エベレストの地面には登山者がせきやくしゃみで放出した細菌が保存されている
世界最高峰として知られるエベレストには毎年多くの登山者が訪れており、厳しい環境でありながら人の出入りが多い場所です。新たな研究で、「エベレスト山頂に近い標高約8000m地点でさえ、登山者が運んできた細菌が保存されている」ことが判明しました。
Full article: Genetic analysis of the frozen microbiome at 7900 m a.s.l., on the South Col of Sagarmatha (Mount Everest)
https://doi.org/10.1080/15230430.2023.2164999
When someone sneezes on Everest, their germs can last for centuries | CU Boulder Today | University of Colorado Boulder
https://www.colorado.edu/today/2023/03/14/when-someone-sneezes-everest-their-germs-can-last-centuries
Everest Is Preserving The Germs Coughed And Sneezed Out by Climbers : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/everest-is-preserving-the-germs-coughed-and-sneezed-out-by-climbers
標高8848mのエベレストには年間数百人もの登山者が訪れており、登山ルートには過去の登山者が残した目印や登山用のロープが残されているほか、遭難した登山者の凍った遺体なども残されています。
標高と微生物の生息環境との関係について理解を深めるため、アメリカ・コロラド大学などの研究チームは、ネパール側ルートの最終キャンプ地となっている標高約7900mのサウスコルという地点で採取された土壌サンプルを分析しました。サウスコルは強風によって積雪がほとんどありませんが、気温が-33度に達することも多く、気圧は海抜0メートル地点の3分の1という過酷な環境です。
by Tirthakanji
研究チームは遺伝子シーケンス技術や培養技術を使用し、サンプル中に存在する微生物のDNAを生死問わず特定しました。また、DNA配列の広範なバイオインフォマティクス分析を行い、微生物の多様性についても調査したとのこと。
分析の結果、サンプルに最も豊富に含まれていた微生物は、極端な寒さや紫外線に耐えることが可能なNaganishia属の真菌でした。しかし、人間の皮膚や鼻において最も一般的な細菌の一種であるブドウ球菌や、人間の口内でよく見られるレンサ球菌など、人間と密接に関連する微生物のDNAも発見されました。
研究チームは過去にもアンデス山脈やヒマラヤ山脈、南極などの土壌サンプルの調査を行ってきましたが、このような極地でサウスコルほど人に関連した微生物が発見されるのは珍しいそうです。
論文の共著者でコロラド大学の進化生物学教授を務めるスティーヴ・シュミット氏は、「エベレストほどの標高がある場所でさえ、人間の痕跡が凍結したまま存在しています」「これらの微生物は、人間が鼻をかんだりせきをしたりした場合に見られるであろう種類です」と述べました。
通常、高地における強い紫外線や低温、水の少なさといった要因は微生物の生存を難しくします。しかし、今回発見されたブドウ球菌やレンサ球菌の一部は休眠状態であり、実験室で培養することもできたとのこと。
近年は地球温暖化に伴って、エベレストの平均気温も10年で約0.33度上昇しており、2022年7月にはサウスコルで観測史上最高気温の-1.4度を記録しました。科学系メディアのScience Alertは、「この温暖化傾向により、現在はサウスコルで活動していない生物が、将来的に活動するようになる可能性があります」と述べています。
研究チームは、今回発見された微生物がエベレストの環境に大きな影響を及ぼすとは考えていませんが、この研究結果は将来の地球外生命体探査に影響する可能性があります。シュミット氏は、「他の惑星や冷たい衛星に生命が見つかるかもしれませんが、地球の生命がその惑星を汚染しないように注意しなければなりません」とコメントしました。
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