サイエンス

ガン治療は本当に進歩しているのか?生存率の上昇は「治療」ではなく「早期発見」によるという可能性

by Kendal James

ガン発症後の5年生存率は上昇しているといわれていますが、これは早期発見の技術が発達した結果であり、ガン治療そのものが進歩したわけではないと指摘されることがあります。そこで、精神科医のScott Alexanderさんが、これまでに発表された研究から、ガン治療が進歩しているのかどうかを検証しています。

Cancer Progress: Much More Than You Wanted To Know | Slate Star Codex
https://slatestarcodex.com/2018/08/01/cancer-progress-much-more-than-you-wanted-to-know/

まずアメリカにおけるガン発症率のグラフを見てみると、1990年代のピーク以降は減少傾向に転じているものの、全体的には1975年からかなり増加していることがわかります。ただしこのグラフの背景には平均寿命の伸びがあり、ガンのリスクが高い高齢者の増加を受けています。


グラフを年齢の調整を受けた死亡率に変えると、ガン死亡率が1990年代に至るまで上昇し、それ以降は減少していることがわかります。


なぜ1990年代までガンの発症率や死亡率が上昇し続けたのか、という大きな原因の1つとして、喫煙があるようです。以下はガンの種類別に死亡率を示したグラフ。「Lung&bronchus(肺・気管支)」と示された赤いグラフが1990年代にいたるまで突出しており、上昇傾向にあることがわかります。


20世紀に入りタバコ作りの技術が向上し、人々が裕福になり、広告が発達したことで、喫煙者の数は飛躍的に上昇しました。喫煙率を示した以下のグラフでは1960~70年代がピークとなっていますが、肺&気管支ガンのグラフのピークのズレは、タバコがガンを引き起こすまでにかかる時間となっています。その後、喫煙率の低下と共に、肺&気管支のガンによる死亡率も減少していったとのこと。


また、ガン発症率を増加させることになった別の要素に、前立腺ガンがあります。1980年代後期、医師は当局から前立腺ガンを検査することが推奨されました。医師が小さなガンのサインを見逃さずに検査や治療を行った結果、数字としてのガン発症率が増加。しかし、前立腺ガンそのものが死に結びつくことが少ないため、1990年代に当局は方針転換を行い、熱心に検査が行われることはなくなったとのこと。

一方で、胃ガンは過去数十年で劇的に減少しました。これは複数の研究によって、食品加工技術の向上やヘリコバクター・ピロリに対する治療法の向上、ビタミンC摂取量の増加によるものだと示されています。このほか、大腸ガンの減少は前ガン症状であるポリープを結腸内視術で取り除けるようになったことが大きく、肝臓ガンの増加はC型肝炎ウイルスの流行に原因があったことなどがわかっています。上記のように、さまざまなガンの発症率や死亡率の増減にはそれぞれの理由がありますが、全体としては1990年代をピークに減少傾向にあります。

しかし、この減少理由の多くはガン治療の進歩によるものではなく、早期発見によるという可能性もあります。そこでAlexanderさんは、ガン治療の発達の影響度合いを見るには「ガンの診断が下された後にどのくらい生きることができるのか」を示す5年生存率を使うのが一般的だとして、以下のグラフを引き合いに出しています。

グラフは左から全てのガン、すい臓、肝臓、食道、肺&気管支、脳&その他神経系、卵巣、皮膚メラノーマ、前立腺という部位別になっており、青いグラフが1975~1977年、赤いグラフが1987年~1989年、緑のグラフが2002年~2008年の5年生存率。いずれも、時間が進むにつれ生存率が伸びていることがわかります。Alexanderさんは、「乳ガンや大腸ガンなど治療が大きく進歩したガンが含まれていないが、これが探し出した中で最良のグラフ」だとしています。


ただし、上記のグラフもまた、治療の進歩だけでなく早期発見技術の発達の影響を受けている可能性があります。2000年の研究結果では、「特定の腫瘍の5年生存率の変化と、腫瘍に関連した死亡率の変化の間には関係がほとんどなかったが、一方で5年生存率の変化と腫瘍の発見率の変化の間にはポジティブな関係が認められた」と示されました。もちろん、この研究は「ガンの治療は進歩していない」ということを示すものではありません。また、治療の進歩による影響が早期発見技術の進歩の影響の影に隠れてしまっている可能性もあります。

医師はガンを進展度ごとに分類しているため、Alexanderさんは各進展度の5年生存率を調べました。リードタイム・バイアスレングス・バイアスが発生していることも考えられるため、アメリカガン協会の研究者であるAhmedin Jemal氏が発表したデータを使用し、各進展度の患者の5年生存率の変化を見ることで、Alexanderさんはガン治療が本当に進歩しているのかを確認することに。

この結果、どの進展度においても、1975年から2012年の間で5年生存率は増加していたとのこと。しかし、この研究は「限局ガン」「領域浸潤ガン」「遠隔転移ガン」というたった3つの進展度で分類しており、もっと細かい調査でないとガン治療の進歩を証明しているとは言えないとAlexanderさんは述べています。「この調査は車を多く持っている人はより幸せだ、と示しているようなものです。しかし、ここには『車をたくさん持っている人はお金持ちだから幸せなのだ』という批判が考えられます」とAlexanderさん。


さらに細かくデータを分析した(PDFファイル)研究では、それぞれの進展度で発見される腫瘍が1975年以降小さくなっていることが示されています。この点、限局ガンの進展度にある乳ガン生存率の上昇の61%、そして領域浸潤ガンの進展度にある乳ガンの生存率上昇の28%が、腫瘍サイズが小さくなっていることで説明できるとのこと。ただし、生存率の上昇は腫瘍サイズとは関係ないとする研究も存在します。

このように、これまでの研究結果はさまざまであり、「ガン治療は進歩している/していない」という結論を出すまでには至っていないようです。Alexanderさんは、まだ観測されていない交絡が存在する可能性があることを示唆しつつも、現時点のデータからは「ガンの生存率は上昇しているように見える」と述べています。1970年以降、5年生存率は徐々に上がっており、進歩は「0ではない」という考えを示しました。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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