アルプスの氷河で見つかった古代人「アイスマン」はヨーロッパ系の白人ではなく西アジア系で肌の色も暗かったことが最新のDNA分析で判明
1991年にアルプス山脈のイタリア・オーストリア国境付近で見つかった約5300年前の男性のミイラ「アイスマン」は、氷河で見つかったミイラの中でも特に保存状態がよく、これまでにさまざまな研究が行われてきました。そんなアイスマンの外見予想図は「金髪の白人」とされることがほとんどでしたが、新たなDNA分析ではアイスマンの祖先が「アナトリア(現代のトルコ)の農民」であり肌の色が暗かったことが示されたほか、円形脱毛症や肥満の素因を持っていたこともわかりました。
High-coverage genome of the Tyrolean Iceman reveals unusually high Anatolian farmer ancestry: Cell Genomics
https://doi.org/10.1016/j.xgen.2023.100377
Reanalysis of Iceman Ötzi’s genome reveals da | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/998276
The Famous 'Iceman' Ötzi Is Not Who We Thought He Was : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-famous-iceman-tzi-is-not-who-we-thought-he-was
Ötzi the Iceman may have been bald and getting fat before his murder 5,300 years ago | Live Science
https://www.livescience.com/archaeology/otzi-the-iceman-may-have-been-bald-and-getting-fat-before-his-murder-5300-years-ago
アイスマンは1991年にアルプス山脈のイタリア側で発見されたミイラであり、放射性炭素年代測定などによって紀元前3350~3120年頃の遺体であることがわかったほか、死亡時の年齢は46歳前後であり、死因は何者かに襲われたことによる失血死であることも判明しています。ミイラとなったアイスマンの外見がどのようなものかは、以下の記事を読むとわかります。
氷河の中で見つかった男性のミイラ「アイスマン」をじっくりと見られる「Iceman photoscan」 - GIGAZINE
そんなアイスマンはイタリアで見つかったこともあり、長らく「金髪で髪の長い白人」として描写されてきました。アイスマンのDNAを分析した2012年の研究でも、イタリアのサルデーニャ島にルーツを持つサルデーニャ人と密接に関連していることが示唆され、アイスマンは東部の狩猟採集民と白人の狩猟採集民の子孫であると推定されました。
ところが、2012年の時点では、アイスマンと同年代である紀元前3000~4000年のヨーロッパ人に関するゲノムデータが不足していたとのこと。近年の研究により、アイスマンと現代のサルデーニャ人における遺伝的類似性は、新石器時代にヨーロッパ全体に広がった共通の遺伝的要素であることが示されています。また、2012年のゲノムデータは現代のヒトDNAにより汚染されていたことも示されており、正確な結論を導き出すには不十分だそうです。
そこで、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所が率いる研究チームは、2012年の研究と同じ骨盤の一部からDNAを採取し、最新のゲノムシーケンス技術を用いてDNA分析を実施しました。
分析の結果、同時代のヨーロッパの集団と比較したとき、アイスマンは異常に高いレベルでアナトリアに住んでいた農民の遺伝子を色濃く受け継いでいることが判明しました。研究チームによると、アイスマンの祖先は92%以上が新石器時代のアナトリアの農民にルーツを持っており、ヨーロッパの狩猟採集民との遺伝的交流はそれほど進んでいなかったとのこと。
この知見は、アイスマンの祖先がアナトリアからヨーロッパへと移住した後も、他のヨーロッパの狩猟採集民族からかなり孤立した状態にあったことを示唆しています。この理由については、アルプス山脈が交流の障壁になった可能性があると指摘されています。
また、アイスマンは現代のヨーロッパ人よりも高レベルの皮膚の色素沈着を引き起こす遺伝的要因に加え、糖尿病・肥満・男性型脱毛症に関連する遺伝子を持っていたことも判明しました。これらの要素は、これまで考えられてきたアイスマンの「金髪の白人」というイメージを覆すものです。
論文の共著者でマックス・プランク進化人類学研究所の研究者であるヨハネス・クラウゼ氏は、「ゲノム解析の結果、高レベルの肌の色素沈着や暗い色の目、男性型脱毛症などの表現型が明らかになりました。これらは、明るい肌、明るい目、かなり毛深い男性を示すこれまでの復元とはまったく対照的です」「ヨーロッパの石器時代の人間という私たち自身の先入観によって、この復元がいかに偏っているかは注目に値します」と述べました。
by Nikky
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