生き物

カニの生息数の減少が続くアラスカの海では気候変動による「ボレアル化」が進んでいることを科学者が警告

by Derek Keats

アメリカとロシアの間に位置するベーリング海はカニやサケの一大漁場として知られ、多くの漁師が一獲千金を目指して漁業を行っています。しかし、気候変動に伴ってベーリング海の海水温は上昇しており、ズワイガニが危機に陥っています。

Crab crisis in Bering Sea a sign of 'borealization' and big changes in the future, scientists warn - Alaska Beacon
https://alaskabeacon.com/2023/02/06/crab-crisis-in-bering-sea-a-sign-of-borealization-and-big-changes-in-the-future-scientists-warn/


ベーリング海におけるズワイガニの個体数は急激に減少しており、2022年10月の調査では、推定10億匹ものズワイガニが姿を消したとされています。急激な個体数減少を受けてアラスカ州漁業狩猟局(ADF&G)は2022年~2023年にかけてのズワイガニ漁を解禁しないことを発表していました。

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2023年1月下旬に開催されたアラスカ海洋科学シンポジウムでプレゼンテーションを行ったアメリカ海洋大気庁(NOAA)のマイク・リッツォウ氏は、禁漁につながるようなこのような状況が今後はより頻繁に起こる可能性があることに警告しています。

2022年からのベーリング海におけるズワイガニ漁が禁止されたことについてリッツォウ氏は、「ズワイガニ漁の禁漁を引き起こした要因は、産業革命以降、最も高い海水温が原因です」と述べています。さらに、リッツォウ氏は「2040年代までに、2022年のような状況が3年に1度の割合で起こると予測しています」と危惧しています。


リッツォウ氏によると、これまでベーリング海に生息していたズワイガニが急激に個体数を減少させている理由は、「ボレアル化」と呼ばれる事象が原因だとされています。「ボレアル化(borealization)」とは、とは、「Boreal(北方)」と「-ization(~化する)」という単語を組み合わせた造語で、ボレアリゼーションが発生すると、これまで南方の海域にいた生物が海水温の上昇に伴って北上するとされています。

ベーリング海に生息するズワイガニは冬の冷たい海氷と、北極海からの流氷が溶けて生じる寒冷な条件を好んでおり、特にベーリング海の南東に多く生息するとされていました。


しかし、気候変動による海水温の上昇により、ベーリング海では冬場でも気温が摂氏2度以上に上昇し、ズワイガニにとって理想的な環境ではなくなりました。さらに海水温の上昇に伴って、南方の海域からの幼いズワイガニを捕食するような海洋生物が北上し定住するようになりつつあります。その結果、ベーリング海に生息するズワイガニは、自身に適した水温と外敵の少ない海域を求めてベーリング海を越えてさらに北上しつつあると考えられています。

ベーリング海の漁業管理者は、カニの生息数を復活させるためにさまざまな計画を策定していますが、最終的にズワイガニはベーリング海を離れさらに北の海域に生息するようになるとされています。

気候変動に伴うボレアル化によって、2021年には、ベーリング海のズワイガニの個体数は過去50年で最も少なかったことが報告されています。この個体数の減少は、複数の段階を経て発生しました。

2018年に調査された際には、ベーリング海におけるズワイガニの個体数は過去最高だったことが記録されています。しかし、アラスカ大学のゴードン・クルーゼ教授は「その後の海水温の上昇と、記録的なカニの生息数が相まって、ズワイガニに必要なカロリーは2018年以前の約4倍にまで増加しました。その結果、エサが不足した多くのズワイガニが餓死してしまったと考えられます」と述べています。


ベーリング海漁業研究財団のエグゼクティブディレクターであるスコット・グッドマン氏によると、ベーリング海におけるカニ漁の禁止による損失は、アラスカ州が算出した約3億ドル(約420億円)にとどまらず、少なくとも10億ドル(約1400億円)に上るとのこと。グッドマン氏は「この数値はカニ漁の業界にとって難しい困難な状況です」と述べています。またグッドマン氏は、「アラスカでは、ズワイガニを処理するための主要な工場が現在閉鎖中です」と述べ「カニ漁を専門とするすべての船舶が停泊しており、ベーリング海のコミュニティにおける影響は深刻です」と語っています。

しかし、NOAAのコディアック研究所で働くクリス・ロング氏らが中心となって行っているプロジェクトでは、実験室内で育てられたカニの幼生を放流して自然に生息するカニの個体数を増加させる研究が行われています。

一方で、カニの幼生を放流しても天敵となる海生生物の格好のエサとなってしまい、結果として野生のカニの状況と変わらないことが現状となっていました。そこで2022年に可決された法律では、非営利のふ化場の認可を拡大し、カニの成長に必要な貝類の養殖を認める枠組みが作成されました。

ロング氏は「法律の制定によって資金援助を得ることで、このプロジェクトが成功すれば、将来的に人間の介入によってカニの個体数を回復させる可能性があります」と述べています。


一方でロング氏は、「ある場所ではカニの個体数の増加がうまくいくかもしれませんが、別の場所では失敗に終わる可能性があり、カニの個体数の増加は地域の環境や状況が重要になっているのかもしれません」と語っています。

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in 生き物, Posted by log1r_ut

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