がんの治療に「最適な時間帯」が存在するかもしれない
人間の体内では血圧やホルモンの産生、免疫細胞の活動、エネルギーの代謝に至るまで、さまざまな活動が概日リズムという約24時間周期のリズムに影響を受けています。近年では、正常な体細胞だけでなくがん細胞の活動も概日リズムによって変動していることがわかっており、非営利の医療研究施設であるスクリプス研究所で分子医学を研究するカチャ・ラミア氏は、「がんの治療にも概日リズムが影響するかもしれない」と科学系メディアのLive Scienceに語っています。
Does it matter what time of day you get cancer treatment? | Live Science
https://www.livescience.com/health/cancer/does-it-matter-what-time-of-day-you-get-cancer-treatment
近年の研究では、がん細胞の活動には24時間周期の概日リズムが存在することがわかっています。がん患者から採取した血液を分析した2022年の研究では、がん組織から遊離して血液中を循環する血中循環がん細胞(CTC)の量が、午前10時のサンプルと比較して午前4時のサンプルでは約4倍も多いことが報告されました。
がん細胞の活動には24時間のリズムが存在する、がん細胞が活発化する時間帯とは? - GIGAZINE
がんを患う人間の体に24時間周期の概日リズムが存在し、治療の標的であるがん細胞も概日リズムを持っているということは、がんの診断や治療にも概日リズムが密接に関わる可能性を示唆します。ラミア氏は、「正直に言って、概日リズムに基づくがん治療は大きな可能性を秘めていると思います」と述べつつも、治療薬を投与するタイミングが及ぼす実際の影響はそれほど理解されていないと指摘しています。
ラミア氏の研究チームは、病気の発症や治療について概日リズムが及ぼす影響について研究しています。過去の研究では、2型糖尿病の治療薬であるメトホルミンが肝臓で代謝される速度が、マウスの概日リズムによって大幅に変化することが示されました。また、別の研究では薬物の代謝に関わる遺伝子のオン/オフの切り替えが概日リズムによって左右されており、薬物の効果が投与されるタイミングによって異なることもわかりました。
がんの分野では、夜勤労働者などに見られる概日リズムの乱れが、がんのリスク増加に関連する理由についての観察研究を行っています。ラミア氏らの研究チームは、細胞がDNAの損傷を検出して修復する速度が概日リズムによって調節されており、この機能の乱れががんの発症リスクを増加させているのではないかと考えているとのこと。
近年の研究により、概日リズムの乱れががんのリスクを高めるという証拠が増えており、2023年3月のレビューでは概日リズムの影響はがんの種類によって異なる可能性が示唆されています。このレビューによると、がんが転移しやすい時間帯はがんの種類によって異なっており、乳がんは患者が眠っている間に転移する可能性が高い一方、前立腺がんや多発性骨髄腫は日中に転移のピークに達するそうです。
がん治療の時間帯がもたらす影響については1980年代から研究が進められており、すでに転移性の結腸・直腸がんおいては「日中に1つの化学療法薬を注入して、夜間には別の化学療法薬を注入する」という治療スケジュールが、副作用や生存期間の面でメリットをもたらすという研究結果があります。卵巣がん患者や急性リンパ芽球性白血病、脳腫瘍の一種である膠芽腫(こうがしゅ)などでも、治療スケジュールの時間帯によって副作用や生存期間が改善したという研究結果が報告されています。
また、抗がん剤による治療だけでなく、体内の免疫システムを標的にしたがん免疫療法においても概日リズムが役立つ可能性があります。2021年の研究では、悪性黒色腫(メラノーマ)の患者に対してがん免疫療法を16時30分より前に実施した場合、16時30分以降に実施した患者と比較して生存期間が約2倍になったことが示されました。
これらの研究結果は、がん治療において概日リズムが重要な役割を果たしている可能性を示唆しています。しかし、すべての研究結果が時間帯に応じたがん治療を支持しているわけではなく、結腸・直腸がんや卵巣がんの治療において、時間帯に基づいた治療スケジュールが有益な効果をもたらさなかったという研究結果もあるとのこと。
がん治療における概日リズムの重要性を示唆する研究は増えつつあるものの、がん化学療法の専門家が納得するにはさらに大規模な臨床研究が必要だとのこと。また、概日リズムによる反応は患者の性別によっても左右される可能性があることから、性別ががん治療の最適な時間帯に与える影響についても調査する必要があるそうです。
ラミア氏は、以前としてがん治療と概日リズムの研究は以前として初期段階にあり、さまざまな抗がん剤の効果に投与する時間帯がもたらす影響は十分に理解されていないと指摘。その上で、「この分野の潜在的なインパクトは非常に大きいと思いますが、とても複雑な問題であるため、本当に変化をもたらすにはかなりの労力が必要でしょう」と述べました。
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