サイエンス

「MLBのホームラン数が地球温暖化のせいで増えている」と研究者が主張

by Erik Drost

ホームランといえば野球の華であり、高々と舞い上がった打球がスタンドに消えるのを見守る心境は、打ったバッターだけでなくファンにとっても格別です。アメリカのダートマス大学で気候科学を研究しているクリストファー・キャラハン氏らの研究チームは、世界最高峰のプロ野球リーグ・メジャーリーグベースボール(MLB)のホームラン数と気温の関係を調査して、「地球温暖化の影響でMLBのホームラン数が増えている」と主張しています。

Global warming, home runs, and the future of America’s pastime in: Bulletin of the American Meteorological Society - Ahead of print
https://doi.org/10.1175/BAMS-D-22-0235.1


MLB home run counts are rising – and global warming is playing a role
https://theconversation.com/mlb-home-run-counts-are-rising-and-global-warming-is-playing-a-role-203226

Baseball home runs could increase by 10% in the next 80 years. Here's why | Live Science
https://www.livescience.com/baseball-home-runs-could-increase-by-10-percent-in-the-next-80-years-heres-why

アメリカとカナダに本拠を置く30チームから構成されるMLBのレギュラーシーズンでは、1チームあたり年間162試合を戦い、全チーム合計で年間約5000試合が開催されます。近年はMLBにおけるホームラン数が増加しており、1試合あたりのホームラン数が1本を超えるようになっているとのこと。

以下のグラフは、1963年~2022年の1試合あたりの平均ホームラン数を示したものです。全体的にホームランの割合は増加傾向にあり、2015年以降は連続して1試合あたりのホームラン数が1本を超えています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で試合数が少なかった2020年を除けば、2016年以降の年間ホームラン数は5000本以上になっています。


近年のホームラン数増加については、「フライを打ち上げる方がヒットの確率が上がる」という発想に基づいたフライボール革命や、野球のゲーム分析における精度の向上といった要因が挙げられています。しかし、ホームラン数の増加は選手やコーチらの影響だけでなく、その他の環境要因にも左右されている可能性があるとのこと。

キャラハン氏らは、「物理学は単純で説得力のある説を提供します。暖かい空気は冷たい空気よりも密度が低いです。空気が熱くなって分子の動きが速くなると、空気が膨張して分子間のスペースが広がります。その結果、打たれたボールは空気抵抗が少ないため、涼しい日よりも暖かい日に遠くまで飛ぶはずです」と述べています。


しかし、野球のボールが暖かい時により遠くまで飛ぶことは示されていたものの、実際に気温が本塁打数に関係することを示した科学的な調査は行われていなかったとのこと。そこでキャラハン氏らは、1962年~2019年のMLBで行われた10万以上の試合およびその日の気象データを分析する研究を行いました。

もちろん、1960年代以降の全打席内容を再現し、温度だけをホームランへの影響を評価することはできません。しかし、ボールの設計・選手のステロイド服用・ゲームの分析・球場間の標高差といったホームランに関連する各種要因と気温は関連性が低いため、「気温がホームランに与える影響を統計的に分離することは可能だ」とキャラハン氏らは主張しています。

また、2015年以降のMLBの球場に設置されたハイスピードカメラが計測した打球の発射角度および発射速度を調べることで、同じ発射角度と発射速度の打球の弾道が気温によってどう変化したのかを調べることも可能です。キャラハン氏らは、「ハイスピードカメラのモデルは、試合レベルのデータで推定したホームランに対する温度の影響をほぼ正確に再現しました。観測された試合の日の気温とホームランの関係を基に、気候モデルの実験を用いて、気候変動の影響でこれまでにどれくらいのホームランが発生したのかを推定できました」と述べています。

分析の結果、平均的な日より気温がセ氏10度高い日に行われた試合では、約20%もホームランが出る確率が高いことが判明しました。また、2010年~2019年にかけて発生した合計500本以上のホームランが、人為的な地球温暖化による空気密度の低下に関連している可能性があることもわかりました。

by Minda Haas Kuhlmann

キャラハン氏らの分析によると、このまま温室効果ガスの排出量が削減されなければ、気温上昇の影響で2050年までに年間192本、2100年までに年間467本もホームランが増加する可能性があるとのことです。

以下のグラフは縦軸が世界の平均気温(GMST)、横軸がMLBの各球場を示しており、気温上昇と年間ホームラン数の関連をマッピングしたものです。全体的に気温が上がるほどホームラン数が増えている一方、内部の気温を調整できる「・」で示されたドーム球場では、気温上昇によるホームラン数の変化が小さいことがわかります。


MLB球団が気温上昇がホームラン数に与える影響を制御する方法として、日中のデイゲームではなく夜間のナイターゲームを増やしたり、球場の上にドームを付けて内部の気温を調整したりすることが可能だとのこと。

キャラハン氏らは、「気温の上昇は野球選手・球場のファン・そして世界中の人々の健康と安全を脅かすことになります。温室効果ガスの排出を削減する真剣な取り組みがなければ、気温の上昇は野球のような文化的基準や基本的な人間の幸福に至るまで、社会のほぼすべての側面を変えてしまうでしょう」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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