人々は、日々の食料を得ることにも苦労している模様。


ところが、食品を生産する現場では異なった経済的影響が発生しているとのこと。


多くの農家では食料の「余剰」が発生しており、大量の食品がそのまま廃棄される事態となっているほか……


酪農家は何百万ガロン(数百万リットル)もの牛乳を廃棄せざるを得なくなっています。


この問題は、サプライチェーンの崩壊によるもの。


牛乳のサプライチェーンを簡素化した図がこれ。


まず最初に、酪農家が乳牛から牛乳を搾ってタンクに詰め……


タンクごと加工業者に送ります。


加工業者は低温殺菌された牛乳、チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品を生産。


乳製品はパッケージ化され、食料品店などに並べられます。


しかし、多くの消費者が乳製品を購入するスーパーマーケットや食料品店は、あくまでも製品が到達する最終地点の1つに過ぎません。


全製品の半数ほどは、レストランやコーヒーチェーンなどの飲食店や、学校などに配送されます。


サプライチェーンは非常に効率化されており、乳製品はそれぞれの配送先に適したパッケージに詰められて出荷されています。ところが新型コロナウイルスの影響により、このサプライチェーンが崩壊し始めているとのこと。


飲食店や学校が閉鎖されたことを受け、乳製品の主要な出荷先がなくなってしまいましたが、乳牛から搾乳することをストップするわけにはいきません。需要の大幅な減少を受けて供給過剰が発生したものの、パッケージや流通がそれぞれの出荷先に最適化されているため、簡単に過剰分を飲食店に卸すこともできないそうです。


ウィスコンシン州の酪農家であるCarrie Messさんは、「必要な人に食べ物を届けたい」という思いでさまざまな方法を試みているものの、それぞれの出荷先に特化しているサプライチェーンを変更するのは容易ではないと述べています。


食料品店、飲食店、学校給食といった出荷先の違いは、パッケージ後の外観や製品の量に表れます。


たとえば学校給食向けの乳製品であれば、子ども用の小さな紙パックに入った牛乳や、給食サービス会社向けの巨大なチーズ袋といったパッケージングになります。


一方、飲食店向けになると5ガロン(約19リットル)入りの巨大な容器、あるいは40ポンド(約18kg)の巨大なチーズブロックなどのパッケージングで……


一般的な飲食店に売っている乳製品とはまるで違います。


特定の出荷先に特化した加工業者の施設には、出荷先を即座に切り替えるためのパッケージが用意されておらず……


巨大なチーズブロックを消費者向けの扱いやすいサイズにカットするためには、数百万ドル(約数億円)もする新たな機械を導入しなければなりません。


ミネソタ州の酪農家であるGarrett Luthensさんは、学校給食向けの乳製品は専用の工場を使って生産されていると指摘。普段と違うサイズの容器を食料品店に並べたり家庭に配送したりしても、一般的な家庭には保存する冷蔵庫がないとのこと。


Messさんはできるだけ早くパッケージの切り替えを行っているそうですが、「これは前例のないことです」と述べています。


余剰製品をフードバンクに送るケースもありますが、巨大な容器に入った乳製品を適切に保管する巨大な冷蔵庫や、腐りやすい製品を流通させる上で十分な人員が足りていないそうです。


また、たとえ全ての余剰となった牛乳を食料品店に出荷できたとしても、一般家庭の消費者だけでは飲食店や学校給食の需要を補うことはできないとのこと。そのため、結果として信じられない量の食品廃棄につながっています。


ウィスコンシン州の酪農家であるJoe Statzさんは、2020年3月1日から牛乳の廃棄を始めており、1日当たり4万2000ガロン(約15万9000リットル)もの牛乳を捨てていると述べました。


新型コロナウイルスの影響は廃棄だけでなく、牛乳の価格そのものにも大きな悪影響を及ぼしています。新型コロナウイルスの流行がスタートしてから、100ポンド(約45kg)あたりの牛乳の価格が4ドル(約440円)近くも急落。


Statzさんが出荷している牛乳は、2019年12月から2020年6月までの半年間で価格が半分以下になったとのことで、Statzさんはとても採算が取れないと訴えています。


カリフォルニア州の酪農家であるDennis Leonardiさんは生産コストや流通コストがかかる「有機牛乳」を生産していますが、今では通常の牛乳と同じほどに価格が低下していると述べています。


乳製品業界は以前から値下げに苦しんでおり、2015年頃にも牛乳価格は大幅に下落していました。新型コロナウイルスの流行は、牛乳価格が徐々に値上がりしてきた矢先の打撃でした。


この下落は、一部の業者が非常に大きな工場での効率的な生産を始めたことや、貿易摩擦による乳製品の輸出減少、牛乳の代替品を選択する人の増加などが、原因だと見られています。


2015年には4万5000軒を超えていた酪農家の数は、2019年までに1万1000軒も減少。1日当たり9軒もの酪農家が廃業している計算となり、この数は新型コロナウイルスの流行によって加速する可能性があります。


酪農協同組合は加入している酪農家同士で負担を分担し、生産の割当量を制限して危機を乗り越えようとしていますが……


経済的な困窮によって乳牛を売り払ったり、廃業したりする酪農家は増加するだろうと見られています。


Statzさんも牛乳の生産量を10%削減しなければならず、乳牛を売り払うことを余儀なくされているとのこと。


アメリカ政府はこれらの損失の一部を補償し……


余剰となった乳製品をフードバンクに供給するための資金を提供するなどの対策を取っています。


これは酪農家が危機を乗り越える上で重要なステップと言えますが、恩恵を受けるのは小規模な酪農家ではなく、より大きな酪農家だとの指摘もあります。


酪農家たちは不確実な状況に直面しており、よりよい計画が必要だとLeonardiさんは指摘。


別の方法としてはピザチェーンにアピールしてチーズの使用量を増やしてもらうなどのロビー活動や……


乳製品の供給価格を安定させるため、アメリカ政府がさまざまな制限を設けることなどが考えられます。


サプライチェーンの問題は乳製品だけでなく、農産物を生産する多くの農家にとって打撃です。


また、せっかく生産した食品を廃棄することは、経済的なもの以上に精神的なダメージも大きなものです。Messさんは、生産した食品が無駄に捨てられることはとても辛いと訴えました。


なお、同様の問題は日本でも発生しており、イベント中止や飲食店の休業によって在庫を抱えた事業者や生産者がフードロスを削減するため、余剰となった食品を通販するプラットフォーム販売会なども登場しています。

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in 動画,   , Posted by log1h_ik

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