認知能力を向上させるといわれる「スマートドラッグ」は複雑なタスクの解決能力を損なってしまうという研究結果
近年は大量の勉強を強いられる学生や金融業界などの激しい競争環境で働く労働者、シリコンバレーの起業家といった人々の間で、認知能力を高めるといわれている薬物「スマートドラッグ」が人気を集めています。主なものとしてはADHD治療薬であるメチルフェニデート(リタリン)やデキストロアンフェタミンなどが挙げられますが、オーストラリアやイギリスの研究チームが発表した論文では、「スマートドラッグは実際のところ複雑なタスクの解決能力を損なう」という結果が示されました。
Not so smart? “Smart” drugs increase the level but decrease the quality of cognitive effort | Science Advances
https://doi.org/10.1126/sciadv.add4165
'Smart drugs' make you worse at solving complex problems, new study finds
https://theconversation.com/smart-drugs-make-you-worse-at-solving-complex-problems-new-study-finds-207711
一部のADHDやナルコレプシーの治療薬は「スマートドラッグ」として学生や労働者から人気を集めており、使用者は「頭がすっきりして認知能力が上がり、通常時と比べて生産性が向上する」といった効果を報告しています。しかし、障害や疾患を持たない人々がこれらの薬物を摂取した時にどういう効果が出るのかについての科学的な影響は、あまりよく理解されていないとのこと。
そこで研究チームは、スマートドラッグとして一般的なメチルフェニデート・モダフィニル・デキストロアンフェタミンの効果を調べる実験を行いました。これらの薬物は主に、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの量を増やすなどの作用を持っており、注意力やモチベーション、覚醒度などに変化をもたらすとされています。
これらの薬物を非ADHDの人が摂取した場合の影響を調べた過去の研究では、数字の記憶や空間移動問題といった単純なタスクにおいて改善がみられたとのこと。しかし、現代社会において医師の処方外でスマートドラッグを服用するような人々が求められているのは、さまざまな認知タスクを統合する複雑かつ創造的な問題解決能力であるため、研究チームは「ナップザック問題」と呼ばれる複雑なタスクを用いて実験を行いました。
ナップザック問題とは、荷物の最大重量が決められているナップザックにさまざまな重量と価値を持っている品物を詰めていき、ナップザックに収まる重量の範囲で品物の合計価値を最大化するというタスクです。これは「一定の制約の下で価値を最大化する」という、現実世界で広く見られるタスクを具体化したものと考えることができます。
研究チームはADHDを持たない18~35歳の被験者40人を募集し、4週間にわたって4つのテストセッションに参加してもらいました。被験者はそれぞれのセッションで、メチルフェニデート・モダフィニル・デキストロアンフェタミン・偽薬のいずれかを摂取し、8つのバリエーションと5つの難易度を持つさまざまなナップザック問題を解きました。被験者には問題ごとに最大4分間の思考時間が与えられ、最も品物の価値が高くなると思ったタイミングで答えを提出したとのこと。
実験の結果、偽薬ではなく3種類の治療薬のいずれかを服用した被験者は、ナップザック問題を完了するのにより長い時間がかかる上に、最適な組み合わせを見つけられない頻度もより高くなりました。つまり、スマートドラッグを服用するとタスクに費やす時間とパフォーマンスの両方が悪化し、生産性が下がることが示唆されたというわけです。
さらに、個々のパフォーマンスを調べたところ、偽薬を服用したセッションで平均以上の成績を収めた人は、スマートドラッグを服用した際の成績が悪化する可能性がより高いこともわかりました。
研究チームは、「ADHDではない人、特にすでに高いパフォーマンスを発揮している人が、職場や勉強で優位に立とうとしてこれらの薬を服用すると、思わぬ結果を招く可能性があります。認知能力は複雑なものであり、それを向上させる近道はありません」と述べました。
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