気温が高い場所に住む人は深刻な視覚障害を患う可能性が高いという研究結果、温暖化により人々の視力が悪化する可能性も
気候変動による気温上昇は単に熱中症のリスクを高めるだけでなく、人間の認知機能やメンタルヘルスの問題、自殺率など幅広い健康状態に影響を及ぼします。170万人以上の高齢者から収集したデータを基にした新たな研究では、「気温が高い場所に住む人は深刻な視覚障害を患う可能性が高い」という結果が示されました。
Full article: Association Between Area Temperature and Severe Vision Impairment in a Nationally Representative Sample of Older Americans
https://doi.org/10.1080/09286586.2023.2221727
Higher average temperature linked to serious | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/994061
Climate change could raise risk of vision impairment: study | CTV News
https://www.ctvnews.ca/climate-and-environment/could-climate-affect-our-eyes-canadian-study-finds-higher-temperatures-linked-with-vision-impairment-1.6465207
視覚障害は40歳以上の1200万人を超えるアメリカ人に影響を及ぼしており、その大多数は65歳以上の高齢者です。視覚障害によって生じる医療サービスや介護のコスト、さらに生産性の損失といった間接的なコストを含めると、視覚障害は年間で約350億ドル(約5兆1300億円)もの損失をもたらしているとのこと。
これまでに気温の上昇が結膜炎の発生率増加と関連しているという研究結果や、緊急の眼科受診件数の増加と関連しているという研究結果などが報告されており、気温の上昇が人間の目に悪影響を与える可能性が示唆されています。
そこでカナダ・トロント大学の研究チームは、American Community Survey(全米コミュニティ調査)が2012年~2017年にかけて収集したデータのうち、生まれてからずっと同じ州に住んでいる65歳以上の高齢者170万人超のデータを分析しました。全米コミュニティ調査の一環として、被験者には「盲目ですか?それとも眼鏡をかけていても深刻な視覚障害がありますか?」という質問が与えられており、この結果を基に被験者が視覚障害者かどうかを調べたとのこと。
研究チームは被験者の回答結果に加え、アメリカ海洋大気庁の気象データから判明したその被験者が生まれた郡の平均気温を分析し、生まれてから住んでいる場所の平均気温と視覚障害の関連について調査しました。
その結果、データセットの中で最も涼しい「平均気温がセ氏10度未満の郡」に住む人々と比較して、「平均気温がセ氏10度~12.7度未満の郡」に住む人々は視覚障害のリスクが14%高いことが判明。この数字は徐々に高くなっていき、「平均気温がセ氏12.7度~15.4度未満の郡」に住む人のリスクは24%、「平均気温がセ氏15.5度以上の郡」に住む人のリスクは44%高かったと研究チームは報告しました。
重度の視覚障害と平均気温との関連は被験者の年齢・性別・収入・教育レベルに関係なくみられましたが、特に65~79歳・男性・白人において関連性が強かったとのことです。今回の研究はあくまで関連性について調査したものであり、因果関係を証明したわけではありませんが、研究チームは紫外線への暴露や大気汚染、高温に伴う葉酸の分解などが原因の可能性があると考えています。
論文の共著者であるZhiDi Deng氏は、「深刻な視覚障害は転倒や骨折のリスクを高め、高齢者の生活の質に悪影響を及ぼします。また、視覚障害のケアによってアメリカ経済は毎年数百億ドル(数兆円)の損失を被っています。そのため、この気温と視覚障害の関連はかなり気がかりです」とコメント。
トロント大学の大学院生で論文の筆頭著者を務めたエリシア・フラー・トムソン氏は、「視覚障害と気温の関係が、収入を含む多くの人口統計学的要因にわたり一貫していることがわかりました」「視覚障害と平均気温の間にこのような関連性があることは、今後の研究で因果関係があると判明すれば非常に心配です。気候変動に伴って世界の気温が上昇することが予想されます。今後、高齢者における視覚障害の有病率が増加するかどうかを監視することは重要です」と述べました。
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