Appleシリコン向けLinuxの「Asahi Linux」がOpenGL ES対応のGPUドライバーを公開

Apple独自開発のMac向けチップであるAppleシリコンを搭載したMac上で動作するLinuxの「Asahi Linux」が、OpenGL ESバージョン3.1に対応したGPUドライバーを発表しました。

Rosenzweig – The first conformant M1 GPU driver
https://rosenzweig.io/blog/first-conformant-m1-gpu-driver.html

Asahi Linuxの開発者であるアリッサ・ローゼンツヴァイク氏が、M1チップやM2チップといったAppleシリコンに準拠した、世界で唯一のOpenGL ESバージョン3.1に対応したAsahi Linux向けオープンソースGPUドライバーを発表しました。

asahi / mesa · GitLab
https://gitlab.freedesktop.org/asahi/mesa

ローゼンツヴァイク氏はAsahi Linux向けのGPUドライバーを開発してきた人物で、2022年12月にはAsahi Linux向けの初のGPUドライバーを実装しました。

Apple M1環境でLinuxを動かす「Asahi Linux」向けのApple GPUドライバーがついに実装される - GIGAZINE

Asahi Linux向けのGPUドライバーがOpenGL ESバージョン3.1に対応したことについて、ローゼンツヴァイク氏は「我々の開発するドライバーが正確性を証明するための何万ものテストに合格し、業界で認められたことを意味します」と語っています。

OpenGL ESバージョン3.1の対応には、仕様のすべての機能を検証するよう設計された公式の適合テストスイートに合格する必要があります。テスト結果は標準化団体であるKhronosに提出され、30日間の検証期間後、問題が見つからなかった場合は実装が承認されることとなるそうです。

今回リリースされたGPUドライバーは、OpenGL ESバージョン3.1に対応しているだけでなく、M1のグラフィックス標準に準拠した最初の実装でもあるとのこと。ただし、ローゼンツヴァイク氏は「ここで止まるつもりはありません」と述べており、今後もGPUドライバーの改良を続けると明言しています。

なお、Appleシリコン向けの純正ドライバーとAsahi Linux向けGPUドライバーの違いについて、ローゼンツヴァイク氏は「残念ながら純正ドライバーは、VulkanやOpenGL、OpenGL ESといった標準グラフィックスAPIに準拠していません。そのため、これらを利用するアプリケーションがAppleシリコンで動作するという保証はありません」と言及。

独自のドライバー上にVulkanのサブセットを重ねるMoltenVKのようなツールを使って疑似的にAppleシリコンが対応していない標準グラフィックスAPIに対応しようとするケースもありますが、こういったツールでは重要な機能が欠けており、有効なアプリケーションが使えないケースがあるそうです。

Appleがこれらの標準グラフィックスAPIに準拠していないにもかかわらず、Asahi Linuxが独自にこれらの規格の実装を進めている理由について、ローゼンツヴァイク氏は「何よりも品質へのこだわりがあります。私たちは、Linuxドライバーが信頼できることをユーザーに知ってもらいたいと考えています。私たちは、M1固有のハックや移植を行わずに標準ソフトウェアを実行できるようにしたいと考えています。私たちはエコシステムに正しい例を示したいと考えています」と述べました。

なお、今回Asahi Linux向けのGPUドライバーが対応したOpenGL ESのバージョン3.1では、グラフィックスアプリケーション内での一般的なコンピューティングを高速化するための計算シェーダーが追加されており、3Dゲームの物理シミュレーションなどを実行可能となっています。これにより、CPUとGPUの物理シミュレーションを同期するために必要となるストールを排除可能となり、ゲームの実行速度が向上します。