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110マイル(177km/h)の速球が不可能な理由など野球の魅力「速球」を科学的に検証する


「人間の球速はどこまで伸びていくのだろう?」というのはいつの時代も野球ファンの大好きな議論のネタです。しかし、ある科学的な「速球」の検証では更新し続けてきた記録ももはや限界に達しており、「時速110マイル(約177km/h)」の速球は実現不可能だそうです。

Why It's Almost Impossible to Throw a 110 MPH Fastball | WIRED - YouTube


「ピッチャーが投げる『ファストボール(速球)』は野球の華」という野球関係者やファンは多いもの。


そんな野球の魅力の一つである「速球」のメカニズムについて、WIREDのロビー・ゴンザレス氏が取材しています。


ピッチャーは誰でも速球に魅力を感じ、少しでも速いボールを投げようとするものです。


その理由は単純で、速い球は打たれにくいから。メジャーリーグ最後の4割バッターのテッド・ウイリアムズは「速球を打つことは、あらゆるスポーツの中でも最も難しいことの一つだ」と言っています。


バッターにとって速い球を打つのが難しいからこそ、ピッチャーは速球を追求するというわけです。


近年、メジャーリーグのピッチャーの球速は上がる傾向にあります。2008年に時速100マイル(約161km/h)以上の速球を投げたピッチャーは18人おり、合計で196球の100マイル以上の速球が投じられました。


これに対して2017年に100マイル以上の速球を投げたのは40人、合計1017球もの100マイル以上の速球が投げられています。


「では一体、ピッチャーの球速はどこまで上がるのでしょうか?専門家によると、時速110マイル(約177km/h)は不可能です」


野球ファンは長年にわたってボブ・フェラーノーラン・ライアンのような剛速球投手の速球に魅了されてきました。


そして、現在の速球王と言えばヤンキースのアロルディス・チャップマン。最高時速105.1マイル(約169km/h)の世界記録を保持しています。


チャップマンのストレートの平均球速は時速101マイル(約163km/h)で、2017年には100マイル以上の速球を345回も記録。メジャーリーグ最高の速球ピッチャーと言えます。


ゴンザレス氏はピッチングメカニズム研究の権威であるグレン・フレイシグ氏に100マイルを超える速球を投げるピッチャーに必要な要素について尋ねました。


高い身長は重要な要素ではあるものの十分条件ではないとフレイシグ氏。身長6フィート(約182cm)の選手が6フィート10インチ(約208cm)の選手よりも速い球を投げたとしてもおかしなことではないとのこと。


フレイシグ氏はモーションキャプチャー技術を活用して、速い球を投げられるメカニズムを研究しています。


もちろん理想的な投球フォームで投げられれば、誰でも100マイルの速球を投げられるというわけではありません。


「あなたも私も100マイルの速球を投げられません。練習を重ねたとしてもあなたの球速は70~80マイル(約113~129km/h)が限界でしょう」


「また別の人は90~100マイル(約145~161km/h)に球速の限界があるでしょう」


「正しいフォームで投げられれば、その人が持つ限界のレベルまで達することができるというだけです」


フレイグ氏はゴンザレス氏のピッチングフォームを見て、ひじのしなりが足りないのでもっとボールを高く、膝を曲げて低い体勢で投げる必要があると指摘しました。


アドバイスを受けたゴンザレスの投球。


それでもメジャーリーグ選手の半分ほどの球速しか出ません。


「ピッチャーの球速はどこまで伸びるか?」という人間の球速の限界について尋ねるゴンザレス氏。


フレイグ氏は「105マイル(約169km/h)という記録はすでに限界に達していると思います。ピッチャーの平均球速はまだまだ上がるでしょうが、それは多くのピッチャーがトレーニングで筋力を鍛え最適な投げ方を習得することで自分の限界近くまで能力を高められるようになるからです」と述べています。


ピッチャーの球速に限界を課しているのは「ケガ」が一つの要因だとフレイグ氏は述べています。


速球を投げるとひじや肩に大きな負荷がかかります。速球を投げることでひじにかかる負荷は最大で100ニュートンメートルでこれは12ポンド(約5.4kg)のボーリング球5つ分に匹敵するものだとのこと。


強烈な負荷がかかることでじん帯や腱にわずかな亀裂が生じることがあり、速球を投げるほどにこの亀裂は広がっていきます。ピッチャーの球速が上がった結果、近年、トミー・ジョン手術をうけるピッチャーが急増しているという現実があります。


他のスポーツなどで記録がどんどんと伸びるのを見るのは非常に楽しいものですが、ピッチングに関していえば天井に到達しているとフレイグ氏は考えています。


選手生命を短くしかねない速球ですが、それでもピッチャーが速球を投げるのをいとわないのはなぜか?


それは、速球が三振を奪うための王道だから。


ピッチャーズプレートからホームプレートまでの距離、すなわちピッチャーからバッターまでの距離は60.5フィート(約18.4m)と決まっています。


より正確に言うと、リリースポイントが前にあることからピッチャーとバッターの距離は少し短い55フィート(約16.8m)


この距離を時速100マイル(約161km/h)の速球が移動するのにかかる時間はわずか0.4秒。


バッターの立場で見ると、ピッチャーの球のリリースを確認するのに必要なのが0.05秒。


そして、ミートするためバットを振るのに必要な時間は予備動作を含めて最短でも0.15秒必要です。


つまり、100マイルの剛速球を打つか打たないかを判断するのにバッターに許される時間はわずかに0.2秒ということになります。速い球であればあるほどバッターが判断に使える時間が短くなるというわけで、ピッチャーはバッターを打ち取る確率は高まるのです。


実際に速球を打つのがどれほど難しいのか体験するために、ゴンザレス氏はバッターボックスに立ってみました。


ピッチャーは元メジャーリーガーで現在はビラノバ大学で投手コーチを務めるケビン・マルビー氏。


元メジャーリーガーの球を打つのは非常に難しく、球にかすったのが2回だけという結果になりました。


デッドボールを恐れてインコースに投げ込めなかったというマルビー氏。もちろん疲れれば球速が落ち、投げミスも増えます。


しかし、まったくミスをせず球速も変わらないというピッチャーも生み出されています。


ビラノバ大学ではスクリーン上にピッチャーを再現するバーチャルバッティングマシンが開発されています。


VRの剛速球を体験するため、ゴンザレス氏はモーションキャプチャー機能の付いた特別なゴーグルをかけてバッターボックスに立ちます。


このバーチャルバッティングマシンではストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップなど球種は自由自在で、球速も高校レベルからメジャーリーグをも超えるレベルまで変更でき、スクリーンは5000ドル(約54万円)と比較的安価だとのこと。


実際にバッターボックスに立つと、ゴンザレス氏はメジャーリーグのピッチャーの球の軌道を確認できず。


ビラノバ大学の野球部でキャッチャーを務めるドーグ・デマライスさんは球種やコースなど球筋をしっかりと見極められます。


バーチャルバッティングマシンを開発したマーク・ジュピーナ氏。「120マイル(約193km/h)の球をお見せしましょう」


120マイルという人間が投げることは不可能な超速球にチャレンジするゴンザレス氏。


球が投げ込まれると、「無理だ」と苦笑いを浮かべるだけでした。


ジュビーナ氏が開発した別のバーチャルバッティングマシンに挑戦するゴンザレス氏。


VRヘッドセットを装着して、センサーの付いたバットを手にバッターボックスに立ちます。このマシンではバーチャル世界で投げ込まれた球を打つことができる模様。


時速111マイル(約179km/h)という人間の限界を超えた速球に挑戦して6回目にジャストミートに成功。


非常にうれしそうなゴンザレス氏。VRを使えば、現実には実現することのない速球を体験することは可能です。


ムービーで登場したフレイグ氏は110マイル(約177km/h)に到達することは不可能と述べていましたが、専門家の想定を裏切る規格外のスーパースターの登場を期待するのは野球ファンの性かもしれません。

金田正一氏 球速180km説を確かめる記者に「200kmかな」│NEWSポストセブン
https://www.news-postseven.com/archives/20160116_377916.html

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in サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

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