サイエンス

AIが調査に数週間以上かかる抗老化薬の候補となる分子を数分で導き出したことが報告される、創薬プロセスの加速が進む可能性


薬剤の発見や設計を行う「創薬」のプロセスでは、目的の薬剤を作り出すための候補となる化合物や化学物質の選定や、作用のスクリーニングの過程が必要です。創薬の過程では多額の費用や長い時間を要しますが、機械学習を行うことで、AIがわずか5分で抗老化薬の候補の分子を導き出したことが、エジンバラ大学のヴァネッサ・スマー・バレット氏らの研究チームによって報告されています。

Discovery of senolytics using machine learning | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-023-39120-1


AI finds drugs that could fight ageing and age-related diseases
https://theconversation.com/ai-finds-drugs-that-could-fight-ageing-and-age-related-diseases-208390


老化細胞と呼ばれる細胞は、さまざまなストレスによって染色体に傷が入ることで、不可逆的に細胞分裂が停止した細胞です。体内で老化細胞の数が増加すると、2型糖尿病や新型コロナウイルス、間質性肺炎変形性関節症、がんなどの疾患を発症するリスクが高まると考えられています。

これまでの研究では、マウスに対して抗老化薬を投与して老化細胞を排除することで、これらの病気のリスクを低減できることが示されています。また、これらの薬品は健康な細胞に対して悪影響をもたらすことなく、老化細胞だけを効果的に殺すことが可能です。

これまでに約80種の抗老化薬が発見されてきましたが、実際に人間に対する臨床試験が行われたのは、ダサチニブとケルセチンの組み合わせの2種類だけでした。さまざまな病気で用いることができる抗老化薬が発見されることが望まれていますが、創薬や製造などを経て薬剤が市場に出るまでには、数十年もの歳月と数十億ドル(数千億円)もの費用がかかることが問題視されています。


そこでバレット氏らの研究チームは、新たな抗老化薬を特定するために、AIを用いた機械学習モデルの訓練を行いました。研究チームはAIに対して既知の抗老化薬と非抗老化薬の例を与え、この2つを区別させる学習を行いました。

今まで見たことがない分子が抗老化剤になりうるかどうかを予測する学習の結果、AIに対して4340種類の分子を与えると、わずか5分後にAIは結果のリストを表示しました。AIが提示したリストには、21種の抗老化薬である可能性が高い分子が含まれていました。


バレット氏は「もしも私たちが4340種類もの分子から抗老化薬の候補となる分子の特定を行うとなると、少なくとも数週間以上の期間と5万ポンド(約900万円)以上の費用がかかったでしょう」と述べています。

研究チームは次にAIが発見した抗老化薬の候補を元に、正常な細胞と老化細胞にどのような効果があるのかをテストしました。テストの結果、21種類の化合物のうち、ペリプロシンオレアンドリンギンクゲチンの3種類は、正常な細胞に影響を与えることなく老化細胞だけを除去することに成功しました。


これら3種の抗老化薬の候補となる分子が動物の体内でどのように作用するかを詳細に調査するため、研究チームによってさらなるテストが行われました。結果としてこれらの候補のうち、オレアンドリンは既知の抗老化薬よりも効果が高いことが判明しています。

バレット氏は「AIを用いた機械学習が、十分な品質のデータを提供してくれることが確認できれば、化学者や生物学者が病気の治療法や薬品の開発を行うプロセスを加速させることが可能です」と述べています。

研究チームは実験で発見された3種類の分子を人間の肺組織でテストを行っており、結果は2025年に報告される予定です。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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